Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ltochiri

    二次創作いろいろ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 40

    ltochiri

    ☆quiet follow

    #あんず島ワンドロライ
    お題『クリスマス』
    今回はお付き合いして同棲している英あんです

    ##あんず島3
    ##小説
    ##英あん

    頂点に輝く星は暖房の効いたマンションの一室で、イミテーションのモミの木が組み立てられていた。あんずの背よりも低い、かわいらしいサイズのもので、毎年やっているからと、手際よく作業をしている。そこへ部屋の飾りを終えた英智が歩み寄り、あんずに声をかけた。
    「さすがだね」
    「この箱の中に入ってるので、飾り付けをお願いします」
    「わかったよ」
    オーナメントが入った箱を木の近くに寄せて開封する。その中の状態に、英智は目を見開いて驚いた。最後に飾る大きな金色の星が中央で陣取っていたからだ。
    今はほかの装飾を施すのが先だ。だからそれは一旦取り出すべきと、そう考えてはいるのだが、英智は手を動かせず、じっとその星を眺め続けている。
    「英智さん、具合でも悪いですか?」
    彼の異変に気づいたあんずが声をかけると、英智はおもむろに話を切り出した。
    「ううん。そうじゃないんだ。ただ、思い出していたんだ。君は一度として僕の――いや、僕たちのユニットが頂点に輝くところを見ていないってね」
    電飾を巻き付けるのに苦戦しているあんずは、英智の感傷的な言葉に淡々とした態度で返事をする。英智が妙な考えにとらわれることは、しばしばあることだった。
    「私に、見せたいと思ってたんですか?」
    星は箱に入れたまま、その奥から引っ張り出した赤色や銀色のオーナメントを枝に結びつけながら、英智はつまらなさそうに肩をすくめる。
    「まさか、と、言いたいところだけれど――ふと思うことがあるよ。本当の意味で、君のもとで、最大限に輝く姿を見せたかった、と。ただ、それも今だから言えることかもね。あの頃はそんな欲はなかったよ」
    余裕ではなく、欲か。そう思ったあんずはちら、と英智の表情を伺った。英智は飾りを結ぶ手を止めて「でもね」と言い、話を続ける。
    「アイドルになったのだから、そのくらい、してみせればよかったんじゃないか。愛する人に、一番の姿を、見せておくべきだったんじゃないか。もちろん、全力でステージをやってはいたけれど――」
    「つまり、欲が生まれた?」
    話の途中で腰を折られた形の英智は、苦笑しながらあんずの目を見た。
    「どうしてそう思うのかな」
    あんずが電飾のスイッチを入れると灯りが明滅して、壁と横顔をカラフルに照らす。
    「たぶんですけど……私に一等星を見せたかったのは、私の喜ぶところを見たかったんじゃないですか? その頃の私が素直に喜ぶかは話が別ですが――でもそれは、人として正常な気持ちですよ」
    「なるほど。君の笑顔を欲しがるなんて、昔じゃ考えられないね」
    「ええ。からかわれてばかりでしたから」
    「……ふふっ。欲、か。個人的な欲など、もうないと思っていたけれど」
    「何言ってるんですか。もっと欲張ってもいいくらいです」
    軽妙な言葉をかけるあんずに、英智の翳った表情が少し前を向いた。
    窓の外では、雪が降り始めていた。
    最後まで置いてあったとっておきのものを取り出しながら、英智はあんずに微笑みかける。
    「最後にこれ、一緒に飾り付けないかい?」
    「はい、ぜひ」
    金色の塗装がされた星がクリスマスツリーの頂点に取り付けられる。その姿はなんだか誇らしげで、内側から輝いているように見えた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works