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    ふすまこんぶ

    @Konbu_68
    ワンクッションイラスト/小説置き場

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    ふすまこんぶ

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    副ギルのオメガバース話
    アルファなのにオメガのフェロモンを感じ取れない体質の副官
    ある日、将軍の体からいい香りがすると気づき…
    ⚠️この後の展開でR18あり、オリキャラ登場

    かぐわしのあなた(1)オメガのフェロモンは良いものだと、皆は言う。
    熟れた果実のように芳しい、いや菓子のようだ、花のようだ。アルファの同期たちは皆そう言っていた。
    でも俺は、フェロモンというのがよく分からない。だからその手の話題に乗れたことは一度もない。
    俺は確かにアルファのはずなのだ。子供の頃に受けたバース性検査でも、軍の入隊前検査でも、アルファ性だとはっきりと結果が出ている。
    アルファなら特にオメガの放つフェロモンに対して敏感になるらしいが、俺にとってフェロモンというのは「何かちょっと匂う……かも?」程度のものだ。良い匂いだと感じたこともないし、発情もしたことがない。
    番が欲しいなあと、ぼんやりと思うことはある。けれど、フェロモンを好ましいと思えず、発情できないアルファが、果たしてオメガの人と番になれるだろうか。
    ……まあ、今は番を作るどころか探す暇もないんだけど。



    この星に革命を起こすも失敗し、早半年。革命の首謀者ギルモア将軍、そして実行犯であるピシア所属員には、大統領からピリカ復興任務従事命令が下された。ピシア副官である俺は勿論、ドラコルル長官も毎日あくせく働いている。
    ところが、長官は疲れが溜まっていたのか、どこからかウイルスを貰ってきてしまったのか、昨日からピリインフルエンザでダウンしてしまっているのだ。大統領からは「無理をさせてすまない。今はゆっくり休んでくれ」と長めの休暇を貰っている。
    ということで、しばらくは俺が長官の代わりを務めることになる。
    よーし頑張るぞ!
    と、頬を両手で叩いて気合いを入れたところで、モニタの端にメール受信の通知ポップアップが表示された。
    送り主の名前を見て、俺は顔を引き攣らせた。
    「ギルモア、将軍……」

    メール内容はつまり、ピリポリスの現在の復興度合いをまとめた資料が今日中に欲しいから持ってこい、とのことだった。無茶言うよ全く。長官がピリインフルエンザで倒れたの、将軍の無茶振りが原因なんじゃないだろうな。
    なんて心の内で軽口を叩いてはいるが、やっぱり緊張する。将軍はクーデターの首謀者ではあったがおおまかな指令を出すのみで、現場で走り回っていた自分との接点はほとんどない。画面越しに顔を見たことはあるが、言葉を交わしたこともないし目が合ったことすらなかった。革命が失敗に終わり、破壊した施設や民家の再建に勤しむ今でもそれは変わらない。
    将軍室の前に辿り着く。ノックをして名乗ると、中から「入れ」とぶっきらぼうな声がした。
    「失礼します」
    真っ赤なカーペットと紫のソファが並ぶ部屋は、黒を基調とした落ち着いた雰囲気の長官室とは対照的だ。
    「書類をお持ちしました。ご確認よろしくお願いいたします」
    執務机の前に立つ。こんなに直に近づくのは初めてだ。ファイリングした資料を差し出すと、将軍は老眼鏡を付けたまま億劫そうに手を伸ばした。
    その時、将軍の方からふわりと香りがした。控えめな甘さと爽やかさを含んだ、落ち着いた香りだ。ちょっとドキッとしてしまうくらいには好みの匂いだ。
    へえ、将軍って香水つけるタイプなんだ。
    書類を受け取った将軍は、しかめ面を浮かべパラパラとページをめくった。ざっと最後まで目を通してから、静かな声で言った。
    「……下がって良し」
    「は、はいっ」
    緊張で声が裏返ってしまったが、敬礼をしてからそそくさと将軍室を出て行く。扉をできるだけ丁寧に閉めてから安堵のため息をついた。



    それから何度もギルモア将軍に呼ばれ、資料を作って届けたり指示を受けたりした。いつも将軍はぶっきらぼうな態度で、でも甘くて優しい香りがした。
    ドラコルル長官のピリインフルエンザが治り仕事に復帰すると同時に、ギルモア将軍に会うこともなくなった。
    ただ、あの良い香りは何だろうと、それだけが心に引っかかっていた。

    今日は幹部会議。ギルモア将軍と、ドラコルル長官と、俺とでピシアの今後の活動について話し合う。とはいっても、俺は長官のサポートに入るだけで話すことはほとんどない。
    会議室に入り、長官と一緒にパソコンや大型テレビの準備をしながら将軍が来るのを待っていると、扉が開く音がした。途端にふわりと、甘い香りが漂ってくる。
    「……ギルモア将軍?」
    ドラコルル長官の声で、パソコンに眼を向けていた俺は顔を上げた。ギルモア将軍が、ふらふらと覚束ない足取りで会議室へ入って来るところだった。千鳥足とは違い、杖代わりにもしているサーベルに体重を預けどうにか立っているように見える。
    「将軍、どうされましたか」
    長官が早足で将軍に駆け寄る。いつも不機嫌そうな表情の将軍しか見たことなかったけれど、今は苦しそうな顔をしている。頬が紅潮しているから、もしかして熱があるのか?
    「……何でもない」
    喋る声にも張りがない。長官は医官の所か病院へ行くよう進言しているけど、将軍は頑なに体調が悪いのを認めないまま椅子に手をかける。しかし、椅子を引く前に、力尽きてしまったのかその場に膝をついた。
    「将軍!」
    長官と一緒に、俺も将軍の元へ駆け寄る。将軍に近寄れば近寄るほどに、甘い香りが強くなる。将軍のすぐそばに立てば、強烈な甘い芳香を全身に浴びせられるような心地がした。それでも、不思議と嫌な匂いだと思わなかった。ずっと嗅いでいたいと思うくらいには良い匂いだ。
    と、長官が口を開いた。
    「ギルモア将軍、病院に行きましょう。人を手配します」
    「……行かん」
    「しかし、具合が悪いのであれば──」
    「行かんと言っとるだろうが……!」
    将軍からは、絶対に病院に行かないという強い意思を感じとれた。ここは無理矢理にでも連れて行くべきだろう。
    「将軍、失礼します!」
    長官の言葉になかなか頷かない将軍を、下から抱え上げる。お姫様抱っこの形にはなったが、しっかりと将軍を持ち上げて俺は言った。
    「ギルモア将軍、歩けないのなら自分が運びます。だから病院に行きましょう」
    将軍の鋭い目に睨まれる。しかし何か言う気力もなくなったのか、将軍は諦めたようにため息をついてゆっくりと俯いた。
    「というわけで長官、将軍を病院へお連れします」
    「大丈夫か? 他に人を呼べるが……」
    「だいじょーぶですよ! 力には自信があるんで!」
    心配そうな表情の長官に向かって、ニッと歯を見せて微笑む。
    「分かった、将軍を頼んだぞ」
    俺は大きく頷いた。
    「はい!」

    とりあえず、俺の車で将軍を病院まで送ることにした。将軍は後ろの座席に横になってもらって、急ぎつつも安全運転を心がけ目的地へ向かう。車の中が将軍の放つ甘い香りでいっぱいになって、何故だか胸がドキドキしてしまう。
    どうして今日は香りが強いんだろう。将軍、香水をつけすぎたのかな。
    信号を待つ間に、車内が暑くなってきたので窓を開ける。風が車内に入って来るが、涼しいのは体の表面だけで、もっと奥の方は熱いままだ。
    バックミラーに目をやって将軍の様子を確認する。目は開いているから意識はあるようだ。
    信号が青になると同時にアクセルを踏む。すぐに病院に到着し、俺は将軍を抱き上げエントランスへ入った。
    「すみません、この人を診てほしいのですが」
    受付のお姉さんはギョッとした表情を浮かべた。そう言えば俺も将軍も、着替えはしておらず軍服のままだ。ピシアの人間だと一目で分かってしまう。しかしぐったりとした将軍の様子を見た受付スタッフは、すぐに目の色を変えて他のスタッフに指示を飛ばした。
    「先生を呼んでください! それと、車椅子の準備を!」

    俺も付き添い、内科の先生に将軍を診察してもらった。風邪のように見えるが念のためにと検査を受けることになり、俺はその間待合室で待機することになった。
    室内にいるはずなのにやたらと暑く感じる。今日って夏日だったっけか?
    すぐ側にある自販機で冷たい飲み物を買う。内側から体が冷やされていく感覚が心地良い。
    将軍が検査から戻って来たのは、それから2時間も後だった。今時検査なんて10分もすれば結果が出るのに、どうしてこんなに長いんだろうと不思議に思ったが、ひたすらに待つうちに体の奥の熱は随分と引いた。看護師に車椅子を押され帰って来た将軍に駆け寄って、結果の次第を尋ねた。
    「将軍、どうでしたか?」
    相変わらず甘い匂いをふりまく将軍は、俯いたまま何も答えなかった。言葉も発せない程具合が悪いのかと、その顔を覗き込む。何かショックを受けたような、呆然とした表情をしていた。
    「……帰る」
    ようやく口を開いた将軍に、俺は言った。
    「家まで送りますよ、どの辺ですか?」
    「本部だ、本部に帰る」
    将軍は車椅子から立ち上がって歩き出した。引きずるように歩みを進める将軍の前に立ちはだかる。
    「待ってください!」
    「邪魔だ、どけ!」
    俺を迂回しようとする将軍の行手を阻むと、いっとう不機嫌そうに顔を顰められた。
    「本部に戻るなら俺が送りますから!」
    「1人で戻る! お前の送迎はいらん!」
    「具合が悪いのに歩いて帰るつもりですか!? それにまだ帰っちゃ駄目ですって!」
    「良いから帰る!」
    「駄目です!」
    「何故だ!」
    声を荒げるギルモア将軍に、俺も負けじと叫んだ。
    「会計がまだです!」



    「どうだった?」
    本部に戻り玄関口に車を停めて早々、出迎えてくれたドラコルル長官に尋ねられた。車の後部座席から降りようとする将軍を支えようと手を差し出すが、軽く払われてしまった。
    「……部屋に戻る」
    「承知しました」
    長官はよろよろ歩く将軍に小さく一礼をすると、そのまま後ろ姿を見送った。
    「良いんですか、一緒に着いて行かなくて」
    「あの様子だと1人になりたいのだろう。我々が手を貸しても拒否されるだけだ。それに、何かあった時のため隊員に将軍室まで尾行させている」
    「な、なるほど」
    流石将軍との付き合いが長いだけはある。散々に怒鳴られた俺とは大違いだ。
    「それで、どうだった?」
    「……分かりません。最初は診察室まで付き添って、見た目は風邪っぽいけど検査を受けるようにとお医者さんに言われて……それから別行動で、検査の結果も俺は聞いていないんです」
    「ふむ、そうか」
    長官は顎に手を当てて何か考え込み、そして口を開いた。
    「……少なくとも、感染症の類ではないのだろう。将軍はその辺りは気にされるタイプだが、人払いをするようには言われなかった。薬は処方されなかったのか?」
    「何か粉薬を貰ってましたけど、どんな薬かまでは……」
    「薬で様子見と判断される程度のもの、ということだろうか」
    「そうなんですかね……検査に2時間もかかってましたし、結構辛そうに見えましたけど……」
    将軍は年もいっているし、持病のひとつやふたつ持っていてもおかしくないが、元々抱えていた病が悪化したのか、それとも新たな病気になってしまったのか、それすらも分からない。せめて、一時的な症状なのか、これからずっと戦わなきゃいけないものなのか、それぐらい教えてほしいなあと思うんだけどな。心配だし。
    「大統領には事情を説明しておく。今後、任務に影響が出る可能性があるからな」
    「そうですね……」
    駐車場に車置かなきゃな、とふらりと車の方へ歩き出す。開きっぱなしになっていた窓から将軍の香水の残り香が漂ってきた。長い時間乗せていたわけではないが、シートにでも染みついたんだろう。甘くて良い匂いだ。
    「そういえば、将軍って香水つけてますよね」
    何の気無しに上官に投げた質問。しかし、返された言葉は。
    「香水? いや、つけていないと思うが」



    宿舎に帰り、ベッドに倒れ込んでため息をつく。ドラコルル長官から言われた言葉が頭の中をぐるぐると回っている。
    将軍は香水をつけていない。なら、あの甘い香りは何なんだ? あれほど強烈ではっきりした匂いが気のせいなはずはない。
    匂い、といえばアルファもしくはオメガが発するフェロモンが思い浮かぶが、将軍がどちらのバース性だろうと年齢的にフェロモンは出せないだろう。擬似フェロモンという、フェロモンによく似た成分を含む香水は市販で販売されており、諜報活動でも利用することはある。でも俺はフェロモンが分からない体質だ。もし将軍がつけていたとしても分からないだろうし、第一、ずっと本部にいる将軍がそういう香水をつける意味もない。
    謎のもやもやを抱えたまま、ひたすら復興任務に励む日々は過ぎて行く。朝起きて、ピシア本部に出勤して、仕事して、宿舎に帰る。忙しいが変わり映えのない、無機質な毎日だ。
    今日も今日とて残業だが、クーデター収束直後と比べたら忙しさは随分とマシになった。部下は皆帰った、俺もそろそろ帰る準備を、とデスクに置かれたモニターの電源ボタンに手をかける。すると、ピコンと音が鳴ると同時に、画面の端にメール通知のポップアップが表示された。そこに表示されている名前に、俺は目をまん丸に見開いた。
    メールの差し出し主は、ギルモア将軍だった。



    将軍室を訪れるのも、将軍と顔を合わせるのも久しぶりだ。机を挟んで相対すると、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
    「先日、ワシが病院に行ったことは覚えているな?」
    覚えているも何も、将軍を病院に連れて行ったのは俺なんだけど。「はい」と答えると、将軍は気怠そうにため息をついた。
    「その時、医者から言われたことをお前に教えてやろう」
    将軍は椅子から立ち上がり、後ろに手を組んだ。
    「ワシの体調不良の原因……それは、ヒートだ」
    続いた言葉に、俺は目をまん丸に見開いた。
    「この年齢でヒートは起こり得ない。だが、どういう訳か、ワシの体はヒートを起こすようになってしまった。そのきっかけは……お前だ」
    将軍の目が俺をかっと見据える。蛇に睨まれた蛙のように、俺は身をすくませた。
    「医者によれば、ヒートや興奮時以外にも、アルファやオメガは微量ながらフェロモンを放っているらしい……ワシの体調がおかしくなったのは、以前お前がここへ来たあの時からだ。お前が放つ、アルファのフェロモンのせいで、ワシはヒートを起こすようになった。今もヒートが起きるせいで仕事がままならん。しかし……」
    将軍が歩き出す。一歩、また一歩と、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
    「性欲を発散することで、多少はヒートがマシになる可能性があると医者は言っていた」
    将軍が俺の真ん前でぴたりと止まる。
    「ワシがこんな不便な体になってしまったのも、全てはお前のせいだ。そこでだ……お前が、責任を取れ」
    低く唸るような声。俺はようやく言葉を絞り出した。
    「そ、それは──」
    「勘違いするな! お前に抱かれるなんぞ真っ平御免だ!
    将軍が声を荒げる。
    「……体を差し出すのはお前の方だ。だがワシも男を抱く趣味はない。お前はワシが言う通りに奉仕すれば良い」
    獲物を見定めた鷹のように、将軍の目が細く歪められる。
    「いいな」
    有無を言わせぬとばかりに念を押される。将軍の目が、ぎらりと鈍く光ったように見えた。
    俺のフェロモンを嗅いでヒートが起きた?
    ということは将軍はオメガ性?
    でも、どうして俺のフェロモンでヒートが起きる? 将軍の周りには、ドラコルル長官を始め沢山のアルファがいるのに?
    疑問は尽きない。しかし、咄嗟に口から出たのは、同意の言葉だった。
    「……はい」
    恐怖の感情が全くなかったと言えば嘘になる。あっちは上官でこっちは部下。適当な理由をつけて解雇でもされたら路頭に迷ってしまう。元ピシアの人間を受け入れてくれる所なんてないから、人生お先真っ暗コース決定だ。
    しかし、心の中の、奥の奥、理性の及ばないどこかで、何かがきらりと瞬いた気がしたのだった。(続)
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