タグの楓恒「飲月、丹恒をちゃんと可愛がっていますか?」
白珠にかけられた言葉に丹楓は筆を走らせていた手を止め、顔をあげる。先ほどまで頭を抱えながら書類に向かっていた白珠は、書き終えたのか書くことを放棄したのか筆を置き丹楓へ真剣な眼差しを向けていた。
「可愛がるとは?」
「えっとですね、撫でたりとか、抱きしめたりとか、そういうことです」
「…それは必要なことなのか?」
白珠の話は長くなるだろうと、丹楓は持っていた筆を置く。
机越しに身を乗り出してくる白珠は、愛でることがどれだけ大事かを力説したいようで触れ合うことで信頼関係が構築されることもあれば、仲良くなれたり…と長々と話を続けている。
「なので、丹楓は丹恒を愛でてみてください!」
「…ふむ」
接する時間は多いとは言えないが、丹恒との時間をとるように丹楓とて気を付けていた。だが『愛でる』 に該当する行動をとっていたかと言われると、心当たりのようなものはない。
今日の仕事は此処までにして!とでも言わんばかりの白珠に背中を押され、丹楓は書斎を出ると自室の方へと向かう。
丹恒の行動を制限しているわけではないが、丹楓が傍にいない時の丹恒は丹楓の自室に居ることが多いためだ。
かたり、と音を立てながら扉を開けると予想通りに丹楓の自室に居た丹恒が扉の方を振り返る。
「ふーにぃ」
ゆらゆらと尾が揺れている。丹楓は丹恒の前に座りこみじっと丹恒の顔を眺めた。
「……ふーに?」
じっと見られていることが落ち着かないのかぱちぱちと大きな瞳を瞬かせた丹恒が首を傾げる。
そんな丹恒を見ながら丹楓は白珠に言われたことを思い出していた。撫でたりすると良いらしいと思い出し、丹恒の頭に手を伸ばすと絹のような手触りの髪に触れ、ゆったりと撫でる。
「……? う、ふーに…」
さらさらとした髪は丹楓が時間があるときに手入れをしているからか、触り心地が良い。
丹楓の名前を呼びながら、ゆっくりと瞬きをする丹恒の顔は部屋に入ってきた時よりも仄かに紅く瞳もとろとろと蕩けているようだった。
「ぅきゅ…」
髪を撫でていた手を頬へと滑らせ、手の甲を使い撫でてやれば蕩けたような声が聞こえてくる。手袋越しに感じる丹恒の頬は、ふにふにと柔らかく、肌もすべすべとしていてこちらも触り心地が良い。
「…きゅ、…」
頬から顎へと指先でなぞり、柔く擦れば丹恒の瞳が更に蕩けた色を帯びとろんと瞳が濡れる。触れた当初は驚きからかピンッと立ち上がっていた尾も、今は丹楓の指先や手の動きに合わせてゆらゆらと揺らめいていた。
「ぅきゅ…」
くるる…♡と丹恒から喉を鳴らすような声が聞こえてくる。余程心地良いのだろう。
「心地よいか」
「…ぅ…?」
指先の動きを止め、丹恒に問いかけるが心地よいという言葉の意味がわかっていないのか丹恒は首を傾げてしまった。
嫌な気持ちではないと思うが、丹恒がどのような心地になっているのかを知りたいと思う。
また、指先で丹恒に触れればまた小さく喉を鳴らした。
「丹恒、今どのように感じている?」
「……ぅ、…ふあふあ…」
「そうか…他にはあるか」
「ふーにぃの、なでなで……すき…」
「……そうか」
顎から喉元へと指先を滑らせ、壊れ物を触るかのように柔く触れ、撫でると丹恒の肌は耳まで紅に染まり、耳がへちゃりと力無く倒れる。
くるる…♡と喉を鳴らし続けながら、蕩けた表情をしている丹恒を他のものに見せてはならないと丹楓が考えていると腕に何かが当たり、そちらへと視線を向けた。
丹楓の腕に触れたのは丹恒の尾で、ゆらりゆらりと動いていたはずのそれは知らない間に丹楓の腕に触れ、拙いながらも腕に巻き付いてきている。
まるで離れないで欲しいとでもいうような動きに丹楓は小さく笑みを零す。
「丹恒」
「ん……」
「他の者にそのような顔を見せてはならんぞ」
「……ん」
丹恒がこくん、と頷いたのを確認してから丹楓は再び丹恒の喉を撫でる。
喉を鳴らし続ける丹恒は体を紅に染めながら、丹楓の指先の動きを受け入れ続けていた。