おしょたのお話尾をゆっくり振りながら丹恒くんが小さな箱をそっと覗きこみました。
中には様々な色の可愛い文字でいっぱいで、丹恒くんはその中を見つめてぱちぱちと瞬きをしています。
おつかれさまって、丹楓さん以外には言葉に出して言いづらい丹恒くんは丹楓さんの屋敷でこっそりと拾ってきた季節外れの紅葉にまだまだ拙い文字で『はなまる』を書いて、箱に入れるのか悩んでいるみたい。
どうしよう、入れないでおこうかな。
丹恒くんの尾が右に左にゆらゆら、ふらふら。 後ろ手に隠し持っていた葉っぱもゆらゆら、ふらふら。
入れてようか悩んでいた丹恒くん、突然後ろから抱き上げられて尾がピンッと跳ね上がっちゃったね。
「何をしている?」
「ふーに…」
抱き上げたのが丹楓さんだってわかった丹恒くんは跳ね上げてた尾をゆるゆる戻して、丹楓さんの髪にぽふりとお顔を埋めます。
「…、労いに来たのだろう?」
「……ん」
「ならば、入れてやればいい。葉は朽ちても、言の葉は朽ちないのだから」
「ん」
丹楓さんに背中を押された丹恒くん、小さな小さなおててでひらりと紅葉を箱の中に入れました。
「おちゅかれちゃま」
*****
お庭にある大きな木を丹恒くんは下から見上げているみたい。
ほんの少し前に、丹楓さんから前に書いたお手紙のお返事をもらって尻尾がピンッて跳ねちゃうくらい喜んじゃったんだね。
またお手紙を書きたくて、お庭にある楓の木から贈り物を見つけようと上を見てから下を見て、楓の葉っぱを探してる。
上にある葉っぱにしようかな。
でも下にある葉っぱの方が大きそうだね。
上に下に視線を動かすとそれに合わせて尻尾もゆらゆら揺れてる。
「丹恒」
少し離れた所で見守っていた丹楓さん、さすがに丹恒くんが目を回しそうだったから声をかけちゃった。
「ふーにぃ」
丹楓さんに名前を呼ばれて、振り向いた丹恒くん。
ちょっと葉っぱを探しすぎたのかな。振り向いた時にふらふらしちゃったね。
「落ちていないものはまだ生きている。生を刈り取ってはならぬ」
「…ん、…」
こくんっと丹楓さんの言葉に頷いた丹恒くん。
その場所でしゃがみ込むと、地面に落ちている葉っぱを一生懸命見つめてる。
どれにしようかなっていろんな葉っぱを手に取っては地面に返して、次の葉っぱに手を伸ばして。
あれ? また丹恒くんの尾が跳ね上がっちゃってるね。
「決まったか」
「ん!」
丹恒くんのおててからはみ出ちゃうくらい大きな大きな楓の葉っぱを見つけたみたい。
無事に見つかってよかったね。
*****
扉の影からひょっこりと顔を出した丹恒くん。右を見て、左を見て。
誰もいないことを確認してから、とてとてと小さな足音を鳴らしながら小さなお手紙の箱に近づいてきます。
もちもちのおててで箱に触れて、そっと中を覗き込んでいるみたい。
今日も箱の中にはたくさんの色とりどりのお手紙が入っていて、丹恒くんちょっとびっくりしちゃったのか尾をぴくっと震わせながら大きな瞳をまんまるにしてるね。
「う……」
前に出したお手紙をとっても喜んでいたって丹楓さんから聞いた丹恒くんは、どうしてもまたお手紙を出したくて小さな箱の所まで来たみたい。
でも、たくさん入っているお手紙を見てると自分のお手紙を入れていいのか迷っちゃうのかな。
ゆらゆら、ゆらゆら。右に、左に。尾を揺らしてる。
自分の手をちらちらと見ている丹恒くんはまだ緊張しているみたい。
今日の丹恒くんのきゅっと握った手の中には、今日の為にこっそりとってきた紅葉と、丹楓さんにお願いして用意してもらった紙に線の太さをばらばらにしちゃったけど頑張って『おつかれさま』って書いたお手紙があるんだね。
きゅってしちゃったからちょっと皺になっちゃったお手紙を小さなおててでゆっくりゆっくり撫でて皺を伸ばそうね。
なでなで。なでなで。
お手紙を撫でる動きに合わせて尾もゆらゆら、ゆらゆら。
跡はちょっと残っちゃってるけど、これならきっとお手紙が読めそうだね。
「…こー、…ふーにぃのなでなで、すき…」
お手紙をなでなでしながら、丹恒くんが内緒話をするみたいな小さな声で話してる。
「おてがみも…なでなで、すき…?」
丹恒くん、自分がなでなでしているお手紙にお話ししているみたい。
でも、お手紙は言葉をしゃべれないから何もお返事はなくて、丹恒くんの尾がちょっとだけへちゃって下がっちゃった。
「すき、なったら…うれしい」
ちいちゃくちいちゃく笑った丹恒くん、紅葉と一緒になでなでしていたお手紙を箱の中に入れてちょっと満足気。
今日は一人でちゃんとできたね。
「こー、きたの…ひみつ」
丹恒くん、もしかしたら丹楓さんに内緒で小さなお手紙の箱の所に来ちゃってたみたい。
丹楓さんが心配してるんじゃないかな。
来た時みたいに扉の影まで近寄って、右を見て、左を見て…あ!
「…ふーに……」
「こんな所で何をしている?」
いつから居たんだろう?
部屋の外に丹楓さんが居て、丹恒くんびっくりしちゃったね。尾がピンッで跳ね上がっちゃった。
「ふ、ふーに……みた…?」
「……、今しがた来たところだ」
丹楓さんの言葉に丹恒くんも一安心。
お手紙を入れにここに来たのはばれてないみたい。
「戻るのだろう?」
「……ん」
大好きな丹楓さんに手を差し伸べられて、丹恒くんも嬉しそう。
小さなおててだと丹楓さんの手はまだ大きすぎるのかな?丹楓さんの指をきゅっと握って、お部屋を後にするみたいだ。
「……また、…ばいばい」
丹楓さんにはばれないようにこっそり後ろを振り向いて小さな声でお別れの挨拶もできました。