離婚して再婚するやつ(仮)10 よりによって他人、とカテゴライズされたショックで言葉が出なかったクロードを尻目にローレンツは買ったものを冷蔵庫にしまっている。油断しきっている彼を後ろから抱きしめた。香水の好みは以前と変わっていないらしく甘い香りがする。腕の中におさめた身体は反射的に固くなったが耳元で名前を呼ぶと力は抜けた。
身体の向きを変えさせて味わった、彼の薄い唇の柔らかさや咥内の熱さ、薄くて少し長めの舌が絡みついた感触はあの頃のまま変わらない。以前のように快感に集中するため目をきつく閉じてクロードにしがみついてくれたら、と心の底から思う。
だが、ローレンツがこういう時に唇を塞いでなんとかなるようなタイプならそもそも離婚していない。最後に一度だけと縋った晩、彼はずっと白い身体を弄るクロードの顔を冷めた顔で見ていた。結婚前の厳しくも優しい視線とは全く違う。生理的な反応を見せ、熱く締め付ける内側と冷たい視線の格差にクロードは結婚生活の終わりを痛感した。仕事で心を麻痺させてやり過ごす日々は今も続いている。
「他人、は酷くないか?」
必死で絞り出した言葉はえらく陳腐で自分の語彙力のなさに呆れてしまう。
「僕のせいにするのか」
真っ白なせいで感情の機微がはっきりと表れる肌が怒りで赤く染まっている。そう、差し入れも買ったしクロードはすぐ職場に戻るつもりでいた。提出期限の迫った書類も大量にあるし、あのまま流されてくれたとしてもそんなことに耽る時間はない。鬼のような着信で済めばいいがリシテアはクロードがどこへ行ったか知っている。いつぞやの失態を繰り返すわけにはいかない。
「違う。俺の失態は俺のせいだ」
だが本当はあのまま流されて欲しかった。
「今更、僕を誑かして何がしたいのだ」
ハンカチで口を拭うローレンツの目は怒りのあまり涙ぐんでいる。縋って欲しかっただけでこんな顔をさせたいわけではなかったのに。
「力になりたいだけだ!ローレンツ、認めたくないかもしれないがお前、今日発砲されたんだぞ!」
敢えてアグネアの矢には言及しなかった。発砲、という単語を耳にしたローレンツは顔を顰めている。
「それなら頼り甲斐のあるところを見せるのだ」
早く職場に戻れ、と言う言葉を背にクロードは一人車に戻った。確かに弱みにつけ込むような奴に頼りたいはずがない。