不確定未来「仁王くん、聞きましたよ。あなた、また女生徒を泣かせたそうですね」
俺はこいつが嫌いだ。
「無理に付き合えとは言いませんが、断り方にもマナーというものがあるでしょう?」
俺の行動に母親のように小言を垂れるこいつが。
「あなたは素っ気なさ過ぎるんです。勇気を振り絞った告白なんです。きちんと向き合って上げるのが礼儀というものでしょう?」
先達のように得意気に講釈を垂れるこいつが。
「私もそれなりに女生徒お付き合いしてきましたが、一度として相手を泣かせたことはありませんよ。お別れをするときも、きちんと誠心誠意お話をして円満に道を別ってきました」
無意識に他人を侮るこいつが。
「あなたも相手を慮って、自分を想ってくれる人がいることに感謝すべきです」
虫酸が走るほど嫌いだった。
「聞いているんですか、仁王くん?」
「チッ、うるさいのう」
傲慢なその鼻っ柱をへし折ってやりたくて、俺はネクタイを乱暴に引き寄せ、口の減らないこいつの唇をキスで塞いで黙らせた。
「っ!」
見開かれた目は動揺を晒し、止まった言葉が成功を示す。これで立場がはっきりした。俺は唇を離し、嘲りの笑みを浮かべて見せた。
「どうせ、キスの一つもしたことないんじゃろう?んなガキみたいな付き合いで、随分と御高説を垂れてくれたもんじゃ──」
瞬間、柳生の右手が勢いよく俺の頬へと飛んできた。激情に任せた平手打ちだ。寸前でその手を掴んでやれば、らしからぬ苛立ちの視線が厚いレンズの向こうから放たれた。
「おお怖い。紳士が暴力か?」
「あなたにはデリカシーというものがないんですか」
「ハッ。その言葉、そっくりそのままお前さんに返してやるぜよ」
こいつの涼やかな化けの皮が剥がれる瞬間が、唯一共に居て愉しいと思えるところか。
「あなたとダブルスなんて、本当に信じられません」
「そいつだけは同感ぜよ」
そんな俺達の関係性が180度変わるまで、あとXX日──。