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    ltochiri

    二次創作いろいろ

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    ltochiri

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    #星とあんずの幻想曲2
    fine×あんず『英智デー』プチオンリー「あんずの休日」展示作品です
    ※遅くなってしまい、すみません!

    ##あんず島2
    ##小説

    キューピッドの恋煩い※弓+あん+英のつもりですがfineあん足し算かもしれません


     初夏の夕暮れに、とある催しが行われていた。
     その名も『英智デー』。
     多忙を極める天祥院英智を休ませるために考案された、憩いの時間である。
     メンバーはfineの渉、桃李、弓弦、そしてプロデューサーであるあんずの5人だった。
     彼女が加わる理由として、同じく多忙であるあんずも休ませる必要があった。けれどそれだけでなく、そんな風に彼女も休暇をとっているのだから、見習って英智にも休むように、と、言い聞かせることができるのだ。
     『英智デー』は、ともに家族のように過ごそう、というのがコンセプトで、毎回の内容はとくに定まっていない。
     紅茶を飲む時もあれば、読書をする時もある。
     比較的、静かに過ごすことが多いだろうか。けれどピクニックのようにレジャーシートを広げる時もあって、その時はみな身体を動かす活動をしていた。
     要は仕事を持ち込まず、同じ場所にいるのなら、何をしていても大丈夫なのである。


     本日の『英智デー』は急遽場所が変更となった。あんずはそこへ向かいながら、遠目に見える赤茶色の四角いテントに首を傾げていた。
     歩いて近づくと、それは屋台であるとわかった。たこ焼きとか、わたあめとか、金魚すくいなどをする、あのお祭りの屋台である。
    「どこかで見たことあるような……」
     あんずは到着すると屋台の中を覗いた。どうやら射的ができるらしく、渉がせっせと景品を高さのある棚に並べていた。
     屋台の入り口には長机が並べられ、屋台ののぼりとおなじ赤茶色の布が敷かれている。その上に射的用の銃が二丁と、弾を置く小皿が設置済みだ。足元には前へ出過ぎないようにラインが引かれていて、本当のお祭り会場さながらである。
     少し遅れてきた英智が、この様子に驚いて渉に訊ねた。
    「どうしたんだい、渉? このテントのようなものは」
    「お祭り男さんに預けられてしまいまして!」
     渉の答えに、どうりで見たことがあるわけだ、とあんずは納得した。
     何かにつけてこの屋台とともに現れる男——三毛縞斑は、たこ焼きやおにぎりを売っては疾風怒濤に去っていく。だいたいが無許可の出店だから、見つかったら咎められる前に逃げてしまうのだ。
     そしておそらく、今回も、許可なく屋台骨が組まれているのだろう。
     ふむ、と考え込む英智は、経営する者として思うところがあるらしい。そんな英智に渉は、
    「今日の『英智デー』のメインイベントとして、私的な遊具として認めていただけませんか? ほら、公園のジャングルジムみたいに!」
     と言って、仕事モードになりかけた英智のスイッチをオフにした。
     『英智デー』は何をして過ごしてもいいとはいえ、これは大丈夫なのだろうかとあんずは心配して成り行きを見守っていた。と同時に、遊具とは思い切ったものだ、と感心しながら渉の話を聞いていた。それは英智に、一緒に遊びましょう、と、声をかけるのと同じだった。
     そこへ桃李と弓弦が合流するので、ますます混沌とした空気が作り出されていく。
    「あっ! 会長たちが先に着いてる!」
    「みなさま、ごきげんよう」
    「おつかれさま、姫宮くん、伏見くん」
     あんずは二人に声をかけて、事情を説明した。
    「もう、せっかく早く到着してたのに! このボクを移動させるだなんて」
     桃李が渉に噛み付くと、渉は棚の一番上にあったくまのキーホルダーをそのロングヘアーで絡めて取った。そして見せびらかすように宙を漂う。
    「姫君好みの景品を用意したので、ぜひ当てて取って欲しかったのですが……」
    「ぐぬぬ……悔しいけどいいセンスしてる……。でも当てるって何? ボールとか?」
     興味津々と言った様子で屋台を見る桃李に、あんずが説明をするため銃とおもちゃの弾を手に持って見せた。
    「このおもちゃの銃を使うんだよ。射的っていって、欲しい景品に弾を当てて、棚から落ちたらもらえるの」
    「弾ってめちゃくちゃ小さいじゃん! 銃も思ってたより長いし。ていうか、お祭りってこんな物騒なこともやってるんだ」
    「人に向けたら危ないけど、小学生でも扱える簡単なものだよ」
    「ふーん」
     あんずからルールをきいた桃李は、扱いに気をつけるべきだと認識しながら、けれど射的で遊ぶ意欲を見せた。渉が用意したくまのキーホルダーが気になるのかもしれない。
     一方で、弓弦は黙り込んでいた。
    「伏見くんは欲しい景品、ある?」
    「………」
     あんずは返事のない彼の顔を覗き込んだ。桃李を心配しているかと思ったが、どうもそうではないらしい。何かを見つめている。あんずがその視線の先を追うと、棚の中段にソフビの人形が並んでいるのが見えた。
    「……伏見くん?」
     あんずの声にハッと気づいた弓弦は、うやうやしく一礼をして、それから何事もなかったかのように微笑み、棚の中段を手で指し示した。
    「失礼しました。あちらの置物に目を奪われておりました」
    「あ……」
     弓弦が示す置物というのは、くまの顔をしながら二足で立っている人形だった。ソフビ製ということは、中は空洞で指人形になっているのかもしれないが、この距離ではそれは定かではない。弓弦が置物と賞するのも不思議ではない、少しシュールなデザインだった。
     あんずは苦笑しつつ、実は、と切り出した
    「私も、気になってるんだよね……」
     ソフビ製の人形はほかにうさぎやねこやライオンが並んでいた。そのなかでもくまの存在感が圧倒的で、狙うならそれだろう、とあんずは思っていた。少し気まずさを感じつつ、それでも正直に伝えると、弓弦は柔和な笑みでこう言った。
    「それでは、どちらが先に落とせるか、勝負と参りましょうか」
    「……やる気だね、伏見くん。受けて立ちます!」
     景品に歓声を上げる各々の様子を見た英智は困ったようにため息をついて、やれやれというふうに腕を組んだ。
    「しかたない。『英智デー』が終わるまでだよ」
     屋台の設置許可を出したに等しい声だった。それが渉に伝わると、みなが手を上げて喜んだ。

    ----------

    「とはいえ、残念ながらおもちゃの銃は二つしかありませんので、順番ということになります。ひとり一回、五発というルールにしようかと思うのですが、いかがですか英智?」
     渉は身振り手振りで射的のルールの説明をした。髪をなびかせながら抑揚をつけて話す姿は、ここが劇場かと思うくらいの迫力がある。彼は屋台の店主役を買って出ていて、それはそれで楽しそうだと、あんずは思った。
    「うん。それじゃあ、二組に分かれようか」
    「遊ぶのは四人ですし、ジャンケンでいいですか?」
    「……ジャンケン」
     あんずの放った何気ない提案に、英智はキョトンとして聞いた言葉をそのまま繰り返した。あんずはもしや、と思い他の面々の顔を見渡すと、桃李も首を傾げているので、なるほど、たしかにこれは庶民の遊びだったと合点した。
     しかもある程度人数がいないとグループ分けなどもしない。御曹司が何人も集まってジャンケンをしている光景は、想像しにいものである。
    「せーのでグーかパーの手を出して、一緒の手を出した相手と組む簡単なチームの決め方です。それが二体二になるまで、あいこを続けます。それで決まったら文句なし、というある意味運任せな面もあります」
    「へぇ……」
     英智は胸の高さに上げた手を見つめていた。その手を握ったり開いたりしている。くじなどの道具を使わず、自らの身体で運命を分ける、ということに興味がある様子だ。
    「合図は、地域によって様々あるんですが、今回はシンプルにせーので、の『で』で手を出しましょう」
     あんずは『で』を強調して言った。まさか、高校生になってジャンケンのやり方を説明するとは思わず、けれど新しいことを教える責任も感じたので、意気込んでいた。
    「どうして同じタイミングで手を出すの?」
    「後出しは、反則です。組みたい相手と同じ手を出したり、他の人同士で組ませたくないからと妨害したりできちゃうから」
     桃李の率直な質問にあんずは言葉を選びながら説明をした。いまいち意味をわかっていなかったらしい桃李も、それで納得したらしい。
    「それでは、参りましょうか」
     反対に弓弦は把握しているどころか経験があるような気配があった。いつも通りに口元に笑みを浮かべている。
    「ふふ」
    「……なんですか?」
     合図を発声しようと息を吸っていたあんずだったが、英智が微笑む声で気がそがれてしまった。やや不満げに振り向くと、英智があんずの胸を指さして、それから手首にスナップをきかせて拳銃を撃つ真似をした。
    「もし僕とあんずちゃんが組んだらテンテンコンビ復活だね」
    「……これ、個人戦ですよね?」
     懐かしいことを思い出したからか、もしくは不意をつかれて撃たれからか、あんずは思考が停止した。同時に心臓が脈打つ音が聞こえた。
     それを隠すように、つとめて冷静に返事をするけれど、とぼける英智の顔があまりに楽しそうなので、ドキッとしたことがバレたと思ったあんずは恥ずかしさに襲われる。
    「Amazing! まさかお二人が私たちに隠れてコンビを組んでいたなんて……!」
    「クラスメイト達とゲームセンターに行ってそれきりだったから、披露する機会がなかったんだよ」
     『テンテンコンビ』とは、去年、ひょんなことをきっかけに三年A組の人達と遊びに行ったときに名付けられた、英智とあんずのペア名である。
     天祥院と転校生、だから、テンテンコンビ。守沢千秋の命名だ。
    「そのセンス、たしかに守沢センパイっぽい……」
     事情をきいた桃李が、腕を組んで難しい顔をしていた。件の千秋の姿を想像しているのだろう。
    「そういえば、執事さんも転校生でしたよね」
     渉の声に、あんずはハッと閃いて顔を上げた。これ以上、この話を掘り下げないため、そして、英智から逃れるために、両の手を握りしめながら叫んだ。
    「同学年の、転校生同士だったよね! ここもある意味、コンビが組めそう!」
     あんずに気圧される形で、弓弦は戸惑いの表情を見せた。
    「コンビでございますか……」
    「テンテンコンビは渡さないよ」
     しかし、そこへムキになって英智が割り込んできたので、あんずは逆効果だったと気づいた。どうしたらいいだろうかと焦っていたが、「それに」と英智が続けた。
    「二人とも、もう転校生でなく、立派なアイドルとプロデューサーだしね」
     あんずはその言葉に聞き入っていた。まるで賞をもらったミュージシャンの演説のように魅力的な声だった。あんずだけでなく、弓弦も意外そうに目を見開いていて、言葉を失っているようだ。
     あんずはふふっと笑った。先ほどまで英智から絡まれるのを避けようとしていたけれど、途端にその時間も愛おしいものに感じられた。あんずにつられて弓弦も雰囲気を和らげた。
    「そうであると嬉しいのですが」
    「立派かと言われると自信ないです」
    「事実を言ったまでだよ。二人とも謙遜しすぎじゃないかな」
    「ねぇ、早くチーム分けして射的しようよ」
    「それでは合図は私がいたしましょう。せーの、で☆」

    ----------

     組み分けの結果、英智と桃李が先攻、弓弦とあんずが後攻で遊ぶことになった。
     『テンテンコンビ』復活とならなかった英智は、とはいえ桃李と同じ遊びをすることに新鮮さも感じているようで、違う楽しみ方を見つけた様子だ。
     一方の桃李も、英智と肩を並べて遊べることを喜んでいた。しかし、銃を持ったとたんに——おもちゃといえども形状はまごうことなき銃である——その重みに不安そうな顔を浮かべた。
    「ちゃんとできるかなぁ……」
    「楽しくやろう、桃李。おもちゃの弾丸をひとつここにいれて……と。こうかな?」
     英智は渉から受けたレクチャーの見様見真似をして手順を確認する。そして肩の高さで銃を構えると迷いなく引き金を引いた。カン!と小気味いい音が聞こえたが、それは壁に当たった音だった。
    「一発目にしてはいいんじゃないでしょうか! 慌てず狙いを定めてください。外しても弾は私が回収しますのでご安心を♪」
     続いて桃李が放った弾は、テントの屋根に当たり、その流れ弾がくまのキーホルダーをかすめた。当の本人は、反動に驚いてそれを視認していなかったようだけれど。
    「うにっ! どこいったの!?」
    「Amazing フフフ、なかなか筋がいいじゃありませんか姫君。くまさんの座る位置が変わりましたよ」
    「でも今のもう一回やれって言われても無理〜!」
     あんずはハラハラと二人を見守っていた。ふと隣の弓弦を見ると、ちゃっかりスマホでシャッターを切っているので、いつもどおりだなと思いあんずは密かに微笑んだ。こんなところ、桃李の親御さんに見せられるのだろうかと疑問に思ったが、聞かないでおくことにした。
    「渉、もう一度」
     調子良く発砲していた英智は、早々に弾切れになってしまったようだ。五発というのは、慣れてきた頃になくなる丁度いい数なんだよな、とあんずは今までの経験を思い返す。
    「一回五百円になります……☆ それから、順番なので並び直してくださいね! 後ろでお二方がお待ちです」
     そうだった、という顔をして英智は弓弦とあんずを見た。それだけ夢中になっていたらしい。それにしても、と英智は言う。
    「このおもちゃの弾丸、ひとつ百円なんだね。まあ、一回の射的体験の対価としては妥当かな」
    「どうします?」
    「少し頭を冷やして考えるよ。順番も譲らないといけないし」
     英智は弓弦に場を明け渡した。その間に桃李も全部外したらしく、肩を落として戻ってきた。
    「どうだった? 桃李くん」
    「ん〜なんか一瞬で肩凝っちゃった。マッサージしてあんず〜」
    「ちょっとだけだよ」
     あんずが、桃李を労って背中をさすっていると、屋台の方からバン! と凄まじい音がした。
    「はずしましたね」
    「……伏見くん?」
     あんずと桃李は思わず顔を見合わせた。英智と桃李が放った弾の音とはまるで違う音だった。後ろから見ても、前屈姿勢というのだろうか、とにかく体勢がサマになっている。
    「いたた、あんず、力入れ過ぎ〜! もっと労って!」
    「ハッ! ごめん、つい!」
     そろそろ私もやってくるね、と、そう桃李に言い残してあんずも射的の景品に向き合った。
     狙うは、弓弦と同じソフビ製のくまの置物(もしかしたら指人形)だ。
     弓弦は二発目以降を立て続けに撃った。真っ直ぐな軌道を描く弾丸は、くまの置物をかすめたり傾いたりして、今にも落ちそうだ。だが最後の一発、頭に当たったけれど、くまは少しぐらついただけで、棚から落ちることはなかった。
    「なかなかのやり手ですね執事さん。念のため言っておきますが、人形に重しを入れておくなどの細工はしていません」
    「お恥ずかしい」
    「弓弦〜はやくお茶入れてきて〜」
    「あんずちゃんも経験者だよね、楽しみだなぁ」
     めいめいにリラックスした雰囲気を醸し出す中、あんずは目の前のことに集中していた。弓弦の一発でぐらついたこのタイミングが、大事だと。
    「………」
     パン! ……ぽとん。
    「当たった……?」
    「Congratulation! この人形はあなたのものです……☆」
    「あ、ありがとうございます」
     あんずは信じられないと声を上げる。けれどどこか晴々とした表情をしていた。
    「ごめんね、伏見くん。後から奪った形になっちゃって」
    「構いません。持ち弾で仕留めきれなかった私の腕が良くなかったのです」
    「そっか……」
     あんずはくまの置物の底部分を覗いた。やはり空洞になっていて、人差し指の先を入れて遊ぶタイプのもののようだった。
     指にはめて、関節を動かしてみると、まるでくまが何か話したそうにしているように見えた。謝ろうとしているのかもしれない。
    「ええ。あんずさんが持っていてください。その子が……いえ、わたくしが、その方が嬉しいのでございます」
     同じ景品を狙ったもの同士、少なからず思うところはあるだろう。それでも弓弦はにこやかに言った。あんずが気遅れしないように。
    「……そう? ありがとう。かわいいよね、こいつ」
     あんずは弓弦に向けてくまをお辞儀させた。感謝の気持ちを示すためだ。すると弓弦は一瞬驚いた表情を見せ、そしてくすくすと声を出して笑い出した。つられてあんずも、ふふっと笑った。同じように感じているのだとわかって、嬉しかった。

    ----------

    「あれ、かわいいかな?」
    「二人とも独特の感性をもっているね」
    「景品を用意した甲斐があります」
     そうしてこの日の『英智デー』はおひらきとなった。

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