grto閑古鳥の鳴く酒場。砂漠の歓楽街と呼ばれるサンシェイドで、この光景は滅多に拝めるものではない。内乱中にも踊り子だけは酒場で踊り続けていたという実しやかな伝説が残るこの地で、酒場が空っぽになる原因はたった一つしかなかった。
流行病だ。
【君はこの病の名を知らない】
シェイド熱の患者で溢れ返った宿屋から、薬師テオとプリムロゼが解放されたのは、夜半も過ぎた頃合いだった。熱が高く魘されていた患者たちもようやく寝静まり、少し目を離す余裕ができてきた。
「お疲れ様、プリムロゼ。驚いたよ、初めてなのに、あんなに手際よく診察できるなんて」
療養施設に指定されている宿から、自分たちの宿泊する宿の方へ帰りながら、テオは心底驚いた様子で言う。テオより少し後ろを上品な仕草で歩いているのは、この街で一番人気の踊り子だ。まさか薬師の才能もあるとは思わなかった、とテオが唸ると、彼女は「ふふっ」と妖艶に笑って言った。
10397