鼓舞するものクロススカウトtalk to meのストーリーを受けて書いた二次創作ストーリーです
※スカウトストーリー読了後の閲覧を強く推奨します
※引用している部分と捏造している部分が混在しています
※斑あんとして書いていますが見ようによってはあんず愛されかもしれません。嫌な予感がした方はここで回れ右!なんでも許せる方のみ先へお進みください。
※スカウトストーリー読みましたか?
鼓舞するもの
なずなとこはくに連れられて、あんずは繁華街を歩いていた。二人とも仕事を終えて私服ではあったが、アイドルと一緒にぞろぞろと移動するのは、二年生の時の——アイドル科と教室をともにしていた頃を思い起こさせた。実際は学年も学校も、どちらとも違うのだけれど。仕事を終えた安堵感がそうさせるのだろうか。三人で今日の仕事を振り返ったり、懐かしい話をしたりしていたら、張り詰めていたものが解けて呼吸が少し楽になった気がしていた。
目的地もわからないまま連れ出されて、本来なら不安を覚えるところなのに、その心配がいらないのは二人を信頼しているが故だ。だが——この組み合わせは、おそらく物珍しさで目立つ。ESの周辺だとよくあることではあるが、後々、目撃情報などが噂で広がるだろう。もし何かあった時の対処をどうするべきかあんずは考えていた。するといつのまにか二人の会話を聞きながら、険しい顔になっていて、そんなあんずを心配してこはくは声をかけた。
「なんや、難しい顔して……。ぬしはん、まだ心配ごとでもあるん?」
「えっ、いや、大したことないよ!」
「なんや、あるんかい」
軽やかなこはくのツッコミに対し、しまった、と身を固くするあんず。そんな表情をしても遅いのだが。あんずはなんでもないというように胸の前で両手を振って言い訳をし始めた。
「あっ。いやでも、ほんとに大したことないから……」
「きっとあんずのことだから、俺たちの行動のリスクを考えてくれてるんだろ? 心配しなくても、そこは大丈夫だ、安心していいぞ」
「あ、そ、そうなんですか……?」
あんずの機微を察したなずなの助け舟に、こはくは首を縦に振って頷いて笑った
「コッコッコ。たしかに、それやったら大したことない心配ごとやな」
「だ、だから言ったのに」
あんずを中心に和やかなやりとりをしていたが、どうやら目的地が近いらしく、なずなが先導するように歩き出した。
やがて三人がたどり着いたのは繁華街の中にあるレストランだ。
広々とした空間にテーブルと椅子がセットされていて、仕込み中のいい匂いが漂ってくる。
あんずはすぐに違和感に気がついた。このレストランはいつも賑わっている印象だが、今は他に客がいない。時間的にそれはおかしいと思ってこはくに訊ねた。
「ふふん♪ それはなーー」
「俺たちがレストランを貸し切ったからだよ! じじゃ〜ん、サプラ〜イズ♪」
そう言って突然飛び出てきたのはひなた。
「むふん、拙者の煙幕で場を盛り上げるでござる! モクモク〜☆」
レストラン内をスモークを炊くように雰囲気を作っているのは忍。
「うぎゃぁ、何も見えない!? 誰かたすけて〜!」
叫んでいる声の主は、姿が見えなくてもあんずにはわかる、桃李である。そして——
「はい、あんず! 『本日の主役』のタスキをかけてあげるね!」
待ち構えたいたスバルが腕を高く上げてあんずの頭上から肩にずぼっとタスキをかけた。
戸惑いながら、あんずは目の前のスバルに問いかけた。
「誕生日でもないのに、意味がわからないよ」
「ううん、悪戯とかじゃないから安心して」
とはいうものの、なずなとこはくがコソコソしながらどこかへ行ってしまうので、あんずはますます困った表情になった。
スバルと桃李から説明された経緯はこうだ。
あんずが営業をかけて得た忍とひなたの一日店長の仕事が終わったその日。星奏館でその振り返りをしていたら、こはくが話を切り出した。
「実績づくりのために動いとるのはわかっとるけど……わしはやっぱり、祝賀会を開いてあげたいわ」、と。
もともと、あんずの独立を祝う会を開くというのは話にも出ていた案である。しかし今は独立してからの実績を欲しているあんずのために仕事をしたいと申し出たのがほかでもない、なずな、こはく、ひなた、スバル、忍、桃李の六人なのである。
「どっちか片方を選ばなきゃいけないってわけでもないよな」
なずなの声に呼応するように、準備は密かに進められ。
「——以上、説明終わり!」
レストランは桃李のプライベートマネーと交渉で貸し切ったのだという。
そうこうしているうちに、共通衣装に着替えてきたなずなとこはくがマイクを通してたった一人の観客に向けて呼びかけた。
『ようこそ! 一夜限りの『臨時ユニット』ライブへ!』
『最初の曲は、全員でーー『Surprising Thanks!!』!』
イントロと同時に躍り出る六人のアイドル。
あんずは初心にかえってペンライトを振ったり、うちわを掲げたりした。
きっと、忘れないだろうと思った。そして、忘れそうになった時に思い出そうと思った。この祝賀会を開いてくれたみんなの気持ちを。はじめてアイドルに会った時の気持ちとともに。
ソロ曲をメドレーで披露し終わって、熱気がピークに達した時のこと。
『それでは次が最後の曲になります!』
「えぇ〜っ!」
ノリノリのあんずにスバルの機嫌も最高潮である。
『だよねだよね、もっともっと、続けていたくなる!』
『も〜っ、明星センパイ、脱線しないで! ね、よかったらあんずも一緒に歌おう!』
「へ、わたし?」
『そうそう、ここには俺たちしかいないよ! 臆する理由なんてないよね!』
「いやいやいや当然あるけれど!?」
『いっくよ〜! 『ONLY YOUR STARS!』!』
「えぇ……」
あんずの可憐な声とともにアンサンブルを奏でた後。
「アンコール! アンコール!」
手を叩く音とともに、アンコールの掛け声をしているあんず。観客は一人きりのため、これを途絶えさせたら出てこない可能性に責任感を背負う。
実際のライブのように、時間がかかっている。ほかに衣装は持ち合わせていなさそうだったけれど、とあんずは不思議に思っていた。
ふいに、『Surprising Thanks!!』のイントロとともに六人が登場した。みんなそれぞれのユニットのジャージ姿を着ていた。
『アンコールありがとう!』
『ありがとう!』
一斉にあんずに向けて手を振るので、あんずは誰に向かって返せばいかがわからなくなった。俗に言う目が足りないという状態だろうか——いや厳密には少し違うか、などと考えながら。
おろおろしていると、なずながなにやら含みのある言い方でMCを繋げる。
「そしてそして、あんずのためにライブをするのは俺たちだけじゃないぞ!」
すると、ガヤガヤ、ざわざわ。
即席のステージ裏から気配がして。
『アンコールは全員で——『Surprising Thanks!!』!!』
紙テープが噴射されるとともに飛び出してきたのは、ESアイドルがたくさん——おそらく全員、だった。
「えぇ、みんなっ!?」
何組かに分かれてパートを披露した。
三組目の『臨時ユニット』がライブしている。
二組目のメンバーだった斑があんずのもとへ寄って話しかけている。
「こはくさんに感謝しないとなぁ」
あんずが過労で倒れた時。あの時も、病院の庭で、ユニットから一人ずつ集めてライブをしてくれた。当時のことを思い出して、あんずは考え込んだ。
「率直に言うと、桜河くんのアイデアは三毛縞先輩が吹聴したのかと思うくらいでした」
「まさか! こはくさんの純真な気持ちを俺のと比較したら月とスッポンーー提灯に釣り鐘だなあ」
「………」
「………」
「これだけの人数が集まったら、さすがに騒ぎになっちゃうかも……」
「ESアイドル全体の撮影があるって噂を撒いておいたぞお。ちなみにお蔵入りになる予定だ」
「ぬかりないですね……」
「悔しい?」
「うっ」
図星
あわよくば撤収時自分の出番かと思っていたから
斑の手際の良さが恨めしい
「あんず、マム先輩となに仲良く話してるのー!」
「えっ、なにを話してましたっけ」
「なんだったかなあ!」
「ちぇ〜教えてくれないんだ! ねぇねぇあんず、もう一回一緒に歌おう、みんな待ってるよ」
「わたしはいいよ……ここで見てるから……ああっ」
スバルに手を引かれて連れて行かれるあんず
斑の方へと微かに伸ばされた反対側の手
しみじみとして口元が緩む斑
騒がしく去っていくあんずとスバルを見ながらこはくが近寄る
「いいのかあ? こはくさんはステージに上がらなくて」
「一番手もらったからええんよ。順番やろ、こういうのって」
眩しそうに細めて見るこはくに斑は何かを感じたよう
成長や交流したことで得られたものについて
同時にモヤ……
「後方彼氏面の立ち位置は渡さないぞお」
「なんのはなし!?」
一夜限りの特別なステージはこの後も続いた。