幕間の楓恒⑨「丹恒よ、これはなんだ?」
丹楓が持っている写真は、いつだったかピノコニーで写真を撮りたいと呼ばれた時に列車の皆と一緒に撮ったものだった。
それを撮っていたのは、星のはずだが現像されているところを見ると三月あたりにデータが送られたのだろう。
どうしてそれを丹楓が持っているかはわからないが、眉間に寄った皺の深さから丹楓の機嫌があまりよくないことは伺い知れる。誰が丹楓に写真を渡したのかはわからないが、どうして渡したんだという気持ちになってしまうのも仕方がないだろう。
「記念撮影を行いたいと言うから付き合っただけだ」
「だけ?」
「そうだ、それ以上のものではない」
丹楓の眉間の皺は浅くなるどころか深さを増しているようだ。なんのせいでそんなに不機嫌になっているかわからず丹恒は首を傾げている。
はぁ、と大きく息を吐き出した丹楓は持っていた写真を懐に仕舞うと丹恒の手をとる。
「それならば、行くぞ」
「どこへ行くんだ」
「そうだな、噂のピノコニーとやらにするか」
どうしてそこへ行くのかわからずにきょとんとした顔をしている丹恒の手を引いて、丹楓は列車からおりピノコニーのホテルに入っていく。
星穹列車で借りられているホテルの部屋があるとは言え、ずかずかとホテル内に乗り込んでいく丹楓に着いていくことで精いっぱいだ。
部屋へ入りドリームプールに寝かせられている最中、丹楓は何も話さない。一体どうして突然こうなっているのかいまいちわからないまま、丹恒は目を閉じた。
「丹恒、起きよ」
「…丹楓、さっきからどうしたんだ」
「なに、もう少しでわかる」
「おい!?」
黄金の時で目を覚ました丹恒の手を当たり前のように握る。明確な目的地があるのか迷うことなく歩き続ける丹楓に手を引かれるまま足を動かすしかない。
クラークフィルムランドに入り、見覚えのあるパネルの前で手を離されてようやく丹楓が何をするためにここに来たのかを理解した。
「…丹楓」
「今カメラ役を呼んでおる、暫し待て」
「俺と写真が撮りたかったのか?」
丹恒のスマホを使っていた丹楓が指の動きを止めて顔をあげる。丹恒の方へしっかりと向いたその顔には何を当たり前のことを言っているとでも言わんばかりだ。
「他の者とは記念撮影とやらをするのに余とはしていないのはおかしいだろう?」
悪気は一切なく本当に心の底からそう思っているんだろう。そんな丹楓を見ていると、写真一枚でどうしてだという気持ちよりも撮っても良いだろうという気持ちになってしまう。
「パネルの穴は三つあるんだぞ、どうするんだ」
「…失念していた、蒼龍に入ってもらうとしよう」
「……それでお前が良いのなら良いが」