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    秋月蓮華

    @akirenge

    物書きの何かを置きたいなと想う

    当初はR-18の練習を置いてくつもりだったが
    置いていたこともあるが今はログ置き場である
    置いてない奴があったら単に忘れているだけ

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    秋月蓮華

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    水無月茂島のログです
    六月一日から十日分まで。一つ一つはとても短いです

    作中に出てくる『くま』は図書館スタッフです

    #茂島
    burma

    水無月に一日一茂島 1~10日め「水無月がやってきてしまったな……」
    六月一日、島田清次郎は黄昏ていた。気が付いたら六月になってしまっていたのだ。そんな彼の背後に気配がする。
    「島田君、体調が悪いのか?」
    「悪くはない。健康だ……手のそれは『くま』だな」
    「君をピコピコハンマーでたたこうとしていたので止めた」
    『朝っぱらから黄昏るな』
    心配をしてくれていたのは斎藤茂吉で、彼が首根っこを掴んでいるのは黒くて大きなテディベア、彼等がいる帝国図書館分館の管理人の一人である『くま』である。
    「師走が来たと想っていたら、水無月だ……光の速さだなとなっていただけだ」
    「君と大晦日や正月に旅行をしたのがつい最近のようだ」
    「それを引っ張り出すな!」
    「嫌だったのか?」
    「……嫌ではないし楽しかったぞ」
    大晦日から新年三日まで彼等は旅行をしていた。そこからさらに時間が過ぎていた。『くま』がピコピコハンマーで素振りをしている。
    「紫陽花の和菓子があるので食べよう。六月も体調に気を付けてほしい」
    「言われなくても」
    清次郎は茂吉についていく。六月は、幕を開けていた。



    帝国図書館は月に何度かブックカフェをやっていた。文豪たちを転生させた特務司書の少女がやってみたいとやっていたのだ。
    「美味しい。ぱんけーき、ばーがー」
    「良い食べっぷりだ。健康的だぞ」
    「これはとてもいいものだね」
    「子規先生たちがパンケーキバーガーを食べている」
    ラヴクラフトと夏目漱石と正岡子規がパンケーキバーガーを焼いている。やや厚めに焼いたパンケーキの間にフルーツと生クリームを挟んだものだ。
    「パンケーキサンドもあるよ」
    「ブックカフェでは好評だな」
    そういったのは本日のカフェ担当の河東碧梧桐と高浜虚子である。ブックカフェはほとんど毎日文豪たちが交代交代ですることになったのだ。
    「かなり量がある」
    「小さくもするけどね」
    斎藤茂吉もイチゴのパンケーキバーガーを食べていた。甘くておいしい。
    「島田君にも食べさせたい」
    「いたら作るよ。大事な人に食べてほしいって想うのはいいことだし」
    碧梧桐が笑う。茂吉が頷きつつ食べていると
    「ラヴクラフト。ポーが探していたぞ」
    島田清次郎本人が来た。茂吉は彼に言う。
    「島田君。君もパンケーキバーガーはどうだい?」


    帝国図書館には何台か自転車が置いてあるし
    文豪によってはマイ自転車を持っている。
    「良いですか岩野さん。自転車も鉄の塊ですこれに乗って誰かにぶつかれば人によっては死んでしまいます」
    「島田君。自転車レースをするならば安全なところでな」
    敷地内で斎藤茂吉は島田清次郎をとがめた。蕎麦では夢野久作によって岩野泡鳴が簀巻きとなっている。この二人は自転車レースをしていたのだ。
    「自転車は便利だぞ。三輪車とかあるみたいだが」
    「アレは以前にあったと聞いていますが吉川さんがおばあさんの載っていた三輪車が止めておいたら軽トラにぶつけられ壊れてしまい、軽トラを追いかけた吉川さんが犯人を捕まえた後であげたと聞いています」
    「さすが吉川だな。アレに持つおけて便利だって聞いてる」
    三人は自転車の話をしていた。茂吉は考え込む。
    「島田君は三輪車の方が便利なのだろうか……使うなら」
    「……乗るならこれでいい」
    「そうか。サイクリングに行きたかったのだが二人乗りは危険だからな」
    「行くなら自転車二つだ!」
    「なら休みに行こうか」
    唐突にサイクリングに行くことにすると清次郎はのってくれる。休日の予定が埋まった。



    蒸し器があればなんとかなると教えてくれたのは中島敦の裏人格であった。
    医務室にある簡易キッチンで斎藤茂吉は蒸し器の中に野菜を放り込む。じゃがいも、人参、ブロッコリー、茄子。
    時間調整をして蒸さなければならないがそれについても彼は教えてくれた。
    中に卵も入れて蒸す。
    「島田君。調子はどうだ」
    「何とか戻りそうだ。おのれ……温度差。寒暖差。寒暖王には俺は負けない」
    「寒暖王なんていたのか」
    「冬将軍のような……寒暖将軍だろうか」
    島田清次郎がぐったりとして医務室にやってきていた。心配した茂吉だったが寒暖差に体が追い付かず体調不良らしい。
    食事はとっておいた方がいいと蒸し野菜と蒸し卵を作ってみた。
    「日本は八百万の神がいる。そんな将軍たちもいるかもしれない」
    「俺がもっと強ければ」
    「無理はいけない。君は強いさ。島田君……さて、これ以外にも」
    茂吉が言うと開いたテーブルの上に粥と蒸しパンが置かれていた。
    『本日は蒸し料理と蒸しパンの日だ』
    『くま』の声がする。
    「ありがとう。いただくよ」



    「今年は雨がそんなに降らないな」
    梅雨入りはしていたはずなのだが、と島田清次郎が医務室で言う。外は太陽が燦燦と照り付けている。気温は過ごしやすい方だ。まだ。
    「空梅雨になるかもしれないが」
    「梅雨はじめじめしていて苦手だ」
    斎藤茂吉は清次郎に話ながら棒ほうじ茶を入れていた。清次郎の故郷のお茶はとても飲みやすい。湯みを置いておく。
    「じめじめしていると確かに大変だな」
    「本が湿気にやられてしまうとか言われるから本館の方が大変だ」
    「分館はそうでもないのだが」
    分館はアルケミストパワーでどうにかしているらしい。清次郎はお茶を飲んでいる。
    「最近は本館の手伝いをよくしているぞ」
    「偉いぞ。島田君」
    「ここだって手伝っているし」
    「手伝ってくれて助かっているよ」
    転生したころよりも清次郎は図書館になじんできたし、会話をする文豪も増えた。とても喜ばしい。喜ばしいのだが。
    『さみしい?』
    「……見透かしたように言うな」
    たっている茂吉の背後にテディベア姿の『くま』がいて彼の肩にしがみつきつつ
    ほっぺたをつついでいる。
    「どうした?」
    「何でもない」
    茂吉は呟き、お茶を飲んだ。



    「昨日はプロポーズの日だったらしい」
    『いきなりなんだコイツ』
    「毎度のことではないでしょうか」
    六月六日の帝国図書館分館、少女の姿をした『くま』と彼女の手伝いをしている松岡譲はやってきた斎藤茂吉に応対していた。六月の第一日曜日はプロポーズの日だった。
    「君が島田君に構っているのは管理者の黒い方から言われたと昔から聞いているが」
    『我は文学には詳しくない。資料を読んで応対するぐらいでな。アイツがそういった』
    島田……? そう、島田、と黒い方の管理者が言っていたことを『くま』は覚えている。ある意味で厄介だから見ておけと言われたし面白そうなのでつついていたが、
    「つまり君は徳田さんと同じように島田君の保護者のようなものなので島田君にプロポーズをする場合は君に挨拶をすればいいのだろうか」
    『……松岡』
    「『くま』さんもそうですが、徳田さんも困ってしまうと思います」
    返答は任せるという風に『くま』が呟けば松岡が答えてくれた。少女は半目を茂吉に向けていた。
    『これ仮に島田清次郎がプロポーズするなら正岡一門か?』
    「佐千夫さんには言うべきかとは思います」
    『師匠へのご挨拶……』
    「お前等何を話しているんだ!!」
    島田清次郎本人が叫んでやってきた。今回は煩い、と言って止めることを『くま』は止めておいた。



    本日は食堂が止まる日だった。朝から斎藤茂吉が食堂に行ってみると何やら騒がしい。賑やかともいう。
    「ボルシチが出来たぞー」
    「昨日から煮込んでいたかいがあったな!」
    「檀君のボルシチだー」
    「食おうぜー」
    「斎藤さんだ」
    檀一雄と島田清次郎と草野心平と坂口安吾と内田百閒がいた。檀が大きな鍋に入ったボルシチを持ってくる。
    皆でボルシチを作っていたらしい。ボルシチはウクライナ発祥の野菜スープである。
    「今日の食事はボルシチか」
    「カレーは阻止したぞ」
    「俺も手伝ったんだ」
    カレーと言っているが食堂が止まる日だと高確率でカレーになり、食堂を取り仕切っている料理長も一週間に一度はカレーを作るため、文豪たちは一週間に二回はカレーを食べることとなる。
    「いただこうか」
    「美味いぞ。俺たちで作ったからな」
    清次郎が楽しそうにしていると茂吉も楽しくなってくる。
    「昼は鰻を食べに行こうか」
    「仕方がないな行ってやる」
    食堂が止まる日は外で食事をとることも推奨されている。
    誘えば清次郎はのってくれる。茂吉はボルシチを食べることにした。



    青梅がごろごろと新聞紙の上に広がっている。
    斎藤茂吉がその場に居合わせた。
    「梅の季節だな」
    幸田露伴が青梅を眺めて嬉しそうに話す。
    「梅酒や梅干しを作る時期ったい」
    徳永直が気合を入れていた。梅を加工するのは彼等の役目だ。
    正岡子規が言うには初期のころは別の者がやっていたようだが、彼等がやるようになったという。
    「青梅の 空しく落つる つかさには 蟻のいとなむ 穴十(とお)ばかり」
    「斎藤さんが作った短歌」
    「思い出しましたので」
    「秋声の代わりに手伝いに来たぞ!」
    短歌を呟いていれば島田清次郎が手伝いにやってきた。
    「徳田はどうしたんだ」
    「ブックカフェの方だ。俺も手伝おうとしたのだが島田君は……うん、梅をよろしくって言われてな」
    徳田秋声としては不安があったのかもしれない。ブックカフェが人気なことは嬉しいことだが。
    「私も手伝おう。梅の加工は」
    「梅ジャムや梅シロップもあるが一番は梅酒だ」
    「頑張るったい」
    「梅ジャムは美味しいな。梅酒もいい」
    清次郎が梅加工の手伝いを始める。茂吉も隣で手伝いを始めた。



    斎藤茂吉が朝から散歩をしているとアルチュール・ランボーとルイス・キャロルと島田清次郎が話していた。
    「コッペパンの茹で卵サンドも美味いな」
    「ゆで卵を刻んであえたのいい感じだね」
    ランボーはパン屋でバイトをしているが、お土産にパンを持ってきてくれたらしい。
    「たまごサンドの話か」
    「ああ。持ってきてくれたからな」
    「パンは僕が作ったんだ」
    たまごサンドと言うと去年のハロウィンのことを思い出す。折口信夫がたまごサンドを作ろうとして電子レンジに卵を十個電子レンジにかけ、そして電子レンジが爆発した事件だ。小川未明も巻き込まれそうになったが清次郎に庇われて無事だった。……のだが、清次郎がケガをした。
    「あの時は君が無事でよかったよ」
    茂吉が呟けば清次郎があの時と考えて思い当たる。
    「お前が心配してくれたのは困ったぞ。過度に心配をしすぎた」
    「私は医者だし、それを抜かしても君のことが大事だからな」
    「そうか」
    清次郎が黙ってたまごパンを食べ続ける。
    「大事なのっていいことだね」
    「解るよ。僕もキャロルが大事だし」
    そんな二人を見てキャロルとランボーも話した。


    クロワッサンサンドを食べたいんだ予約したんだけど引き取りに行くのに外に出たくはない、と島田清次郎は絵描きに言われた。次の言葉は分かっていたので言われるよりも先に引き取ってくると言っておいた。
    「アンタもついてくるとはな」
    「私も出かけたかったんだ」
    清次郎は路面電車に乗り込んだ。斎藤茂吉も一緒である。これから向かうパン屋のある町には路面電車が通っていた。帝国図書館の近くの町だ。時計塔もある。
    「俺も自由に動くためにバイクや車の免許が欲しいところだ。自転車は動かせるが」
    「自転車があれば十分だとは思うが」
    帝国図書館近辺は車がなくてもそれなりに生活が出来る。路面電車の席に座り、清次郎と茂吉は話している。
    「かっこいいからな! クロワッサンサンドは俺の分も入れておいたというか食うぞ」
    「食べてくれ」
    「アンタも食べるんだ。絵描きは全部予約してくれたが俺一人だと食べきれないし」
    茂吉は適当にパン屋でパンを選ぼうとは思ったが清次郎が共に食べようと言ってきた。
    その言葉に茂吉は穏やかに微笑んだ。
    「一緒に食べようか。島田君」


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