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    ふすまこんぶ

    @Konbu_68
    ワンクッションイラスト/小説置き場

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    ふすまこんぶ

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    旦那氏×将軍話、続き
    大統領と補佐官と犬が出てくるよ

    誰も知らない革命(3)鼻歌を歌いながら、茹で上がったパスタを皿によそう。弟のお気に入りのソースを上からとろりと流して、今日のお昼ご飯の完成。
    「パピ! ロコロコ! お昼できたわよ」
    キッチンから叫べば、上の階から「はあい!」と弟の愛犬の重なった声が聞こえた。
    ピイナはテーブルの上に料理を並べ、床の上に置いた赤い皿にはロコロコの好きなドッグフードを注ぎ入れた。軽やかな足音と共に少年と犬が到着し、すぐに各々の定位置につく。
    「いただきます!」
    3人で手(ロコロコは耳)を合わせる。美味しそうにパスタを頬張っていたパピは、点けっぱなしになっていたテレビに目を向けた。
    休日の昼間に流される番組は、穏やかな話題を取り扱ったものが多い。ああ確か、そろそろ「巷のご夫婦さん」の時間じゃなかったかな。
    親を亡くした直後は、外やテレビで夫婦や親子連れを目にするだけで辛くなったものだが、姉や、愛犬や、後見人となってくれた大臣、そして周りの人たちのおかげで悲しみも紛れた。年齢を問わず、ピリカに暮らす夫婦をスタジオに招いてインタビューする番組「巷のご夫婦さん」も、むしろ観ていて微笑ましく思えるようになった。
    今日はどんな人が出るんだろう。巷の、と名がつく通り、この番組に出演するのは、有名人でも何でもない、ごく普通の一般人の夫婦だ。
    『では本日の『巷のご夫婦さん』! 今回はスペシャルなお二人にお越しいただきました、どうぞ〜!』
    男性の明るい囃子と共に、スタジオ内に明るい音楽が流れる。上手側からやってきたのは二人の老人だったが、パピはどちらの顔にも見覚えがあった。
    いや、片方の老人に至っては見覚えがあるという程度のものではない。昨日官邸で顔を合わせたばかりだ。もう片方は、直接顔を見たことはないが確か──。
    花畑を思わせる鮮やかなセッティングのスタジオで、二人の老人は真っ白なソファの前に立った。
    その向かい側に立つ司会の男性が声を上げる。
    『いや巷じゃなーーーい!!」』
    全国の視聴者が思っただろう言葉だ。隣にいる司会進行補佐の女性タレントが口を大きく開けて爆笑していた。
    『いやいやいやスタッフ! 巷の意味知ってる!? 今回のゲスト、スペシャル過ぎでしょ!』
    怒涛のツッコミを繰り出す男性に、女性がこの番組お決まりの口上を述べた。
    『本日の『ご夫婦さん』は、小説家のダンダさんと、ピリカ軍将軍を務めるギルモアさんです! よろしくお願いしま〜す!』
    スタジオ内でワッと拍手が湧き起こる。テレビから流れて来た女性の声に、ピイナとロコロコも思わず顔を上げた。
    「ギ、ギルモア将軍!?」
    大声を上げた姉と愛犬の間に挟まれ、少年は呆然とした顔で呟いた。
    「ギルモア将軍、だね……」

    『お二人に聞きたいことは沢山あるんですが……まずは馴れ初めからお聞かせ頂けますか?』
    女性司会者が尋ねる。
    『僕たち、お見合いで会ったんです』
    『お見合い!』
    画面の中で司会の男が夫の言葉を復唱する。パピ、ピイナ、ロコロコは食べることすら忘れ、呆然とした様子でテレビを見つめていた。
    「……えっ? 将軍、『ご夫婦さん』に出るなんて一言も言ってなかったわよね?」
    我に帰ったピイナの言葉にパピは頷いた。
    「うん、言ってなかった」
    と、いうより既婚者であることも知らなかった。仕事で顔を合わせる人の家族構成くらいは覚えるようにしているが、ギルモア将軍に家族の話をそれとなく聞いた際、頑なに拒まれたことがあった。天涯孤独なのか、それとも身内のことを知られたくないかは分からないが、本人が話したくないのなら、とそれ以上尋ねることはしなかった。
    つい最近、PaceBookでギルモア将軍と思しき人物を妻だと説明する投稿が話題になり、その投稿者は小説家のダンダではないかと噂されていたけれど……まさか、本当だったんだ。
    『珍しいですよね男性同士のご夫婦は。今でこそちょくちょく耳にすることが増えましたけど、お二人が結婚された当時はもっと数が少なかったんじゃないですか?』
    『僕らの周りは0でしたねえ』
    司会の2人とダンダが和気藹々と話す中、ギルモア将軍はムスッとしたような、不機嫌そうな顔をしていた。パピとピイナからすれば普段通りのギルモアである。話題はダンダ・ギルモア夫妻のプロポーズについて移った。
    『そうそう、プロポーズはどちらからなさったんですか?』
    男性司会者の問いに、小説家は嬉しそうに答えた。
    『妻です』
    『へえ〜将軍から! ちなみにどういうプロポーズだったんですか?』
    『お見合いの後、妻から僕宛に婚約証書が届きまして。突然のことだったので電話で尋ねたら、とっととサインして返送しろと言われました』
    えへへ、とはにかむ小説家の向かい側に座る司会者2人の頭上に疑問符が昇る。パピとピイナ、ロコロコもテレビ画面を見つめながら頭を傾けた。おそらく視聴者全員同じことを思っただろう。
    『えっ、それがプロポーズなんですか!? 好きとか結婚しようとか口で言ったりとか、そういうのではなく!?』
    男性司会者の言葉に、夫婦は不思議そうに顔を見合わせた。
    『ああ、確かに口では言われて、ないかな? んー……でも、あれはプロポーズでしたよ?』
    小説家は真面目な顔をして言った。ギルモアは否定もせず、じっと黙ったままであった。
    『この番組長いことやってますけど、結婚証書送るイコールプロポーズと見なすご夫婦は初めてですねえ……』
    困惑しつつもしみじみと語った男性の隣で、女性司会者が質問を繰り出した。
    『ではギルモア将軍の方からプロポーズしたということですが、当時どのような思いで婚約証書を送られましたか?』
    皆の視線がギルモアに集まる。ギルモアはちらりと隣の夫を見やり、ため息をつくと膝の上で手を組んだ。
    『……こいつは、ワシと見合ったのが初めての見合いだと言っていた。それで……最後の見合い相手も……ワシにしてやろうと、思った』
    しん、と場が静まり返る。静寂を破ったのは、小さく彼を呼ぶ声だった。
    『ギルモアくん……』
    顔を上げたギルモアの上半身に、がばりと夫が抱きついた。
    『んふ、んふふふ』
    『何だ、妙な笑い声しよって』
    妻の肩に顔を埋めていた小説家は、嬉しそうに笑って顔を上げた。
    『だって嬉しいもの』
    軍人は姿勢を崩さぬまま、顔だけ夫の方に向けた。間近で見つめ合う二人の瞳に、お互いの顔が映り込む。
    『初めて聞いた。そんな風に思ってたの?』
    『……』
    ギルモアは無言で夫を押し返した。やんわりと腕を突き出すその触覚がほんのりと赤くなっているのを見て、夫は柔らかく目を細めた。
    『おっと、ダンダ先生は初耳だったんですか?』
    男性司会者の言葉に老人は頷いた。
    『ええ、初めて知りました』
    『ではダンダ先生、どういう思いで結婚証書を受け取りましたか?』
    女性が尋ねる。小説家は真面目な顔をして、どこか遠くを見つめるように語り出した。
    『そうですね……まあ、突然のことでびっくりしましたけど、すごく嬉しかったです』
    老人は微かに笑みを浮かべていた。
    『実のところ、お見合いは断られるだろうと思っていたんです。僕は生まれつき体が弱くて、ちょっとした天候の変化なんかですぐ体調を崩してしまうので……面倒でしょう、そんな虚弱な人間なんか』
    隣の妻が口を開きかけるが、すぐに小説家が言葉を継ぐ。
    『だから、本当に嬉しかったです。僕がギルモアくんを望むように、ギルモアくんも僕を望んでいて、書面で約束を交わすという行動に移してくれたことが』
    嬉しそうに笑顔を浮かべた老人は、すっと横を向いて腕を広げた。
    『ほら、ギルモアくんもぎゅってしたくなった?』
    ギルモアは眉間に皺を寄せ、顔は前を向いたまま腕を組み、苛立ったように答えた。
    『人前でできるか!』
    『人前じゃなかったら良いの?』
    『うぐ……!』
    夫の言葉に、軍人は触覚の先だけでなく頬も赤く染め、ふいとそっぽを向いた。
    『ギルモア将軍って、イメージと違って何と言いますか……可愛らしい方なんですねえ』
    穏やかな空気の中、女性司会者が感心したような表情で言葉で言う。
    『でしょう?』
    ギルモアの夫は、嬉しそうに、それでいて少し得意げに笑顔を浮かべた。



    『さていよいよ! ピリカ中を騒がせたあの大事件についてお聞きしましょう!』
    番組も後半に差し掛かった頃、男性司会者が声を張り上げる。先程まで流暢に喋っていた小説家は体を強張らせ、気まずそうに目線を逸らした。
    『やはりお二人に聞きたいことといえば……PaceBook事件とも言うべきでしょうか。いやーまさか天下の将軍のね、プライベート写真があんなにあったなんて』
    ニコニコと笑う司会男性、その隣の女性もまた微笑んでフリップを掲げた。小説家の、PaceBookのアカウントホーム画面の画像や、投稿写真が載せられている。
    『先月の15日ですね、PaceBookのとあるアカウントが投稿している写真がギルモア将軍ではないかと話題になりました。投稿者は、アカウント名から小説家のダンダ先生ではないかと言われていましたが……』
    『や、はは……』
    小説家は力なく笑った。司会男性は興味津々に尋ねる。
    『投稿日時は10年前からですね。今はアカウントの公開範囲が制限されていて見れないようになっているのですが、ダンダ先生! ずばり! このアカウントは先生のものですね!?』
    小説家の老人は胸の前で手を組み、目線を彷徨わせた。やがて観念したのか、自供する犯人のようにがっくりと肩を落とす。
    『はい……僕のです……』
    オオッと観覧席から声がが上がる。正式に例のアカウントがダンダのものであると公表するのはこの番組が初めてではないだろうか。
    『えー、ではまず、こちらの投稿についてコメントをいただきたく思います。こちら、ダンダさんの初投稿ですね。『妻です』という説明の添えられた、ギルモア将軍の写真です』
    女性は新しくフリップを手に取った。ダンダの初投稿の画像が載せられている。
    『最初の投稿が奥様のお写真ですが、この、読まれてる本……ダンダ先生の本ですよね?』
    画像中のギルモアが読んでいる本を指差し、女性が尋ねる。
    『はい、僕の本ですね。妻が自分で買ったものです』
    『あら、前もって出版社から貰えるんじゃないんですか?』
    『そうなんですけどね、妻は自分で買って読んでます、ね』
    小説家は隣の老人の方を向いて首を傾ける。ギルモアは『……まあ』と短く答えた。
    『へえー! じゃあファンなんですね!』
    男性の発言に、ギルモアは不思議そうな表情で返した。
    『いや、ファンではないが』
    司会男性は無駄のない美しい動作で椅子から転がり落ち、女性は目を丸くした。
    『え、ファンじゃないんですか!? 感想言ったりもせず!?』
    椅子に座り直した司会者は驚きの表情で尋ねる。
    『しないな』
    『うん、聞いたことないね』
    小説家は軍人の言葉に頷いた。
    『ええ〜!? ダンダ先生、奥さんの感想聞きたくなりません?』
    『いやあ、それはどちらでも良いですかね。本だけじゃなくて、僕へのインタビューが掲載された雑誌もすぐに買ってくれますし……読んでくれるだけで嬉しいですから』
    そんな穏やかな司会者と夫婦のやり取りを、パピはロコロコを膝に抱えながら見つめていた。背丈と顔の厳つさ、言葉遣いや雰囲気も相まって恐ろしく見えていたあのギルモア将軍が今や、素直になれないだけで可愛い一面を持つ、愛情深い1人の老人に思えてきたのだ。
    『ダンダ先生のアカウント、今は非公開にされてますよね? 公開にするご予定は?』
    男性司会者が小説家に尋ねた。小説家は恥ずかしいのか少々早口のままに答えた。
    『いやあ、元々非公開といいますか、子供たちや義家族にだけ見せる設定にしてたんですよね。あの日は、その、間違って設定を変えちゃったみたいで……』
    『みたい? 覚えてないんですか?』
    『前の夜、お酒飲みすぎちゃったんですよねえ。酔っ払って設定を変えちゃったんだと思うんですけど』
    『先生、普段からお酒飲まれるんですか?』
    『いやあ、仕事以外ではほとんど飲まないです』
    男性司会者は、ターゲットを見つけた狩人のようにニヤリと笑みを浮かべた。
    『ほほう、ではその夜はどうしてお酒を?』
    小説家はゆっくりと席を立ち、こそこそと司会者に耳打った。
    『妻が仕事で半年間帰って来なくて寂しい気持ちを紛らわしたかったから、だそうです!』
    『あー! 言わないで!!』
    即大声で秘密をバラした男性司会者の横で、小説家は頬を赤くして両手を顔の前でぶんぶんと振った。
    『将軍、半年間もお家に帰らなかったんですか?』
    女性司会者の問いにギルモアが答えた。
    『……機密時効ゆえ全て話すことはできんが、まあ……やむにやまれぬ事情があってな。半年程は本部で寝泊まりしていた』
    『今までも任務でしばらく家を空けることはあったんですけどね。流石に半年は長くて……』
    気弱そうに笑う小説家の横で、ギルモアは申し訳なさそうな表情をしていた。
    『半年!? そんなに長い間ひたすら仕事を!?』
    男性は驚きの声を上げた。
    『ピリカを外敵から守るのが我々軍の使命だからな』
    静かな口調なれど強い意志を感じる言葉に、司会の2人は息を呑んだ。
    『……昔からずっと、ギルモアくんは頑張ってきたもんね。10年くらい前までは星の外へ任務にも行ってたし』
    落ち着いた声音で小説家が言った。
    『へえ、星の外へですか?』
    意外そうに男性が尋ねた。
    『……哨戒任務でな』
    画面の下半分にテロップが出る。哨戒とは、敵の侵入・襲撃に備え警戒することである、と簡単な説明がなされた。
    『昔は長くて2ヶ月くらいでしたから、今回もそのくらいなのかなと思ったんですよね』
    『結構長く家を空けるんですね、軍の方って』
    小説家の言葉に、女性が意外そうに言った。
    『陸軍空軍海軍のどこに所属するかによって差はありますけどね。妻は元々空軍の隊員だったので、時々宇宙に出ることがありましたから』
    『へえ〜!』
    司会の2人が興味深そうに相槌を打つ。と、女性司会者は足元から新たなフリップを取り出し、大々的に掲げた。
    『さて、こうしてピリカ中にプライベート写真を公開してしまったダンダ先生ですが! 写真のほとんどはギルモア将軍なんですよね。ダンダ先生ご自身の写真はほぼなく……そこで! ギルモア将軍がお持ちのダンダ先生のお写真の中で、お気に入りのものを3枚選んでいただきました!』
    溌剌と喋る女性の向かいで、小説家はあんぐりと口を開けた。だがすぐに横を向いて「ちょっと! 僕聞いてないんだけど!」「言っとらんからな」と妻と言葉を交わした。
    『では1枚目!』
    女性司会者はフリップのめくりを剥がした。露わになったのは、ソファで眠る老人が写された画像。真上から撮影されたもので、撮影者の影が映り込んでいる。
    『こちら、ソファで寝ているダンダ先生ですね』
    『実に気持ちよさそうな寝顔です』
    『い、いつの間に……!』
    照れを隠すように頬に手を当てる夫と、その横で少し得意げな様子のギルモア。
    『ダンダ先生も、ソファで寝ているギルモア将軍の写真をアップしてましたからね。お互いに撮ってたんですねえ』
    男性司会者は2人を見比べながらニマニマと笑みを浮かべた。
    『では2枚目、ソファで眠るダンダ先生パート2です』
    『また寝てるやつじゃないですか』
    『こちらは口を開けて寝てますね』
    どこかウキウキした様子の司会2人は、写真を指差した。アングルは先ほどのものと似ているが、口をぽかんと開けたまま眠る老人が写されている。
    『ではラスト3枚目! オープン!』
    最後のフリップを手にした女性が、声と共にめくりを外す。背景はこれまでの写真とは違うものの、被写体の様子は。
    『また寝てるやつじゃないですか!』
    男性司会者は先程と同じ言葉を叫んだ。3枚目は、横を向いてベッドで眠る小説家を、すぐ隣から撮ったであろう写真であった。時間帯は日が昇ったばかりの早朝なのか、後ろのカーテンから溢れる光は朧げだ。
    『これは……ベッドですかね?』
    『そうだ』
    女性の言葉にギルモアは頷いた。
    『ギルモアくん写真なんて撮ってたっけと思ったら、全部僕が寝てるやつじゃん。そりゃあ知らない訳だよ……』
    ちょっぴり頬を桃色に染め、小説家はため息をついた。
    『いつ頃撮られたんですか?』
    男性が尋ねる。ギルモアは腕組みわをしたまま答えた。
    『……最初の2枚は覚えとらんが、かなり前だ。最後の1枚は……半年前、家を出る直前に撮ったものだな』
    小説家はハッと隣の妻を見た。
    『ふうむ、仕事中寂しくなった時に見返していたりは?』
    ギルモアの扱い方が分かってきたのか、男性司会者は笑いながら尋ねた。当のギルモアは何も言わなかったが、ぽぽぽと頬が赤くなっていくのを見て夫は笑い声を零した。


    『さーて! まだまだお二人にお聞きしたいことはありますが! お時間になりましたのでこの辺で「ご夫婦さん」はお開きとさせていただきます』
    『ダンダ先生、ギルモア将軍、ありがとうございました! ではまた来週!』
    司会の2人が、毎週お決まりのセリフを言って番組は終了した。カメラに向かってニコニコと笑いながら手を振る小説家と、ぶすっとした顔でぎこちなく手を上げた軍人を最後に、CMに突入した。
    「パピ様! ピイナ様! 見ましたか今の!? あのギルモア将軍が手を振っていましたよ! いえそれより、まさかギルモア将軍が結婚していたとは! PaceBookのあの写真は悪戯かと思っていましたがまさか本当だったとは! しかも普段の将軍からは想像もできない程の仲の睦まじさ! 人には意外な面が──」
    堰を切ったように怒涛の喋りを見せるロコロコに、パピはうんうんと頷きながらも先程見たギルモア・ダンダ夫妻のことを思い出していた。
    自身が知るギルモア将軍という人物は、気難しく、何を考えているのか腹の底の見えない老人であった。軍拡を目指しており、そのための手段は問わないものの、流石軍のトップになっただけはあり敏腕であると聞く。ピリカにとっていささか危うい男であると、周囲の人間はそのような認識であるようだ。
    だがテレビに映る彼は、伴侶と共にいる彼は、少し捻くれた物言いをするものの真っ直ぐに夫を愛する、ごく普通の老人であった。そして、彼が番組の後半で告げた言葉、「ピリカを外敵から守るのが我々軍の使命だからな」。あの言葉に嘘偽りがあるようには思えなかった。半年も家に帰っていなかったというのは初耳だが、それ程までに仕事に力を入れていたとは。
    誠実な態度で臨めば、相手も同じように向き合ってくれると信じていた。ギルモア将軍や、最近ピシア長官に就任したドラコルル長官など、軍の者とは対立する日々が続いていたが、いつかはわだかまりも解けるだろうと。
    だがおそらく、ギルモア将軍に対しては、誠実なだけでは不足なのではないだろうか。嘘をつかず、素直に、正直に、言葉で示す。昔から大事にしているモットーだが、ギルモア将軍とダンダ氏を見ていると、そうではない向き合い方もあるように思えた。一風変わったプロポーズも、感想の交わされない律儀な読書も、お互いの愛情を行動で示したものだ。
    長年連れ添った夫婦と、大統領と将軍という仕事の関係とで全く同じようにコミュニケーションをとる訳にはいかない。だが、彼と向き合うためのヒントを得られたような気がする。
    未だお喋りの止まらない愛犬の頭を撫でながら、パピは頬を緩めた。(続)
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