くっついてからすけべまでする予定の良乱の話良牙との関係を人に聞かれると、おれは友達だと答える。
友達にしてはどこかへ出かけることもしないし、一緒に遊ぶようなことも世間話のようなことをすることも少ないが。良牙とは手合わせをしているから、おれは良牙のことを友達と呼ぶ。
良牙がおれのことをどう思っているかはこの際置いておいて、だが。
勝ちたいとは常々言われるがそこまで嫌われてはいないだろうというのがおれの考えだ。
天気雨のせいで濡れてしまったところで見つけたのが良牙のテントだったおれは、ぶかぶかになって歩くことに向かなくなった靴を片手で持つと水たまりを避けながら空き地に建てられているテントまで駆け寄っていく。
ノックをする場所もないので、良牙の名前を呼びながらテントを開けた。
「おーい、良牙いるかー?」
「…なっ、らんま…! なんの用だ…」
「いやー、雨に濡れちまった所にテントが見えたから」
もう女の姿に変わっているから、このまま天道家まで帰ってもいいとは思うが。この時間に全身びしょびしょで帰っても風呂は沸いていない。
それに濡れたままというのも気持ち悪かった。
テントの入り口を向いて着ていた服を脱ぐと力いっぱい絞る。まだ雨が降っているからか絞った雨はびちゃびちゃと音を立てながら他の雨と混ざっていった。
「…おまえは、恥ずかしく思わんのか…!」
「あ?なにが?」
「い、今は女の体だろう!」
「あー、そんなこと言ってもなぁ…」
女に変わっていてもおれはおれのままなわけで。
中身が変わらないのだから良牙に裸を見られたところでとくに恥ずかしくはない。
それに今も別に裸になったわけじゃなく、着ていた服を脱いだだけで下に着ていたタンクトップはまだ着ているし。
そこまで神経質になることではないと思うが。
「良牙くんには、刺激が強いかー」
「……だれもそこまでは言っていないだろう! テントの中とは言え、ここは一応外なんだぞ」
「たしかにそれはそうだけどな」
良牙の言っていることは間違ってない。おれだって目の前に知らないやつがいるなら脱いだりしなかった。
けど、今このテントの中にいるのはおれと良牙だけで外は弱まってはきているがまだ雨が降っているせいで人の影はない。
こんな天気の中わざわざ空き地に来るようなやつがそうそういないだけかもしれないが。
「ま、軽く絞ったから帰るわ」
「…まて」
「ん?」
別におれもここに長居をしようと思ったわけではなく。びちょびちょのまま帰るのが嫌だったので、ちょうど目の前にあったこのテントを間借りしただけにすぎない。
雨もテントを借りたときよりも収まってきているし、ここから天道家ならそんなに遠くないからすぐに帰れる。
そんなことを考えながら着るために絞った服を広げていると、良牙から何かが投げ飛ばされてきた。
とくに何も考えず広げてみると、それは良牙の服のように見える。
「なんだよ、これ」
「貸してやる」
「は…? 珍しいな、おめーがおれに何か貸してくれるなんて」
借りたら返さないかもしれないのに。
おれとの付き合いがそこまで短くない良牙のことだからおれのそういうところを知っているとは思うが。
「今度家まで案内してもらう分の貸しだ。 服は返さなくてもいいが、家までは案内してもらうぞ」
「…はー、そういうことな」
変に優しいところがあるじゃないかと思ってしまったが、今の言葉で納得する。
それくらいの貸し借りなら、いいか。どうせ、貸し借りが無くたって良牙の家まで案内することもあるし。
「じゃ、ありがたく借りるわ」
良牙の服を着て、今度こそテントの入り口に手を伸ばす。
「お、止んでる」
「今のうちに早く帰れ」
「言われなくても帰るっての」
「おい、らんま」
「今度はなんだよ」
「これも持っていけ、濡らすんじゃないぞ」
また投げつけられた物をしっかりと受け止める。視線を落とすとそれはいつもの果たし状だった。
「なんでい、持ってたのかよ」
「当たり前だ、おれはこれを届けるためにきさまのところへ向かう途中だったんだからな」
「そーかい、そーかい…手間が省けて良かったな」
「いいか、遅れずに来るんだぞ」
「わーってるよ、じゃあな」
少し話をしている間に外の雨は止んでいた。これ以上濡れなくてすむことに安堵しながら、帰り道を急ぐ。
良牙からの果たし状は帰ってから開けるとして、この借りた服はどうしようか。
おれと親父の二人だけで暮らしているんだったら返さないかもしれないが、今は居候という立場だ。
それにこの姿のまま帰ったら、良牙から借りたことが一発でばれるだろう。
そうなると、あかねが良牙に返してこいとうるさいに違いない。今回のこれは返しに行くしかないかと、小さく息を吐きだして天道家の扉を開けた。
「おかえりなさい、らんまくん」
「かすみさん、風呂って…」
「もう沸いてるわよ、ご飯の前に入ってきてね」
「はーい」
「あら、その服…良牙くんのね?」
「あー、なんか貸してくれた」
「そうなのね…なにかお礼の品でも渡さないと」
「べつにいらねーと思うけど…」
「そう? でも借りたなら何かお礼は準備しましょう」
「…はーい」
かすみさんにそれ以上は言えず、荷物を部屋に置いてすぐに風呂場に向かった。
良牙の服を脱いで、じっとそれを見つめる。
お礼の品だなんて準備したことはない。というか、良牙から直接服を借りたことが今まであっただろうか。奪ったことはあったかもしれないが手渡されたのは初めてかもしれない。
「…なーんか、おかしいな」
おれが女の体だったから、貸してくれたのかとも思ったが。今まで良牙の前で女の姿でうろついたのは初めてじゃない。タンクトップ一枚ぐらいなら普通にある。
変に優しい気がする。おれの気のせいならいいが。