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    土沖webオンリーひつじを数えた寝起きに恋した〜二度寝〜開催おめでとうございます!
    肉体関係のある付き合ってない土沖が近藤さんに付き合ってると勘違いされてなんやかんや付き合うことになる話です。
    一万字程度。

    #土沖
    tsuchikawa

    うそからでたまこと。またはまことからでたうそ 後から考えれば、だが。
    深く高く敬愛し慕う、我らが真選組局長近藤勲の言葉は沖田総悟にとって青天の霹靂ならぬ曇天に差す光であったと言えるのかもしれない。



    「お前たち付き合ってるのか」
    珍しく幹部三人で連れ立って向かったファミレスで、食後のデザートまで楽しんだあと、妙にそわそわとした様子の近藤が小さく、それでも興奮を抑えきれないといった声でとんでもないことを言った。
    近藤の向かいに座った土方は上手く紫煙が吐き出せなかったのかゲホゲホと咳き込む。沖田の方はというと、何を考えているのか分からないまるい瞳のまま、こてりと首を傾げた。
    砂色の髪に覆われた彼の頭の中は残念ながら空っぽで、つきあうという字を上手く脳内変換できていない。パッと思い浮かんだのは突き合う。職業柄とも言えるかもしれないが、突き合ってはないなぁ、突かれているだけだなぁという方向に思考がいってしまったので、ただの下ネタだった。
    それほどまでに、自分と土方の間柄を付き合うと表現する発想がなかったのだ。
    黙ったままの部下二人の心中など知らず、近藤は紅潮した頬のまま続ける。
    「水臭いじゃないか。付き合っているなら付き合っていると言ってくれればよかったのに」
    どつきあいならいつもしているが、あいにくお付き合いなどしたことがない。
    これくらいの頃にはさすがの沖田も、近藤が自分と土方が恋仲にあるのだと思っていることに気が付いた。気が付いて困った。困ったので、隣に座った土方を見遣る。フォローの達人ならなんとかしやがれ、と念を送る。
    その念を受け取ったのか、土方が短くなった煙草の煙を肺いっぱいに吸い込み意を決したように沈痛な顔のまま吐き出す。
    「何でそんな風に思ったんだ、近藤さん」
    今度は近藤が動揺し始めた。それはだなぁと照れた様子で顔を赤くして、もじもじとしている。
    嫌な予感がしたのか土方がいつもより強めにぐりぐりと煙草を灰皿に押し付けた。眉間の皺が深い。
    「ま、前の討ち入りの後見ちまってな。いやぁ、見る気はなかったんだ トシを呼びに行ったら……その……物陰で二人がちゅちゅちゅ、ちゅーしてたから」
    ただでさえ目つきの悪い男の瞳がさらに冷え、観念したように息を吐く。それを肯定と受け取った近藤の目がきらりと輝いた。
    土方と沖田の間に肉体関係があるのは事実だ。しかし、それはお付き合いというような甘ったるいものではなくって、冬場の動物が身を寄せ合うような、傷を抱えたもの同士の慰め合いのようなものだ。
    二人とも言葉にはしなかったが、自分たちの関係のそういった一面が不健全であることは理解していたし、当然今まで誰にも言ったことはなかった。
    土方はどうか知らないが、少なくとも沖田には色々な人への負い目もあった。
    結論は出しても、曖昧にして。言葉には出したものの、結局は冗談にしてしまって。逃げ続けていた罰か何かだろうか、この状況は。
    「いつからなんだ 告白はどっちから 交換日記とかした」
    恋に恋する乙女ゴリラの追求は続く。机に頬杖をついてキャッキャキャッキャと、今にも花が散りそうだ。
    あんたが思うような甘い関係じゃないんですよと反射的に思ったが、沖田は動けない。もともと咄嗟の事態に弱い質であるし、いまは後ろめたさやら気恥しさやらで余計に固まってしまった。
    そんな中、土方が動いた。沖田の剣士にしてはしなやかな手をぎゅっと握ったのだ。そして近藤の方を真っ直ぐと見た。
    「告白ってのはなくてなし崩し。気付いたらこうなってた」
    それにぎょっとしたのは沖田である。こうもはっきりヘタレ副長が断言とは。
    「男同士だし、上司と部下だからな。組の指揮にも関わると思って今まで誰にも言ってなかった」
    悪かった、近藤さん。とまで言ってのける。これでは本当に付き合っているみたいではないか。あれ、もしかしてオレたち付き合ってたのか。ぐるぐると眩暈がする。
    「なぁ、総悟」
    突然土方に呼ばれ、はい土方さん、なんて返したはいいが全く話を聞いていなかった沖田は、適当に。
    「らぶらぶなカップルなんで気にしないでくだせぇ、近藤さん」
    なんて言ってしまった。
    沖田がしまった、と思ったのは乙女モード一直線のゴリラ、もとい大好きな近藤の目がキラキラと輝いてからだった。


    ************************************


    「どうするんです、これから」
    ファミレスの駐車場に停めていたパトカーに乗り込む。当然、部下の沖田が運転席で上司の土方が助手席だ。
    「どうするもこうするもねぇだろ」
    眉間に皺を寄せた土方が煙草に火を点ける。そのまま煙を吸い込んで、吐く。その動作だけでいつも通りなような気がするから不思議なものだ。
    「現場見られたんだ。言い訳しようもねぇし、第一ヤることヤッてるだけですなんて言いようがねぇだろ」
    相手は近藤さんだぞ。
    「それはそうですけど」
    締め上げればいいだけの山崎などとは違って、相手は彼らの道標であり旗印であり着いていくべきその人なのだ。沖田にとって父のような兄のような、姉を喪った今となっては彼の一番幼い頃を知っている人でもある
    土方と沖田の間だけで共有している秘密はどれもこれもが薄暗くて、肉体関係があることだって、その薄暗さの中にいたのだ。最初は人を斬ったあとの興奮を抑えるために傍に寄るくらいだったのが、触れるようになって、口付けを交わすようになって、姉が亡くなってからは空白を埋めるように身体を繋げた。
    先程土方が言った、なし崩しという表現は間違っていない。なにも言葉はなかった。
    「周りには言うなって釘刺しといたし、必要になれば恋人のふりするくらいでいいだろ」
    ちらりと横目で土方の様子を伺うが、窓の外に視線をやっていて、表情は分からなかった。
    あんたは、オレと付き合ってるって近藤さんに思われていてもいいんですか。
    そう聞きたくても、直接、真剣に土方に何かを言うことがなかった沖田は、結局それを飲み込むしかなかった。



    土方が部屋でごろごろしていた沖田のところに遊園地のペアチケットを持ってきたのは、彼らがお付き合いしているふりをすることになってから二週間ほど経った頃だった。
    「作戦立てるぞ」
    急に言われても、はぁと生返事を返すことしか出来ない。そのチケットはどうしたのかと聞くと目の前の仏頂面の男はその顔のまま、低い声で、近藤さんにもらったと唸った。
    なるほどと合点がいく。土方は自分で遊園地のチケットを買うような性格でも、商店街のくじ引きを楽しむような茶目っ気があるわけでもない。
    「いつものあの女に渡そうとして断られたんだと。それでたまには二人でデートでもどうかとか言って渡してきた」
    「最近忙しかったから気を回してくれたのかもしれやせんねぇ」
    もしかしたら最初から二人のために用意していたのかもしれない。なにせ近藤だ。仲人気質の恋愛乙女ゴリラだ。
    「どうせ尾行するつもりなんだろ。熱心に二人分の有給申請書まで用意してたし」
    「それで作戦を立てる、と」
    律儀で真面目なことだ。付き合っているふりをするのも骨が折れる。そんなにこの状態を維持したいのだろうか。
    寝巻きの懐から遊園地の地図を取り出し、畳に広げたのを見やって躙り寄る。横着すんなと叱られたが気にしない。土方相手なら何をしてもいいと思っているのだ。
    「なに乗りたい、総悟」
    作戦なんていつもの討ち入りのように土方一人で立てればいいのに、というところまで考えて、この人には遊ぶ計画なんて立てられないなということに気付く。仕方ないから考えてやるかと息巻いたところで沖田も娯楽には明るくない。
    ましては恋人同士のデートなんて。
    「…………観覧車とか」
    ちゅーするところ。
    たっぷり溜めて、思いついたのはそれだけ。恋人といえばちゅー、ちゅーといえば観覧車。観覧車はちゅーするために作られている。
    最終的に川に落ちて記憶も失ったのか、土方は松平の娘のデートを邪魔しにいった時のことを話題に出さず、観覧車案をそのまま了承した。
    まじでか。
    ばくばくと心臓が鳴り、妙な冷や汗が出る。胸のあたりがそわそわとして思わず生唾を呑んだ。
    土方と事に及ぶのはいつも討ち入りの後や、溜まった時とか、そういった日陰なのだ。白昼堂々、遊園地で、なんて。
    「観覧車は一番最後にするとして、無難にジェットコースターとかか」
    話を続ける土方にハッとして、沖田はいつも通りの顔を作る。
    「そこはお化け屋敷でしょう」
    「あ」
    いつも通り、わざと土方の嫌がることを言って反応を楽しむ。灰色がかった青い目がこちらを向く。
    「そーいえば土方さん、お化け怖いんでしたっけ」
    「馬鹿野郎、あんなの怖いわけねぇだろ」
    「じゃあ行きやしょうよ、本物が混じってないか取締りに」
    「上等じゃねぇか」
    簡単に乗ってくる。こういう時、沖田はなぜ鬼の副長などと土方が呼ばれているのかと考える。確かに瞳孔開いてるし目つきは悪いが、女に好かれる顔をしているし、第一こんな風に怒っても怖くない。山崎あたりが聞いたらそれは副長が沖田隊長に甘いからですよとでも言いそうなことを、沖田は本気で疑問に思っている。
    「あとはティーカップとか。音速超えてやりまさァ」
    段々と饒舌になっていく。
    沖田の語りを聞いて、時折反応しながら土方が紙にまとめる。適当なことも言っているのに、真剣な顔をして、デートプランを立てている。
    「よし、これでいいだろ」
    達成感でにやりと悪人顔をした土方にぱちぱちと雑な拍手をする。目の前に広がる計画書を眺めて、最後の一文の観覧車という文字に気付く。しまった、と思った頃には今の今まで忘れていた感覚が戻ってきた。どくどくと心臓がうるさい。
    「じゃあもういいですよね、明日も早いんだし早く寝やしょう。ほら帰った帰った」
    「なんだよ、総悟」
    「おやすみなせぇ」
    ばっと襖を開いて土方を外に追い出した。わけわかんねぇとぶちぶち言っている声が廊下の先に消えていくのを襖越しに聞いて、やっと息を吐き出す。
    「観覧車……」
    こんな状態で当日はどうするんだ、と少し煙草の匂いの残る空気を吸ってひとり途方に暮れた。
    沖田の抱える土方への感情は、複雑で、ごちゃごちゃとしていて、まとまりがない。元より何かを紐解いて考えることをしようともしないから、基本的には見て見ぬふりをするしかない。
    しかし、土方の存在はどうにも沖田の人生に深く食い込んで絡んでいるものだから、考えざるを得ない。足りない頭でうんうん唸って考えて、出した結論を土方に伝えたことはない。監禁して本音を洩らしてみたことはあったが、冗談としてオチをつけてしまった。
    考えて、言葉にしてみて、抑え込んで。
    それでも溢れ出すものは土方をいじめることで発散しているのだ。
    もそもそと布団を用意してそれに身を埋めながら、そんなことをぐるぐる考える。
    こういう風に悩むのは柄じゃないのに、悩んでいるのは自分だけなのか。そんなイライラがふつふつと湧いてきて、いよいよ眠れそうにない。
    仕方なしに羊の代わりに土方の死体を数えることにして赤いいつものアイマスクを手に取った。




    来たるべきデート当日。
    いつも通り起きた二人は洗面台の前で鉢合わせた。気のない挨拶を交わして、そのまま朝のルーティンをそれぞれ始める。沖田がばしゃばしゃと顔を洗う間に、土方はシェーディングクリームを器用に泡立てている。髭の生えない沖田には必要のないものだが、ただのクリックをあわあわにするなんて多分オレには出来ないなと思いながらその辺にあったタオルで顔を拭く。朝の準備はそれで終了。
    朝ご飯はなんだろな〜などとふんふん歌いながら洗面台に背を向ける。
    「総悟」
    振り向いて、慣れたように頭に手を置かれた。沖田のものより一回り大きく、節立った手が後頭部を撫でつける。
    「寝癖ついてる」
    まだ眠気まなこで、顎には泡がついたままで、そんな状態でも色男というのは絵になるものだ。少し掠れた声が心地いい。オレが女だったらイチコロだったろうなぁと思いながら黙って寝癖が直るのを待つ。
    「今日はデートだろ、気合い入れろよ」
    そんなことを言われてはたまらない。土方は気合いを入れているんだろうか そう思ったらいつもより髭を剃る手が丁寧に見えてきて、たまらず食堂まで逃げ出した。
    「総悟 今日は晴れて良かったなぁ」
    すでに私服に着替えている近藤がお天道様より眩しく笑う。それに思わず目を細めて、軽く挨拶をした。
    「トシはまだか」
    「さぁ、そろそろ来ると思いやすよ」
    殆ど中身のない会話をしているのに、近藤はにこにこと嬉しそうだ。ちくちくと胸が痛む。抱え込んだ仄暗いものが疼く。
    適当なところで会話を切り上げて、食事を受け取りに行った。男所帯でがやがやとうるさい食堂のいつもの席について食べ始めると、やがて少し目が覚めた様子の土方が前の席に座った。
    目線を落としながら食事を口に運んでいるうちにいつものマヨネーズの匂いがしてきて安心した。周りの隊士達も慣れた様子で談笑を続けている。いつも通りな食堂の中で、そわそわとしているのは自分だけかと段々とイライラしてくる。こうなった沖田はもう土方を弄るしかない。
    「着替えたら覆面パトカー置いてある方の駐車場来いよ」
    なにか軽口を言ってやろうとした口はただ閉じるしかなくなった。八時な、と付け足されたそれにただ頷いて食事を再開する。
    今日、沖田は、土方とデートをする。



    ヘビースモーカーな土方が乗る車は決まっていた。こんなに煙草の匂いが染み付いた車に乗ったら病気になるなどと隊士たちが軽口を叩きながら避けるので、休みの日に使うのも許される。
    大江戸警察と書いていない車に乗るのは久しぶりだった。流線型の濃紺の車を眺める。フロント部分が厳つい顔に見えて、車も乗っている人に似るのだろうかと丸い目を瞬かせた。
    「職権濫用ですよね」
    「はぁ」
    迷わず運転席のドアを開いた土方がシートベルトを付けながら怪訝そうな顔をする。
    「喫煙者は得だなぁと思いやして」
    「その喫煙者を屯所から追い出したのはどこのどいつだっつーの」
    助手席に座って遊園地の住所を入れながら軽口を言う。
    煙草禁止令を出した時はいつもの嫌がらせで反応を見るのを楽しみにしていたのに、地球を飛び出してしまって、だんだんと煙草の匂いの消えていく屯所に慣れなくてすぐ廃止する羽目になった。
    しばらく無言が続く。
    土方は普通に運転しているものだから、弄るネタも特に浮かばないし、第一沖田が緊張していてそれどころではない。こなれた様子で運転する隣の男がどうか知らないが、沖田はこれが人生初デートなのだ。調教した女に首輪と鎖をつけて連れ歩くのとは違う。
    そうこうしているうちに遊園地に着いた。
    テーマパークの入口から大きな観覧車が見える。ひゅうと冷たい風が吹いて背筋がぞくりと粟だった。いまの沖田にはカラフルな観覧車が魔王のいる城のように見える。日が暮れてきたらぴかぴかと禍々しく光るのだろう。
    「ほら、いくぞ」
    そういった土方が手を差し出していないのが幸いだった。目立つことをする彼がそんなことをしないのは分かってはいたけれど、これはデートなので。
    「命令すんな」
    頭を振って観覧車のことを追い出す。空っぽなので簡単にぽろぽろとこぼれ落ちた。
    こうなれば単純で、年頃ながら仕事に関係なく遊園地に来るのが初めてな沖田の心はわくわくと弾み出す。
    楽しくなってきたらもういつも通りで、カチューシャ買いましょうと言い放って走り出す。
    「早く着いたほうが選んだのをつけるってことで」
    「おい待てこら!」
    総悟、と叫ぶ声を置き去りにして走り出す。
    さすが娯楽施設。平日だというのにそこそこ人がいる。家族連れだとか、友達同士のグループだとか、浮かれたカップルだとか。遊園地に来てまで追いかけっこをしている自分たちは傍からどう見えているのだろう。少なくとも恋人同士には見えるまい。
    「遅かったですね。はいこれつけてくだせぇ」
    売店に並んでいる中で一番かわいくて滑稽に見えるものを選んで、肩で息をする土方に被せる。ピンクでラメでひらひらしたカチューシャが跳ねた髪に埋もれた。触ってみると存外柔らかい。
    「しっかり撒いてるんじゃねぇよ」
    「最近デスクワーク続きで鈍ったんですかィ 軽い運動ですよ」
    食えない顔をした沖田がちょいちょいと土方に被せたカチューシャを弄る。
    「近藤さんまで撒いたら意味ないだろ」
    「近藤さん」
    そういえばストーキングならぬ、尾行をするに違いないとか、そんな話があった気がする。沖田は先日のやり取りを思い出しながらぱちりぱちりと瞬きした。
    「見せつけないと意味ねぇんだからちゃんと着いて来いよ」
    「はぁい」
    気のない返事をして、カチューシャの会計を済まそうとしたら寸でのところで土方に見つかった。熱い手が沖田の手首を掴む。さっきまで自分の頭に着いていたそれに顔をしかめた男に、怒気を含めた声で名前を叫ばれる。
    だからそんな声出したって怖くないんだって。
    沖田がカチューシャを手放さないので、しばらく顰めっ面をしたままだった男はやがて眉間のシワを緩めて嘆息した。
    「これなら買ってやる」
    そう言って手に取ったのは一番シンプルな宇宙人の頭の触覚形のもので、その時点でも驚いたのだが、沖田を何より驚かせたのは土方がそれを二つ持っていたことだった。
    お揃い
    あのヘタレで恥ずかしがり屋の土方が。
    わなわなと震える沖田を見た土方はさっさとそれらを買ってしまった。買ったそれをずぼりと沖田の頭に被せる。
    「似合ってる」
    なんて揶揄う風でもなく言うから、沖田は土方死ねコノヤロー と叫ぶしかなくなるのだ。



    ティーカップで回りすぎて吐きかけたり、ゴーカートで飛ばしすぎて怒られたり、お化け屋敷で土方を散々にからかったり。揃いのカチューシャをつけた二人は時折どこぞのゴリラの視線を感じながらもそれなりに園内を回って楽しんだ。
    太陽が中天まで上り、活気も出てきた頃。至って健康的な男である二人は空腹を満たすためにフードコートに訪れた。
    土方はカツ丼、沖田はラーメンを頼み、午後の作戦会議のために地図を開きながら席に着く。
    そして目の前の至って真剣な顔で土方が無言で、沖田の分の食事にまでマヨネーズをかけ始める。
    「土方さん。人のメシまで犬のエサにしないでくだせぇ」
    本心から引きながらも、度を超えた辛いもの好きであった姉や身体がマヨネーズで出来ている土方に囲まれて育った沖田は慣れたもので、普通に口をつける。
    「優しい土方さんの心遣いを無下にするんじゃねぇよ。美味いだろうが」
    ズズズと啜るように食べる土方は心の底からこの黄色い物体を愛していて、自分の食べ方に一切疑問を持っていない。万事屋の坂田になど鼻くそを投げられたのに。
    ふと気付くと、土方と沖田の方を伺っていた女たちが軽い悲鳴のようなものを上げて目を逸らしていた。目の前の色男は、真選組一のモテ男ではあるが寄ってきた女をこの奇行で跳ね除けてしまうから、案外浮いた噂がない。
    勿体ないような、そうでもないような。
    興味の幅が極端に狭い沖田には判別がつかない。でも、どこぞの女と噂が立つ方が懐かない弟分と付き合っていることになっている現状よりもましなのではないかと思う。
    「次、どこ行く」
    マヨネーズの塊と化したカツ丼を完食した土方が地図を指す。脂で濡れた唇が昼の光を受けてぬるりと輝いた。昼なのにいやらしい。
    「予定ではなんでしたっけ。せっかくなら全部回りましょうよ」
    「いいな」
    「歳なんだから途中でバテないでくだせぇよ」
    「言ってろ。お前こそまたジェットコースターで目回すんじゃねぇぞ」
    あれ
    ザルのような頭が違和感を拾う。
    覚えている
    思わず目線を落として、地図の真ん中に大きく描かれた観覧車とばちりと目が合ってしまった。
    もし、覚えているのなら。
    嫌がらせの時は土方の反応が手に取るようにわかるし、そういった快感で支配欲を満たしている沖田だが、ふとした瞬間に土方が何を考えているのか全く読めなくなる時がある。
    今がそうだ。
    「そろそろ行くか」
    椅子を引いて立ち上がった土方の頭の間抜けな触覚がぐらぐらと揺れた。触覚に目をやったせいでさっき意識した唇に目がいく。柄にもなく心臓が跳ねて、瞳孔が開く。
    遊園地というのは、戦場より厄介かもしれない。



    来た頃には青く透き通っていた空が、薄い幕が重なっていくかのように色を変えていく。橙から赤に変わり紺に落ちていく空の中で、一番星より早く現れた遊園地の人工的な光がぴかぴかと目に眩しい。
    あのラスボスのように聳える観覧車もなにより眩く輝いていた。
    早く閉園しないかなぁ、覚えてたとしてもちゅーするとは限らないよなぁ。などと考えながら、沖田は睨むように観覧車を見上げる。
    「次で最後だな」
    「そうですね」
    なるべく変な声にならないように抑えたら、思ったより低い唸るような声が出て焦った。
    ちゅーなんて何度もしてるのに、なんでこんなに緊張するのか。よりによって自分から言い出したことで。
    妙にじっとりとした拳を握りしめて、観覧車へと一歩足を踏み出した。
    この遊園地いちばんの大物である観覧車は、日が沈み始めたことも手伝ってか、すでに列ができあがっていた。当然のようにカップルが多く、あちこちでべたべたと接触しているのが見える。ちらほらと女子だけのグループもいるが、男二人は土方と沖田以外見当たらなかった。
    一周十五分。
    長いような短いような時間が記された看板が目に入る。頂上に着くのはその半分くらい。カップルは観覧車の頂上でキスをすると、流し見していた何かのドラマで見た覚えがあるから多分そういうものなのだろう。
    仕掛けに行くか、動くのを待つか。
    ちらりと横の土方を見上げる。全てが丸で構成された沖田と違って、程よく骨の出た顔は男らしい色気がある。一日中遊園地の中を歩き回った疲労の滲み出た顔を見ていると嗜虐心が刺激される。ムラムラとも言う。
    よし決めた。オレからちゅーしてやろう。ヘタレ土方のくせに振り回した罰でィ。
    勝手に慌てふためいていたことには知らんぷりをして、サディスティック星から来た王子様はにやりと悪い顔をした。
    「はい、お写真撮りますねぇ」
    次が自分たちの番かとなったところでカメラを片手に持った女がにこやかに声をかけてきた。土方は断ったものの、気に入らなかったら買わなくてもよろしいのでという言葉に押し切られ、二人して撮影ブースに押し込まれる。
    美丈夫と美少年のタイプの違うイケメン二人の並びに、列が色めき立つ。普段なら気にもしない沖田だったが、デートという状況が急に気恥ずかしくなった。
    「死ね土方」
    叫び、振り返りざまの回し蹴り。
    腹立つことに上半身を反らして避けた土方の頭上を空振りする。
    撮りますよ、と声をかけていた瞬間の出来事だったせいでパシャリとその光景がそのまま写真に収められる。
    カメラは急には止まれない。
    「もう一度お撮りしますか」
    笑顔を崩さないのはさすが夢を届ける遊園地の従業員と言ったところか。
    どうせ買わないんで、とにべもなく断った土方に首根っこを掴まれた。珍しく抵抗する気も起きなくなった沖田はずるずると観覧車の一室まで連行される。
    「なんの真似だ、総悟」
    「やだなぁ土方さん。かわいいオレの茶目っ気でさァ」
    「どの口が言いやがるどの口が」
    若干顔が引きつった従業員に扉を締められ、ゆっくりと頂上まで誘われる。
    土方が引きずった沖田をそのまま隣に座らせたせいで、二人の間は鼠が通るほどもない。男女のカップルならいざ知らず、鍛えた男同士だからかとても狭く感じる。
    「楽しかったですよ、今日。ほんとの恋人同士みたいで、でも、あまり普段と変わらなくて」
    ぽつりと洩らした。考えるのは苦手なのだ。どうせならいっぱい食わせたいという気持ちで、あくまで嫌がらせの一環のつもりで言葉を紡いだ。
    「今までだって二人で出かけてやしたし、何が変わるわけでもないと思ってましたけど、土方さんはカチューシャつけてくれるし」
    横に座っているおかげで、体温はすぐそばに感じるものの、顔は見えない。
    上から下に色がゆっくり変化していく空を眺めながら、下から上へとゆっくり上がっていく。
    観覧車の魔力なのか、密接した空間がそうさせるのか、だんだんと身体の力が抜けてきて、ことりと土方の肩に頭を預ける。いつもの軽口を叩き合うのと、閨で求め合うのと真ん中にいるような心地良さがある。
    「もしまた近藤さんがチケット持ってきたりしたら、一緒に行きやす」
    「……そうだな」
    沖田といる時は割と喋る土方が言葉少ない。肩口にもたれながら、少しだけ上を向いて顔を見ようとする。どんな顔をしているのだろうか。
    「総悟」
    すうと流れるような仕草で顎を掴まれて、あっと思っているうちに口付けられていた。
    まだ頂上じゃないのに。
    狭いからか、雰囲気か、少しだけ外より生ぬるい空気の中で、ぬるりと舌をこすり合わせるようなキスをする。大人のキスだ。しかも、相手を一方的に蹂躙するようなものではなくて、お互いに求め合うような。
    「観覧車はちゅーするために作られたんだろ」
    つう、と二人の間を厭らしく繋いだ銀糸が切れて、土方がにやりと笑った。悪い、悪い大人の男の顔だ。沖田の一等弱い大人の。
    「覚えてやしたか」
    「思い出したんだよ。妙にそわそわしてやがったから、何かあったかと思って」
    「……気付いてたんですね」
    こういう大人の顔が気に食わないのだ。余裕のあるような顔。いつもは対等に喧嘩をしているくせに。
    「観覧車でちゅーなんてしたら、本当の恋人同士みたいじゃねぇですか。いいんですか、土方さんはそれで」
    「いいんじゃねぇの。別に。今までと変わらないだろ」
    狭い観覧車の中で、一辺に座って、向かい合って。男二人が乗った車両はさぞ傾いているだろう。遠目から見たら、きっとすぐ分かる。
    「じゃあ本当に付き合っちゃいやす」
    「それもいいな」
    頂上。
    今度は沖田の方から、土方の唇に吸い寄せられるようにキスをした。



    明くる日。
    昨日の晴天のまま晴れた屯所に帰った土方と沖田を出迎えたのは。観覧車の前で撮った彼らの写真を握りしめて号泣した我らが真選組局長近藤勲だった。
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    potemu_temtem

    DOODLE土沖webオンリーひつじを数えた寝起きに恋した〜二度寝〜開催おめでとうございます!
    肉体関係のある付き合ってない土沖が近藤さんに付き合ってると勘違いされてなんやかんや付き合うことになる話です。
    一万字程度。
    うそからでたまこと。またはまことからでたうそ 後から考えれば、だが。
    深く高く敬愛し慕う、我らが真選組局長近藤勲の言葉は沖田総悟にとって青天の霹靂ならぬ曇天に差す光であったと言えるのかもしれない。



    「お前たち付き合ってるのか」
    珍しく幹部三人で連れ立って向かったファミレスで、食後のデザートまで楽しんだあと、妙にそわそわとした様子の近藤が小さく、それでも興奮を抑えきれないといった声でとんでもないことを言った。
    近藤の向かいに座った土方は上手く紫煙が吐き出せなかったのかゲホゲホと咳き込む。沖田の方はというと、何を考えているのか分からないまるい瞳のまま、こてりと首を傾げた。
    砂色の髪に覆われた彼の頭の中は残念ながら空っぽで、つきあうという字を上手く脳内変換できていない。パッと思い浮かんだのは突き合う。職業柄とも言えるかもしれないが、突き合ってはないなぁ、突かれているだけだなぁという方向に思考がいってしまったので、ただの下ネタだった。
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