幕間の楓恒㊼口づけを交わすときは目を閉じるべきだという話をしたのは丹楓の方だと言うのに、感じる視線から丹楓が此方をじっと見つめていることがわかる。
それならばと丹恒も目を開けていようとしたことが何回もあったが、唇が触れ合う直前、丹楓の顔や吐息をすぐそこに感じてしまうと恥ずかしさもあり目を閉じてしまう。
今日も丹楓の膝の上に抱きかかえられたと思った瞬間に近づいてきた丹楓の吐息に、ゆっくりと瞼を下ろしながら丹恒は丹楓の服の裾を握りしめてしまった。
だが、そんな二人の耳に届いた扉を叩く音に、丹恒はびくっと体を跳ね上がらせる。
「丹恒様、ご依頼を受けていた書物をお持ちいたしました」
「…ッ! あ、あぁ…」
そういえば、丹楓が部屋へと戻ってくる前に、指南書を探していると屋敷に居た誰かに頼んだかもしれない。
丹楓が部屋へと戻って来て、誘われるまま膝の上へと乗せられていた丹恒もすっかりと忘れていたそれを思い出す。なるべく早めに確認したかった書物のはずだと思い出し、丹楓の上から降りようと身じろいだが何故か丹恒の体を支えている丹楓の腕は少しもほどけそうにない。
それどころか余計に腕に力が籠ったような気さえする。
「…丹楓」
「書物等、扉の前に置かせればよかろう」
「俺の為に持ってきたものをそんな風には扱えない」
「…だとしても、今はだめだ」
「丹楓」
「だめだ」
その細腕のどこにこんな力があるのだろうか。
ぴくりとも動かない丹楓の腕に、丹恒は諦めたように息を吐きながら扉の向こうにまだいるであろう持明族へと声をかけようとする。
「すまない、…んむ」
「……、丹恒には余から渡しておこう。扉の前に置いておけ」
「しょ、承知いたしました」
丹楓の指先に声を押しとどめられ、ぱちりぱちりと瞬きをしながら丹楓へと視線を向けるが何を考えているのかはいまいちわからない。
だが、丹楓の言葉を受けて書物を届けに来た者は書物を扉の前へと置いて何処かへ行ってしまったのは気配で察することができた。
「……突然、なんだ」
「今、其方の目の前に居るのは余であろう? 余に集中せよ」
そう告げると再び唇を近づけてくる丹楓に、丹楓はもしかしたら書物を持ってきたと声を掛けられた時からずっと丹恒の意識を自分にだけ向けさせたかったのかもしれないという考えが丹恒の中で過ったが、考えすぎだろうと丹恒は頭を振る。
そんな丹恒の様子がわかっていながらなのか、わかっていないのかはわからないがゆっくりと近づいてくる丹楓に丹恒は小さく息を吐き出しながら再び瞼を閉じた。
「仕様がない奴だな」
そう呟いた丹恒ではあったが、その声は言葉とは裏腹に否定的な感情は含まれておらず小さく笑みを零すような声であることに丹楓は気づいていた。
だからこそ、離さなかったのだと心の中で呟きながら丹楓は唇を重ねた。