離婚して再婚するやつ(仮)17 捜査が終了しようと抗うつ剤と白魔法で治療しようと自分があの捜査から───あの場から切り離されることはない。当時のクロードはそう感じたのだと言う。彼が言う通り関係者が入れ替わるだけで似たような事件は起き続ける。きっとその度に痛みや苦しみが蘇るのだ。そんな痛みはクロード個人の力で解決できない。
「クロード、それはあなたの権限が及ばない領域だわ」
ローレンツにとって子供たちは川を流れる水のようなものだ。教師たちは川底にいて、頭上を流れゆく彼らの行く末が少しでも良いものであるよう願うしかない。中には傷が癒えるまで抱きしめて、腕の中におさめてやりたくなるような子もいる。
だが、教師は親ではないのでそれは叶わない。ようやくクロードの境地の一端に触れたような気がした。アネットの助言とメルセデスの切り込みに感謝せねばならない。
「だが、あんな目に遭ったら人間は深く落ち込むべきなんだ」
クロードは室内ではなく彼の内側に未だ色濃く残る苦い思い出を見つめている。当時のローレンツはあの緑の瞳が隣に立つ自分を見てくれないことに深く傷つき、そんなことで傷つく己への嫌悪を募らせていた。もっと早く他人に助けを求められたら自分が楽になるためだけにサバイバーズギルトに苦しむクロードと距離を取らずに済んだかもしれない。
「でも治療は現実逃避ではないし、ローレンツがあなたの身を案じて待っていたことも現実なのよ〜?」
「だから離婚を切り出された時に素直に応じたのさ」
ローレンツが所謂、癇癪を起こしたのはあの時が初めてだった。そのせいで失った彼との豊かな時間を思うと目眩がする。
「あらあら、そんなことで得られた穏やかさこそ欺瞞ではないかしら?」
メルセデスが指摘する通りそんな穏やかさはすぐに崩壊してしまう。現にローレンツは流れゆく水を掴もうとして傷害事件の当事者となった。反省しているが後悔はしていない。
「ローレンツ、クロードが現場に来てくれてどう感じたの?」
あの瞬間、事件現場で自分はクロードに何と声をかけたのか。
人間は追い詰められた時に本性が出る、とはよく言ったものだ。あの時ローレンツはクロードに身内の事件、という表現を使ったのだ。どうしてそんな失言をしてしまったのか、そこから目を逸らすことはもう出来ない。