頂点に輝く星は暖房の効いたマンションの一室で、イミテーションのモミの木が組み立てられていた。あんずの背よりも低い、かわいらしいサイズのもので、毎年やっているからと、手際よく作業をしている。そこへ部屋の飾りを終えた英智が歩み寄り、あんずに声をかけた。
「さすがだね」
「この箱の中に入ってるので、飾り付けをお願いします」
「わかったよ」
オーナメントが入った箱を木の近くに寄せて開封する。その中の状態に、英智は目を見開いて驚いた。最後に飾る大きな金色の星が中央で陣取っていたからだ。
今はほかの装飾を施すのが先だ。だからそれは一旦取り出すべきと、そう考えてはいるのだが、英智は手を動かせず、じっとその星を眺め続けている。
「英智さん、具合でも悪いですか?」
彼の異変に気づいたあんずが声をかけると、英智はおもむろに話を切り出した。
「ううん。そうじゃないんだ。ただ、思い出していたんだ。君は一度として僕の――いや、僕たちのユニットが頂点に輝くところを見ていないってね」
電飾を巻き付けるのに苦戦しているあんずは、英智の感傷的な言葉に淡々とした態度で返事をする。英智が妙な考えにとらわれることは、しばしばあることだった。
「私に、見せたいと思ってたんですか?」
星は箱に入れたまま、その奥から引っ張り出した赤色や銀色のオーナメントを枝に結びつけながら、英智はつまらなさそうに肩をすくめる。
「まさか、と、言いたいところだけれど――ふと思うことがあるよ。本当の意味で、君のもとで、最大限に輝く姿を見せたかった、と。ただ、それも今だから言えることかもね。あの頃はそんな欲はなかったよ」
余裕ではなく、欲か。そう思ったあんずはちら、と英智の表情を伺った。英智は飾りを結ぶ手を止めて「でもね」と言い、話を続ける。
「アイドルになったのだから、そのくらい、してみせればよかったんじゃないか。愛する人に、一番の姿を、見せておくべきだったんじゃないか。もちろん、全力でステージをやってはいたけれど――」
「つまり、欲が生まれた?」
話の途中で腰を折られた形の英智は、苦笑しながらあんずの目を見た。
「どうしてそう思うのかな」
あんずが電飾のスイッチを入れると灯りが明滅して、壁と横顔をカラフルに照らす。
「たぶんですけど……私に一等星を見せたかったのは、私の喜ぶところを見たかったんじゃないですか? その頃の私が素直に喜ぶかは話が別ですが――でもそれは、人として正常な気持ちですよ」
「なるほど。君の笑顔を欲しがるなんて、昔じゃ考えられないね」
「ええ。からかわれてばかりでしたから」
「……ふふっ。欲、か。個人的な欲など、もうないと思っていたけれど」
「何言ってるんですか。もっと欲張ってもいいくらいです」
軽妙な言葉をかけるあんずに、英智の翳った表情が少し前を向いた。
窓の外では、雪が降り始めていた。
最後まで置いてあったとっておきのものを取り出しながら、英智はあんずに微笑みかける。
「最後にこれ、一緒に飾り付けないかい?」
「はい、ぜひ」
金色の塗装がされた星がクリスマスツリーの頂点に取り付けられる。その姿はなんだか誇らしげで、内側から輝いているように見えた。