ぼくらの半日戦争(の途中)「大好き。一生そばにいて」
「うん」
「だいすき」
「ん、俺も好き」
ざらついていた感情が泡になって弾ける。穏やかな波がノーマンの胸を攫い、心がレイに占領されていくのを感じていた。レイは最後の一掬いを口の中に放り込み、スプーンを空瓶へ雑に活けたところであった。ささいな仕草のひとつひとつから目が離せない。
ノーマンは瓶の底にカツカツとスプーンの先端をぶつけながら、甘えるようにして肩にもたれかかる。
「僕と結婚して」
「してる。ほら、指輪」
瓶を持ったままのレイの左手、薬指がピンと伸びた。つられて一緒に伸びる小指がかわいい。
ノーマンはスプーンを口に咥えて自身の手を見た。そこには当然のように同じ指輪が光っている。なんだか眩しくてくらくらして、ノーマンはレイの肩に額を押し付けた。
プリンはすっかり胃の中に収めてしまったのに、甘く香る余韻を離したくなくて瓶を握りしめていた。レイが笑う気配がした時には口からスプーンが抜き取られていた。カチッと硬質な音とともに手の中から瓶も消える。
レイの手がノーマンの肩を支えて身じろぐ。薄目を開けるとローテーブルに幸せの残骸が仲良く並んでいた。
ノーマンは頬を肩に押し付けたままレイを見上げる。目が合った。動揺したように視線が泳ぐのが見えた。レイは片手で口元を覆い、もう片手でノーマンの肩を引き寄せる。前髪の内側、レイだけのテリトリーでいくつかの感情が葛藤しているように見えた。ノーマンはそのうちのひとつを紐解くべく、左手を伸ばす。
口を隠すレイの手を剥がして頬を撫でる。何らかの引力が働いて吸い込まれるように唇が合わさった。バニラとミルクの香り、ほのかに甘い微睡みの匂いがする。