アッシュフォード学園高等部。ルルーシュ・ランペルージは、学園の高嶺の花だった。そして、僕は高校で再会したルルーシュの幼馴染で、たったひとりの友達だ。
見るからに優秀なDomのルルーシュとイレブンのSubの僕。パートナーとして付き合うようになったのもつまりは必然だ。ただ、僕にはほんの少し違和感があったのだけど。
マナーハウスのルルーシュの部屋で、いつものプレイが始まる。
最初は、服を着たままでKneel(お座り)と命じられた。ベッドに腰かけたルルーシュの足元に腰を下ろし、長い脚に頬擦りをして甘えてみせる。
「僕、犬みたいだね」
「そうだな、俺の可愛い日本犬だ」
ルルーシュは、イレブンのことを日本と呼ぶ。小さなころ、一年間だけ一緒に過ごした時間を今でも大事にしてくれているんだ。ルルーシュの前だと僕も日本人でいていいのだと思える。嬉しくて、尻尾を振って喜びを伝える代わりに、どうやればいいんだろう? 見上げると、僕を見下ろすルルーシュも嬉しそうに微笑んでいた。顎を持ち上げられて、こちょこちょっとくすぐられたので、その手の甲を舐める。僕たちはすぐに服を脱いで、ベッドでじゃれ合い始めた。裸になるのは、パートナーになってからの信頼関係を積み重ねてからがベストだと言われているけれど、僕らはとっくに信頼の面はクリアしてるよね?
「ルルーシュ、もっと命令してよ」
ルルーシュはニッと笑うと、床を指さしもう一度Kneelと言った。ベッドから素早く下りると、僕は恭しく跪く。腕はこの位置だっただろうか。ナイフを握った拳が、喉元を突く位置。いつか見たブリタニアの騎士叙勲式の映像を思い出して、騎士が主にするように跪いたのだ。ルルーシュの反応が知りたくて盗み見すると、驚いて固まっているみたいだった。そうだよね、日本人の僕がブリタニアの騎士の真似事をしたらおかしいよね。よくないことをしたのかもしれないと急に不安になる。
逡巡している間に、ルルーシュの白い足がすっと洗練された優雅な仕草でベッドからおり、僕の前で止まった。
「まさに騎士になろうとする者に。真理を守るべし、主を守るべし、ブリタニアの民すべてを守護すべし」
低くなめらかなルルーシュの声。いつもより厳かな声。
主から騎士への祝別の言葉だ。
映像で見たような貴重なガラスと壁画で埋め尽くされた、厳かにして煌びやかな大聖堂ではなかったけれど、僕はルルーシュから騎士として祝福を受けた。
僕も慌てて、同じ祝別をたどたどしく繰り返す。つっかえてしまったところは、ルルーシュが小声で直してくれる。
真理を守るべし。
主を守るべし。
ブリタニアの民すべてを守護すべし。
ルルーシュが裸の腰に剣をさげた振りをした。僕が見た映像の通りだ。それから、二本にそろえた指を剣に模して、僕の首筋を軽く三度打つ。リッターシュラーク。「打ち返してはならぬ平手打ち」と呼ばれる首打ちの儀式だった。
この瞬間。
僕は騎士となり、ルルーシュは忠誠を誓うべき主君となったのだ。
見上げたルルーシュの頬は薔薇色に染まり、微笑むその顔は幸せそうでとても綺麗だった。