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    NovelRead3

    思いついたSS(修正前/ちょっと長めやちょっと暴力表現有やちょっとエロいの)を適当にポイポイします。

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    秋8公演『サウスヒルプリズン』の裏話的個人妄想。
    臣十前提の『死ん負け』についての万里と臣の話。
    2人にとって、十座が特別な存在だということ(同時に十座にとってそれぞれ特別ということ)と『死ん負け≒ヴォルフWヘッド』の関係性について。

    #プリズン
    prison
    #伏見臣
    fushimi-san
    #摂津万里
    "jinwanli

    甘やかし臣と突き放し万里/秋8公演時刻は日付も変わる少し前。場所は、人気のない談話室。
    水を飲みに来た万里は、キッチンに立つ臣を見て、意外そうな声を上げる。
    「…珍しいな。臣が料理中も台本持ってるなんて」
    「ああ、万里」
    声を掛けられて初めて気づいた臣が、少し困ったように笑う。
    「いや、ちょと本読みしてたんだが、行き詰ってな。気晴らしにスコーンでも焼こうかと思って」
    「気晴らし、ねえ」
    そう言いながら臣の手元を覗き込んで、万里は口の端で笑う。
    「わざわざ生地二つに分けてるってことは、片方は兵頭の激甘スコーン用だろ」
    「はは、よく分かったな。さすが万里だ」
    万里の推察に、臣はいつもの笑顔で頷いた。当てた万里が反対に苦笑する。
    「いや、本当は否定の言葉が欲しかったんだけどな?」
    臣と十座が付き合いだして、もう2年以上が過ぎた。最初はその関係性がよく分からず混乱することもあった万里だが、今はちょうどいいポジションを見つけて収まっている―――2人へのツッコみ役だ。
    万里は冷蔵庫から水を取り出して飲むと、片手で器用に生地を練る臣の手元を見ながら、呆れたため息をついた。
    「はあ。よくもまあ、あんなコワモテゴリラをそこまでデロデロに甘やかせるな…」
    万里も恋人には甘い方だが、臣の甘さは正直ちょっとヒくレベルだ。
    「何言ってんだ、十座は誰よりも可愛いだろ」
    「…お前が本気でそう言ってんのが分かるから、余計恐いわ」
    真剣に断言する臣に、もう何度ついたか分からないため息をもう一度ついて、話題を変える。
    「…んで。どこで行き詰ったんだ?」
    臣が持っているのは、次回の秋組第8回公演『サウスヒルプリズン』の台本だ。
    そこで臣は、主演の十座演じるショウと準主演の莇演じるレンの兄弟にとって重要な役回りのダグラスを演じる。
    だが、ダグラスは臣にとってかなり難しい役なのは秋組全員が理解しており、役づくりもいつもより苦戦しているのを万里は知っていた。
    「ああ、ここのダグラスが抜け穴を見つけるところでな。何回やっても、感情がうまくかみ合わなくて…」
    「ああ。確かに、ここは一番難しいとこだよな。まだレンの死の真相について、お互い分かってない時だもんな」
    「そうなんだ。あっけらかんと振り過ぎても後で後悔の感情と辻褄が合わなくなるし、動揺しすぎても怪しいし…」
    「んじゃ、ちょっと後悔を強めに出してみるか? この時、ダグラスはまだレンの脱獄計画の共犯って告白してないから、ここで『もっと早く気付いてやれてたら』って表向きの感情と『ここから一緒に脱獄できてたら、レンを死なせずに済んだのに』っていう本心とで、どっちも後悔に矛盾しない」
    万里の提案に、臣は何度か心の中で台詞を反芻して、頷く。
    「なるほど…万里、ちょっと読み合わせ付き合ってもらっていいか?」
    「もち。俺も本持って来るな」
    万里は飲んだコップを軽く洗って伏せると、踵を返して部屋から脚本を取ってきた。
    そして、2人でその場面を演じてみる。
    何度か繰り返すうちに臣は納得のいく表現を見つけ、大きく頷いた。
    「…うん。この方向で行こう。ありがとな、万里。お陰でちょっとダグラスへの理解が深まった」
    柔らかく微笑む臣に、万里はいつもの強気な笑顔で返す。
    「別に。これくらいいつでも付き合うぜ」
    「頼りになるよ。さすが秋組リーダーだな」
    「はいはい、俺も甘やかさなくていいっつの。あ、ちなみにあの大根は今グースカいびきかいて寝てたから、そのスコーンは明日までお預けな」
    万里が伝えると、臣は平静に頷いた。
    「ああ、知ってる。今日も遅くまで自主練をしてたみたいだから」
    「さっすが…恐いくらいの把握力だな」
    また苦笑いをした万里は、臣と2人きりというこの状況下で、ふと昔から思っていた疑問を零した。
    「…つかさ。前から聞きたかったんだけど…」
    「なんだ?」
    「…臣はイヤじゃねーの? 俺と兵頭が、その…意識しあってるっつーか…いや、なんでもねぇ」
    零れた言葉に万里自身が身震いして、慌てて質問を止めた。
    これじゃあまるで―――自分が十座にとって特別な存在であると宣言しているようなものだ。
    だが、臣はそんな万里の心の奥まで見通すように笑う。
    「…万里が、十座の特別な存在って事が、俺が嫌か気にしてくれてるのか?」
    「……そういう言い方ヤメロ」
    思考をそのまま読まれているかのようで、非常に居心地悪い。
    そんな万里の素直な反応に、臣は朗らかに笑う。
    「あはは、すまない」
    そして、少し遠くを見るように目を細めて、答えを話し出す。
    「…気にならないと言えば嘘になる。特に十座と付き合いたての頃は、十座が万里を意識しまくるのに妬いたり、万里が十座とじゃれるのにムッとしたりもした」
    「…そうだったな」
    あの頃は、万里も臣も十座も、お互いに対する距離感がよく分からなかった。近すぎたり離れすぎたり衝突したり…本当に色々あった。
    「…けど、あれから色々あって…やっぱり、板の上で生きてく上で、十座には万里が必要だって、そこはもう動かないって確信しちまった」
    万里が嫌がらせを受けて、万里の家族が劇団に来た時。
    十座ははっきりと「兵頭十座という役者のためにも、摂津万里っていう役者が必要なんだ」と言ったらしい。
    それを十座から聞いた時、嬉しさと寂しさが交じり合った、不思議な気持ちになった。
    だが、十座にそうはっきりと言われたことで、臣も改めて考えた。
    「それに…」
    一瞬言葉を切って、大事な宝石を取り出すように、万里に告げた。
    「俺にも、芝居する上で欠かせない相棒がいるからな」
    その宝石を万里も大切に受け取って、臣と同じ方向に視線を向ける。
    「……那智さんか」
    「ああ。俺の芝居のキッカケが那智であったように、万里の芝居のキッカケは十座だろ?そして、那智の想いを抱いて俺が芝居するように、十座は万里と張り合って芝居を磨いていく。そういう相棒は…やっぱり大事にしなきゃな」
    その言葉に込められた想いがあまりにも繊細で複雑で…万里は視線を逸らした。
    「……俺と兵頭は、臣と那智さんみたいに仲良くねえけどな」
    それだけ言うのが精いっぱいで、けれど臣はいつものように穏やかに笑った。
    「いや、よく似てるよ。俺も那智とは喧嘩ばっかしてたからな」
    その笑顔に、万里は思う。
    もしかしてーーー臣は、万里と十座に、在りし日の自分と那智を重ねて見ているのかもしれない。
    或いは、もしかしたら在ったかもしれない未来の自分達すらも。
    「………」
    万里は、翻って思う。
    自分は、もしも十座を亡くしたら、それでも板の上に立っていられるのだろうか?
    或いは、立てたとして、まともな芝居が出来るのだろうか?
    一瞬想像しただけでも、胸が真っ黒に塗り潰されるような重い痛みが走る。
    その事実は決して認めないが、目の前の仲間は、その痛みを実際に乗り越えて来たのだ。
    「…やっぱすげぇな、臣は」
    思わずそう呟いた万里に、臣は「ん?なにか言ったか?」とキョトンとしていた。
    「いや、なんでもねえ」と小さく笑って首を振る万里。
    そんな万里に臣は優しく笑いかける。
    「…今は、十座に万里が居てくれて本当に良かったと思うよ。特に、今回の十座の件で強く思った」
    「はあ?なんでだよ。俺、何もしてねえぞ」
    本気で顔を顰める万里に、臣は思わず苦笑した。
    「何もしてないことないだろ。あれだけ十座の為に色んな演出案出してくれたのに」
    『サウスヒルプリズン』で十座の「夜明けのシーンを入れたい」というリクエストを際立たせる為に、舞台を薄暗い監獄にしようと言ったのも、十座を極力一人にしない為に常に誰かが傍に居れるようにしたいと臣が言うと、幽霊の案を出したのも万里だ。
    「あれは…演出助手として当然のことしただけで、別に兵頭の為って訳じゃ…」
    「あはは、まあ、それが一番十座の為になるんだがな」
    「………」
    万里にもその気持ちがあっただけに、臣の言葉に何も言わなかった。臣は更に言葉を続ける。
    「それに、万里は何もしてないって言ったが、十座にとってはそれが一番良かったりするんだと思う」
    それは半分自嘲を含んだ声音で、臣は自然と俯きながらポツリポツリと話す。
    「俺は、どうしてもじっとしてられないからつい色々しちまうが、十座はもしかしたら鬱陶しいって思ってるかもしれない。万里や左京さんくらい離れて見守る方がいいのかもって、時々思うよ」
    その声があまりにも弱気だから、万里は思わず強く言った。
    「そんな事ねえだろ」
    「え?」
    思いの外強く否定され、臣は驚いて万里を見る。
    万里は、小さく顔を顰めながらボソリと話す。
    「傍から見てりゃ嫌でも分かる。あの大根は、臣に甘やかされるのが…心底嬉しそうだ」
    腹立つくらいに…と音もなく添えた万里はどこか拗ねたように唇を尖らせていた。
    「今も、どん底に落ち込まねえのは、臣がいるからじゃね?じゃなきゃアイツ、今頃キノコでも生えた闇大根になってただろ」
    万里の言葉に、ほんのりと顔色が明るくなる臣。
    「…万里にそう言われると……ちょっと自信持てるな」
    「なんでだよ」
    ムスっとしたままツッコむ万里に、臣はニコリと笑って答える。
    「だって、十座を一番よく見てるのは、万里だろ」
    「んなこと絶対ねえ!」
    思わず声を荒げる万里に、臣はあははと笑って前言を撤回した。
    「そうだな、そこは恋人として譲れないな」
    「いきなりノロケんのかよ!」
    万里のツッコミが聞こえているのかいないのか、臣は温かい笑顔でさらりと言った。
    「これからも、十座をよろしく頼むな」
    「…言われなくたって。って違ぇ!」
    思わず肯定的に返した万里は即座に否定するが、勿論臣は「あはは、本音が出たな」と同じくらいのさりげなさで流す。だから万里は余計ムキになる。
    「だから違ぇって!つか臣、どの立場で言ってんだ、オカンか!」
    「彼氏だ」
    「だから唐突にのろけんな!」
    日付の変わった、十座のライバルと十座の恋人しかいない談話室。
    形は違えど、立場は違えど、そこにあるのは深くて熱いーーー十座への愛だ。
    【終】
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