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    ltochiri

    二次創作いろいろ

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    ltochiri

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    #あんず島ワンドロライ
    お題『花火』
    2.0h
    花より団子、花火よりたこ焼き。斑あんなので。
    RT期間終了後に修正する可能性があります。

    ##あんず島3
    ##斑あん
    ##小説

    熱帯夜 ESビル七階、ニューディ事務所のフロア内をあんずは忙しなく歩き回っていた。
    「あんずさん、今日は花火大会の日だ」
     そこへ突然、腰に手を当てた斑が現れあんずの目の前に立ち塞がった。目を吊り上げて、怒ったような態度だ。
    「……ああ、隣の町で開催されるってポスター貼ってありましたね。迂回路の看板見ました」
     ワンテンポ遅れて返事をするあんずは、斑の相手をするのも億劫そうに視線を合わせることもしない。
    「君は今年、花火を見たかあ?」
    「はい。仕事で何度か」
    「あんずさんは仕事熱心だから、花火が上がる音しか聞いてないとか、カメラ越しに見たとかいう話を聞いたんだが」
    「まさか。ちゃんと見てますよ」
    「目が泳いでるなあ」
    「………。ちゃんと見てましたよ。設営の合間にですけど」
    「うんうん。わかった。じゃあ今夜はママと花火を見よう。このビルの近くで穴場を見つけたんだ。休憩に散歩がてら行ける距離だ」
    「なんでそうなるんですか。でも、わかりました。行きましょう」
    「ありがとう。楽しみだなあ」
     ウキウキしてる斑を見てあんずはホッとしていた。彼の怒った顔は少し怖いから。とはいえ、笑った顔もおそろしいものが潜んでいる気がしてならない。そんな思いをかき消しながら、あんずは仕事のスケジュールを練り直していた。

     二人は夜店で買ったたこ焼きと紙カップのドリンクを手に、祭りの喧騒から離れた道を歩いていた。住宅街に近いそこは近所の住民がレジャーシートを敷いて花火を見る準備をしたり、祭りに便乗してバーベキューをしたりと、常より明るい気配を漂わせている。
     日が落ちて間もない薄闇の中、あんずは斑の一歩後ろを着いていく。なだらかな上り坂になっていて、追いつくのが難しかった。
     住宅街を過ぎて二階建てにアパートを横切ったあたりで、斑が立ち止まって来た道の空を指差した。
    「ここだ。あそこに見える他より高い屋根の、隣の家のあたりにあがるはずだ」
     たしかに、彼の言うとおりだとあんずは思う。今まで通ってきた家々の屋根が少し低く見える。街灯はあるけれど、人の気配はまばらで、穴場と言える位置だった。
     歩道だから、ゆっくり座って見上げることは、難しいけれど。
    「こんな場所、どうやって見つけたんですか?」
     あんずは純粋な疑問をぶつけた。花火大会は年に一度のものだ。穴場で見られるところなんて、誰かに聞いたか、実際に自分に目で見なければわからないだろう。斑がそれを教えてくれることが不思議だったのもある。
    「ふふん。秘密」
    「えぇ……」
    「座る場所がなくて悪いが……散歩の途中で立ち止まったという体裁をとるにはじゅうぶんだろう?」
    「……ありがとうございます」
     斑の周到さにあんずは半ばあきれたが——それはあんず自身が望んでいるやり方だったので、素直に感謝を述べることにした。質問がかわされたことも、この際気にしないことにする。
     腰より低い高さにあるステンレス製の柵にもたれて軽食をとりながら、二人は花火が上がるのを待った。

     舟型のトレイに置かれる爪楊枝を見つめ、二つ買えばよかった、とあんずは苦笑した。たこ焼きを食べたいという斑に言われて夜店に行ったものの、その気がなかったあんずはドリンクだけでいいと誘いを断っていた。
     なのに結局、一つのたこ焼きを二人で分けることになっている。爪楊枝に刺されたたこ焼きが目の前に差し出されて、それが今にも重力に負けて落ちそうになっていたから、反射的に食べてしまったのだ。
    「おいしいなあ」
    「……おいしいです」
     あんずは不覚だったと自分の言動を反省しながらもごもごと口を動かしてたこ焼きを咀嚼した。にこにこと機嫌が良さそうな斑の表情に嫌な予感がする。あんずが飲み込む前に斑がかつおぶしがたくさんかかっているたこ焼きをわざわざ選んでいた。
    「お腹すいてないかあ。もっと食べるといい」
    「遠慮しておきます」
     あんずはかぶせ気味に返事をした。やっぱり、そうきたかという気持ちがあった。常日頃から、斑はなにかとあんずの食事の心配をしてくるのだ。
    「そうかあ……」
     ぱくり。あからさまに残念そうな顔でたこ焼きを口に放り込む斑にあっとあんずは目を見開いた。
    (爪楊枝一本しか入ってなかったっけ)
     同じ爪楊枝でたこ焼きを食べていることに気づいたあんずは焦った。それがきっかけで斑の口元をじっと見ることになってしまい、それは意識してはいけないことを感じてしまうことに繋がった。
    「う……」
    「ん?」
     一方、斑はとくに何も考えていないらしく、きょとんとしている。あんずは考えすぎだ、と反省し、ごまかすように空を見上げた。その横顔を目にした斑が声を発した。
    「あ、あんずさん。ほっぺにソースが」
    「えっ?」
     あんずが振り返った瞬間だった。夜空に一輪の花火が上がった。
     花火大会のメイン会場周辺でスピーカーから流れているであろうアナウンスも、この場所までは聞こえない。ただ花火の導火線が見えるだけが合図だった。
     花火が咲いた音が少し遅れて聞こえる。
    「おお」
    「……始まったみたいですね」
     一発目を境に花火が夜空で踊るように咲く。あんずはややほっとした心地でさまざまな花の模様を見ていた。斑も音のする方に目を向ける。
     しばらくすると静寂が戻った。おそらく次の準備をしているのだろう。町内会規模の花火大会なので、提供の読み上げが随時行われる。
     その間にあんずはハンカチで口元を拭った。ソースがついていたという跡がわからず、首を傾げる。
    「なんですか、じっと見て。まだ何かついてますか?」
    「いや、何も」
     嬉しそうに笑う斑にあんずはじろっと睨むように目を向ける。
    「そんなに見ないでください、何も出ませんから」
    「いやあ、べつに何か欲しいってわけじゃあない。むしろ、俺にとってあんずさんは目の中に入れてもかわいいくらい愛する存在だ♪」
    「はあ……」
     話が噛み合っていない気がしてあんずは困惑の表情を浮かべる。やがてスターマインが夜空に咲きはじめた。
    「花火見ないんですか」
    「ちゃんと見てるぞお。でも、花火を見上げる君がかわいくてつい目を奪われてしまった」
     歯の浮くようなセリフを堂々と言うのであんずは顔を赤くした。すぐに俯いて顔を隠したから、見られていないといいなと思う。花火は明るいけれど、辺りは暗いから。

     花火が打ち上がりおわった後も、二人はステンレス製の柵にもたれたままじっと動かずにいた。
     煙たい雲が流れる夜空を見上げながら、あんずは小さな声でリクエストをつぶやいた。
    「もう少しこのままでいいですか」
     それを聞いた斑は満面の笑みを浮かべると、体を曲げてあんずの顔を下から覗き込むようにして言った。
    「もちろん! 少しと言わずいつまでも一緒にいよう」
     大仰に宣言する斑にやや怯みつつ、あんずは返事としてはにかんだ笑みを浮かべた。
     『いつまでも一緒に』——この人なら本当にやりかねない。危機感のようなものが脳裏を掠めるが、その駆け引きにまんざらでもない気持ちが芽生えていることをあんずはまだ認められずに、けれど彼の隣にいられることは嬉しいと、それだけは素直に思うことにした。
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