烏瓜を流す　624498_gさん、どうして。

　ずっと追ってきた配信者……の、リスナーたち。その中でもお気に入りのアカウントだけを入れたリストから数字が1減ったとき、私はひとつの夢が終わった気がした。
　待っていたのに。624498_gさんが「悪質なデマがあります」と言ってくれるのを。あるいは無関係に普通に呟いたり、コメントしたりするのを。
　私は惰性でリストをスクロールする。わざわざこの件に言及するような人はいない。今日もWAKAは元気だ。この子が元気なくしたらそれこそ終わりだから助かる。Altairさんは海外ドラマの方の絵を描いてそこそこ元気そう。keroちゃんは相変わらず可愛いアイコンで辛辣芸してて安心する。TLに垢が見当たらないakaneちゃんは……まあこの人コメントは早打ちだけどあんまり呟かないしなあ。nogiちゃんもいないけどあの人呟きの方は身内へのリプライメインだしいないのも当然だ。kanataさんは普通にしてるけど、基本耳の速い人だからきっとこのことはご存知だろう。あと……wakoちゃんは最近病んでるけど、ちゃんと病めてるから多分大丈夫。最初はコメントのノリと空気全然読めてなくて目障りだったけど、なんだかんだ急にいなくなったら寂しいから今のままでいてほしい。
　何度見てもどこまで遡っても624498_gさんはどこにもいない。
　あんな裏掲示板みたいなところの奴らが言うこと信じたくないし、624498_gさんがあんなことしたなんて信じたくないけど、やっぱりあの書き込みは事実なのかもしれない。
　あまり視界に入れたくはないが、私は掲示板を開く。
『624498_g（Platycodon）』は『Kちゃん』で『明智小夜ちゃん』という大学生で、『ギンガの家に家凸したバカ』。掲示板から情報を収集すると、そうなる。確かに顔を晒されている明智小夜ちゃんは激写された家凸犯と容姿が一致するし、それらはKちゃんの容姿というか、髪質や目の感じ、背格好と一致する。――更に、624498というのは桔梗色のカラーコードだしPlatycodonも桔梗の英名の一部だし、Kちゃんが動画で答えてた推し方と624498_gさんの推し方も合致する。
　そして残念ながら、自分の直感にまで掲示板の内容を肯定される。私はスマホをぶん投げて枕に顔を埋める。
「どうして……どうして……」
　前回失恋したときより泣いてる気がする。あいつとの縁って結局一か月くらいだったし。
　私がCOSMICのギンガに着目しだしたのは、今から三年くらい前のこと。元々は古巣が同じだったコスモ君にしか関心がなく、サイドのスカしてるやつらは別にいないならいないでよかった。
　でも、ある日突然ギンガを見ていて思ったのだ。『そういえばこいつの必死にキャラ作ってる感じ面白いな』と。
　そしてあっという間に追うようになり、過去ログや転載切り抜きファンの呟きなど追うようになった。元々インターネット素潜りが大好きだし、個人ブログを読みつくして中の人の思想の変遷だの地金が出た瞬間だのを味わうのが好きだから。まあ逆に、ギンガ本人が好きかと言われると、今を以てしてもわからない。愛着はあるし、「俺のリスナーが優秀なのは当然」だったか、そんなことを言っていたギンガとリスナーの関係性は面白いと思っている。
　閑話休題。ギンガを追うようになってからの私が、どこを潜ってもだいたいいる624498_gさんに目をつけるのにも、時間は掛からなかったのだ。いやなんだかんだ言って目立つ子に着目する方が早かったけれど。でも割とすぐ見つけた。
　そして、お気に入りとそうでないのを振り分けても残った中では、624498_gさんはちょっと特殊な立ち位置だった。この人、とにかく地味だったのだ。
　面白コメントをするわけではないし、絵が描けるわけでもないし、構ってもらいたがるわけでもないし、速報性があるわけでもないし、喧嘩っ早いわけでもないし、オトモダチをたくさん作って界隈を回すわけでもないし、病むわけでもないし……ただただ、職人のように静かに、いつでもそこにいた。
　624498_gさんは殆ど自我を殺しきった応援アカウントのひとつで、そんなスタイルの応援アカウントの中でも私が見つけてからの寿命が長い人の一人だった。なんだかんだ、推し疲れとかライフスタイルの変化とかで消える人が多いのだ。
　……まあ、そんな特徴があって更に動画で普段の推し方普通に喋っちゃったから特定に繋がったんだけど。
　全然関係ない他人のことで謎に泣き呻く私の脳裏にあのおファッキンな掲示板の書き込みが蘇る。
　うるさい。最初から接触や認知や見返り目当てであんな在り方続けられるかクソボケ共が。ガチ恋だったらなんだってんだ。ふざけんな。
「……でも、じゃあ、どうして……？」
　624498_gさんから感じる確固とした意思が私は好きだった。普段から感謝を伝えること、さりげなく寄り添うこと、余計なことは言わないこと……そういう、方針みたいなものくらいは、ずっと見ていたらわかるから。
　え、ていうか624498_gさん今大学生ってことは昔の切り抜きに映ってる624498さんって中学生？　ロリじゃん。
「ぶふっ……うぅー……」
　自分の反射神経がした俗っぽい発想に噴き出しながらまた落ち込む。積み重ねたものが壊れたあとでそれが幼い時間を使って作られたものだと気づかされても落ち込むだけだろｊｋ。……ｊｋ時代もずっと通してギンガを推してたんだよな。
　そう、だから、きっと数字が落ちて落ち込んでしまいにゃ病み配信とか始めるギンガを見てられない気持ちになったんだろうって予測は立つ。でも、そこまでだ。どうして動画に出ることになったのかも、どうしてあんなことしちゃったのかもわからない。いや、動画はHZの何でもあり性を利用してもぎ取ったチャンスかもしれないけど（違うかも）。
　私はがばっと起き上がってスマホを手に取る。わぁ、ガラスフィルムが若干ゃ割れてるぅ。草ァ～。いやワロてる場合かい。
　私はトイッターの投稿画面を開いて、もうマナーとか周りの目とか知らね～～～～～～～という気持ちでもうないアカウントにメンションを打つ。話しかけるのは初めてだというドキドキと、死体になってから話しかけてもねえという冷めた感情と、バカみてえだという自虐で指が何度か迷って、でも、話す。

『@624498_g あなたのコメントが好きでした。どうかお元気で。』

　どうか、と願って、私は自分のアカウントからログアウトした。今度見るときはwakoが元気になったくらいの頃にしよう。
　そしてそのときは、今の呟きはちゃんと消して、おしまいだ。


※2024/2/24けっこうたくさん修正