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    aYa62AOT

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    全てが終わって旅に出る🍃を見送る💎のうずさね

    #うずさね
    spirit

    うずさね 戦いが終わり、鬼も居なくなった。

     鬼殺隊と言う組織も無くなりそれぞれがそれぞれの新たな生き方を問われる事になった。
     選ばれし痣を発現させてこれからの余生を生きていく者もいる、一足先に鬼殺隊を抜けた元柱の宇髄は誰に言われたわけでもなくそれを見守る役割をいつの間にかに担っていた。
     
     あの時あの瞬間の柱の中で唯一、生の期限の定められていないただ一人の人間として。
     


    「よう、不死川。旅に出るって?」
    「……あァ?まあなァ」
    「どこ行くんだよ」
    「…決めてねエ、か「風の向くまま気の向くまま」ってか?」
    「人の言葉遮って盗んじゃねェ」

     一人旅に出るらしい、そんな噂を聞いた宇髄が不死川の元へやってきたのはすっかり体の回復して屋敷へ戻ってきた春先の朝だった。不死川にはもう、あと四年程の余生しか残されていないことは互いに、分かっていた。
     それでも、お互いが柱の頃と同じ様な軽い口振りで言葉を交わした。

    「まだ回復したばっかだろ、旅なんて無理すんな。人間の体っつーのは地味に弱ぇんだからよ」
    「分かってらァ」
    「冨岡もアイツらとちょくちょく会ってるみてえだし、お前もウチでちっとばかし養生しろよ」
    「余計な世話だァ、カミさん大事にしろや」
    「大事にしてるわボケ」
    「ハハ、…そうかィ」
    「……お前の事は、誰が大事にすんだ」
    「あァ?」
    「オメーのことは誰が大事にすんだ?」
    「…………」

     宇髄の一言に不死川の風呂敷包みを結ぶ手が止まる、欠損した指のせいか結び目は歪で弱く今にも解けそうだ。
     不死川の心持ちは定かではないが宇髄は勝手に不死川に親近感のようなものを抱いていた、兄弟を全て失ってしまったそんな立場を生きる人間として。
     同時に一人でいつもピンと背を伸ばして立つ背中を守ってやりたい。いや、この残された片腕を添えてやりたいなんて思ったりもしていた。

    「何だそりゃァ、…阿呆か」
    「俺様くらいのド派手な男なら嫁三人にお前の面倒見るぐらい余裕ってモンよ」
    「気持ちだけ貰っとくわァ」
    「……ま、一人旅じゃあねえんだろうがな」
    「あァ?」
    「それ、端持て」

     緩んだ風呂敷の結び目から見えるボロ切れの様なそれが不死川の弟の形見である服の一部であることは宇髄にもすぐに分かった、不死川は弟と二人旅をしようとしているのだと、すぐに分かった。
     宇髄の右手と、不死川の左手がそれぞれの結び目の端をつまんで引く。緩んだそれがしっかりと結ばれていつの間にかに不死川の旅の支度が整う。

    「じゃ、そろそろ行くわァ」
    「いつ帰ってくんだよ」
    「…さあなア」
    「人恋しくなったら手紙寄越せ、ド派手に飛んできてやるよ」

     不死川が字を読むことは出来ても書くことは出来ない、そんなことは知っていた。
     己の自己満足だと、それも分かっていた。
     ただ、「お前は一人ではない」そう伝えたかった。

    「……あァ、気が向いたらなァ」
    「気ぃつけてな、まぁお前には要らぬ心配だろうがな」
    「おう」

     旅の友の杖に括りつけた風呂敷を肩に掛けて不死川はヒラ、と軽く手を振る。
     振り返る事のない背中にもう、「殺」の文字はなく穏やかな気配すら醸し出していて宇髄はその背中をただ遠く小さくなるまで見つめていた。


     それから夏が来て、秋が過ぎて冬がやってきた、不死川からの手紙は当たり前だが一向に届かなかった。

     限られた時が、過ぎていく。
     その事実だけが、宇髄の心をいつも静かに波立たせていた。





     ————カァ。


     冬の肌を刺すような木枯らしが吹く薄曇りの昼、一羽の鴉が宇髄の屋敷へとやって来る、もう今は自由の身となった虹丸が羽根を休める止まり木へと舞い降りてきた。


    「——爽籟か、?」

     乱れた羽根を嘴で軽く撫で付けた後、宇髄の足元へとひょいひょいと不死川の鎹鴉だった爽籟がやって来る。
     足には白い小さな紙が結び付けられていて、ゆっくりとそれを解いて開く。歪でぎこちない平仮名でただ「さむい」その三文字だけが書き記されていた。

    「お前もアイツが心配だったのか?爽籟。」

     宇髄の言葉に爽籟はただ美しい漆黒の瞳を向ける。「全速力で飛んでくれ」それだけを伝えて肩に止まった爽籟を宇髄は空高く飛ばす。

    「……元柱の忍びなめんなよ」

     まるでつむじ風が吹くように宇髄が駆け抜ける林の木々がざわめく、片腕と片目を無くした今でもその速さは殆ど変わらないままだ。
     一刻ほど駆け抜けた山の向こうの雪の積もる街に宇髄はたどり着く、さすがに乱れた息が吐き出した途端に白くもやになってすぐに消える。
     真正面に見える古びた寺の山門の隅に手を擦り合わせながら今日の宿を探しているだろう不死川の姿がぽつりと見える。
     どうやっても自分にはやっぱり、どこか頼りなげに思えた。

    「よう、オニーサン」
    「……宇髄、」
    「元柱の忍びなめんじゃねーよ、」
    「来いなんて、言ってねェ…」
    「言われてねえ、勝手に来ただけだ」
    「…そ、うかァ」
    「…二、三日温泉でも浸かって帰ろうや。たまには地味に歩いて帰ってやるぜ」
    「………おう、」

     次第に降り積もる雪が寺の前の道を白く染める、初めは後から来た宇髄の足跡だけだったそれが並んで、寺から街へと二人の足跡を刻む。
     人一人分離れていた足跡がいつしかピタリと寄り添うのをゆっくり、ゆっくり冬空を飛ぶ爽籟だけが知っていた。




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    ぎねまる

    MOURNING初登場前の、苛烈な時代の鯉登の話。わりと殺伐愛。
    過去話とはいえもういろいろ時期を逸した感がありますし、物語の肝心要の部分が思いつかず没にしてしまったのですが、色々調べて結構思い入れがあったし、書き始めてから一年近く熟成させてしまったので、供養です。「#####」で囲んであるところが、ネタが思いつかず飛ばした部分です。
    月下の獣「鯉登は人を殺したことがあるぞ」

     それは鯉登が任官してほどない頃であった。
     鶴見は金平糖を茶うけに煎茶をすすり、鯉登の様子はどうだ馴染んだか、と部下を気にするふつうの・・・・上官のような風情で月島に尋ねていたが、月島が二言三言返すと、そうそう、と思い出したように、不穏な言葉を口にした。
    「は、」
     月島は一瞬言葉を失い、記憶をめぐらせる。かれの十六歳のときにはそんな話は聞かなかった。陸士入学で鶴見を訪ねてきたときも。であれば、陸士入学からのちになるが。
    「……それは……いつのことでしょうか」
    「地元でな──」
     鶴見は語る。
     士官学校が夏の休みの折、母の言いつけで鯉登は一人で地元鹿児島に帰省した。函館に赴任している間、主の居ない鯉登の家は昵懇じっこんの者が管理を任されているが、手紙だけでは解決できない問題が起こり、かつ鯉登少将は任務を離れられなかった。ちょうど休みの時期とも合ったため、未来の当主たる鯉登が東京から赴いたのだ。
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