ギンコが核喰蟲にたましい持ってかれそうになって、クマドがそれを阻止するじゃないですか。あの時にギンコが幼い淡幽を垣間見るじゃないですか。
あの場面、私は最初読んだ時、「核喰蟲がギンコの魂を喰おうとしたところにクマドが割り込むことによって、クマドの記憶がギンコにも一瞬見えた」って解釈したんですよね。
一般にきれいと言われるものを見てもどうとも思えない、うまいと言われるものを飲んでもぴんと来ない、そんなクマドの中にも、あの丘で見た朝日と、朝日にふちどられた淡幽の横顔が「印象的な記憶」として残ってたんだな……って解釈したんですよね。
淡幽があの日クマドと朝日を見た事を今も懐かしく思い返すことがあるのと同じように、クマドもちゃんとあの日のこと覚えてるんだなって……。クマドの体を動かす蟲が何度抜けて入れ替わっても、クマドっていう殻の内側に、あの日の記憶はちゃんと残ってるんだなって、貝の裏の真珠層みたいにきらきらしてんだなって思ったんですよ……。

で、蟲師ファンの人たちとツイッターで知り合って交流するようになって、とある方があの場面について別の解釈をしてらっしゃったんですよ。
クマドが核喰蟲を阻止したあの瞬間、ギンコのたましいが実際に時をさかのぼり、丘に朝日がさしたあの瞬間のクマドに一時的に宿った……と。
蟲師という作品の中では、蟲が引き起こす様々な現象が描かれている。時間遡行が起きたってそんなのもう全然おかしくない。
でももしそうだとして……。そうだとしたら……。一般に美しいとされる桜を見ておおーって言ったりするギンコの意識がクマドに宿ったから、だから淡幽の「きれいだな」に「はい」と答えたのだとしたら……。
淡幽があの朝日を懐かしく思い返すのは……。あの時クマドが「きれいだな」に「はい」って言ってくれたから……だろ……？クマドと一緒に朝日を見て、クマドが朝日をきれいだと思ってくれて、そこにクマド自身を垣間見た気がして嬉しかったからだろ……？
でも本来のクマドはあの朝日を見てもやっぱりどうとも思えなかったってこと……？「はい」って言葉が口をついて出たけど、どうしてそんなことを言ったのか、わからずじまいでいるってこと……？
淡幽とクマドとの間で、あの朝日に対する思いにそんな致命的な断絶があったとしたら……。そんな……。そんなの……。さびしすぎるが……？？？

みたいな感じで、その解釈を聞いた当初はめちゃくちゃショックを受けたんですが、私が思い付きもしなかった新しい解釈を聞く貴重な機会を得ることができてめっちゃよかった。なんだろ、こう、ものをみる時の角度？　の、クセ？　いわゆるバイアスってやつ？　あるじゃないですか。私もものをみる時に無意識に私なりのバイアスをかけてるわけで、だから自分の信じた解釈が揺らいでガーーーンってなるような機会を得ることによって「自分が何を見出したいと思っているのか」「自分が何を見落としがちなのか」がわかるから助かる～～～っていう……。そういう機会今後も欲しいし、余裕あったらこんな感じで書き残したりとかもしておきたい。