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    ltochiri

    二次創作いろいろ

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    「フェアリーテイル』のステージを舞台にしたほろ苦い話
    更新:10/26

    ##小説
    ##英あん
    #英あん
    britishPlan

    おとぎの夢 ここは夢の中でのみ訪れることができる不思議な図書館。
     ナイトブルーを基調にしたクラシックな内装は落ち着いた印象なのに、壁際に並んだ本棚は思わず圧倒されてしまいそうなほど多く満たされている。
     そんな不思議な図書館を訪れたあんずはしかし、困っていた。
     探していた本を見つけたのはいいのだけれど、それが手を伸ばしても届かない高さのところにあったのだ。
     ハシゴや踏み台がどこかにないかとあたりを確認したが、見つからなくて途方に暮れている。

     呪文を唱えて自然に落ちてきたら便利なのに、などと背表紙を見上げて眉間に皺を寄せているあんずはそれでも現実的な思考の女の子だから、せめて椅子を持ってこられたら届くかも、と思いついた。
     次の行動に移そうととしたその時、あんずの背後から突然、誰かの手が伸びてきた。
     すらりと長い指と節くれ立ったしっかりとした手は男の人のものだとわかる。遅れて漂ってくるバラの香りが、見えずとも誰であるかを主張したいて、心も体も飛び上がる。
     そんな彼の手が引き出した本はあんずが求めていたものだ。本を追いかけるようにして振り向いたあんずの視線の先で、なんてことないというように英智が片目をつむって笑っていた。

    「ありがとうございます」

     あんずは英智の顔を見上げると、ほっと安心しながら微笑を浮かべてお礼を言った。なんて親切なんだろう。

    「え、何のことかな?」
    「その本、代わりに取ってくれたんですよね?」

     あんずは遠慮がちに英智の手の中にあるものを指さして言った。普段は厳しい英智だけれど、届かないところにある本を取ってくれるなんて、優しいところもあるんだとあんずは感激していた。

    「いや、残念ながら、僕が読みたいから取っただけだよ♪」
    「………」

     英智の言葉を受けたあんずの微笑みにぴしっとヒビが入った。そんな偶然、あったら素敵だと思うけれど。同じ本を同じタイミングで読みたいと思っていたなんて別のロマンスを思い浮かべもする。
     だけどこの人に限って、そんなことはありえないのだということを、あんずは知っていた。
     怪訝そうに顔を顰めているあんずに、英智はすぐに発言を訂正した。

    「ふふ、冗談だよ。この本は既に読んだことがあってね。興味を持ってくれて嬉しいよ。はい、どうぞ」
    「……ありがとうございます」

     手渡された本の表紙を撫でながらあんずは考える。
     どうしていじわるをするのだろう。そんなことしなくても大丈夫なのに。あんずは英智のそばを離れるつもりはないのだから。
     なにか不安なことでもあるのだろうか。
     あんずが英智の顔を見上げたと同時に、英智の口から楽しそうな声が飛び出てきた。

    「それで見返りと言ってはなんだけれど」
    「はい?」

     考え事をしていたのがいけなかった。あんずはそのまま英智に距離を詰められて、あとずさったあんずのかかとが本棚を蹴った。
     音を立てたことに気を取られているうちに、英智はあんずを囲うように本棚に両手をつく、逃げ場を塞がれてしまったので、あんずは身を縮こまらせることしかできない。
     あんずの顔に英智の影が落ちる。逆光に見える英智の表情は憂いを帯びていて、暗くなったら溶けてなくなってしまいそうに儚いものだった。
     だからここでキスされてもいい、と、あんずは目を閉じた。夢が覚める前にーー魔法が解ける前に、決着をつけられるなら。
     英智の体温を近くに感じる。耳元に唇が寄せられる気配があったのであんずはさらに身を固くしてその時を待った。

    「読み終わったら簡単に感想を聞かせてね?」

     英智はそれだけ言うとあっさり身を離した。だから思わず拍子抜けした声が漏れ出てしまった。

    「え……」

     英智はにこやかに笑みを浮かべるだけして背を向けたかと思えば、すぐさまこの場を離れようとしている。
     あんずは顔を真っ赤にして怒った。
     そこまで意気地のない人だと思わなかった。
     それともーーと、別の可能性に思い至り、あんずは急に気恥ずかしくなった。
     考えすぎだったかもしれない。接近されたからキスされるのかなって思うなんて。
     本を抱えたままその場にしゃがみ込みながら、あんずは英智の背中を恨めしそうに見送った。
     あぁ、気持ちだけが重たくなっていく。
     届かない高さにある本を代わりに取ってくれる現代のおとぎ話みたいな男の人。その本を素直に渡してくれるほど気の良い人ではないけれど、それでも彼はあんずにとっての王子様だった。
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