勝利は誰の手に「柳生」
「やりませんよ」
私は彼が嫌いだ。
「今年は寅年らしいのぅ」
「やりませんから」
遠回しに己の望みを訴えてくる回りくどいところも。
「去年は丑年だったじゃろう?」
「やりませんって」
いつまでも昔の話を持ち出してくるところも。
「お前さんのために、ちゃんと買っておいたんじゃがのぅ」
「ですから、やりませんって言っているでしょう!」
相手のためを免罪符に、勝手に物事を進めるところも。
「……本当に、嫌か?」
「…………」
人の弱味につけこんでくるところとも。
「去年は興奮したじゃろう?」
「っ……」
それとなく私の体に触れて、その気にさせようとしてくるところも。
「柳生のやらしい虎柄ビキニ、期待しとったんじゃがのぅ」
「……変態ですか、あなたは」
私の敏感なところを知り尽くしたその指先も。
「のう、柳生」
「んっ」
簡単に熱くなっていく私の体も。
「本当に、嫌か?」
「…………」
腰にクるウィスパーボイスも。
「柳生」
「……っ」
反応してしまう肉体も。
「やーぎゅ」
「っ~~~!」
絆されてしまう自分も。
「やぎゅ──」
「わかりました!もうわかりましたから!」
そうやって得意気に笑みを浮かべる口許も、全部、全部嫌いだった。
「着ますから!やりますから!だから……」
「だから?」
自分の望みは必ず押し通す。そんな彼の恋人の座に収まってしまった以上、私に彼を拒むという選択肢はない。
「ですから、その……」
「うん?」
ソファの横に置かれた紙袋の中の、恥ずかしい虎柄のビキニを頭の中に思い浮かべて、私は膝の上でぎゅっと拳を握り締める。
「去年のようなことは……」
思い出すのは去年の元日。同じ流れで牛柄のビキニを着せられて、搾乳だミルクだと嬲られたあの夜のこと。
「去年……?さて、なんのことじゃったかのぅ」
彼は忘れた振りをして、私の太腿に手を這わせる。
「仁王くん」
窘めようとその手を掴めば、にんまりと彼の唇が吊り上がる。
「なに、今年はお前さんの好きなようにして構わんぜよ」
「私は別に……」
「今日の柳生は虎じゃき、俺を襲ってしまっても仕方ない。違うか?」
「…………」
主導権を渡すような口振りで、その実私に積極的に奉仕しろと促すその卑怯なやり方が、本当に憎らしい。
「わかりました」
だから今夜は、彼に細やかな仕返しを。
「脆弱な人間のあなたに、肉食獣の恐ろしさをきちんと教えて差し上げます」
「ほう。そいつは楽しみぜよ」
最後に泣かされるのはどちらか、今年も譲れない戦いが始まる。