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    MeltsXIV

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    Dragon's Song
    本編

    1話イオス大陸よりはるか南西の海に浮かぶエテルナ島。この島は、魔導師や聖騎士を志す者たちにとって「聖地」と呼ばれ、光の加護を受けし者たちが試練を乗り越え、新たな力を得る場でもあった。
    広がる青い海、風に揺れる白亜の神殿、そして空を舞う美しい鳥たちが、この地の神秘を物語っている。
    「ノア、二年間よく頑張ったな。俺が教えられるのはここまでだ。あとは、お前の実力次第だ」
    壮年の騎士が静かに告げた。その言葉を噛みしめながら、ノアは深く頭を下げる。
    彼女は士官学校を卒業後、聖騎士の称号を得るべく、このエテルナ島に渡った。神官長イスズ・エルガの目に留まり、その素質を見出されたことがすべての始まりだった。エテルナの聖騎士になるためには、単に剣の技術や勇敢さだけではなく、相応の魔力の高さと、揺るぎない志を持つことが求められる。
    神の加護を受けるにふさわしい精神性がなければ、試練の門をくぐることすら許されない。
    壮年の聖騎士に師事し、二年間の厳しい修行を積んだ末に、ついに明日、試練を受ける許可を得たのだ。
    しかし、その喜びの裏には拭えない不安があった。
    この地で幾人もの志願者が試練に挑み、その多くが乗り越えることができず戻ってきた。ある者は絶望に打ちひしがれ、ある者は肉体に深い傷を負って。
    だが、戻ってくる者はまだいい。語られる噂の中には、試練を乗り越えられなかった者が二度と戻らなかった――命を落とした者すらいたという話もあった。
    それがどこまで真実なのかは誰にも分からない。ただ、試練が命を賭けるほどのものであることは確かだった。
    夕刻、ノアは村の外れで剣を振っていた。闇に沈む海から、静かな波音が聞こえる。潮風が頬を撫でるたびに、気持ちを落ち着けようとするが、それでも心の奥底には不安が沈んだままだった。
    頭の中で何度も手順を確認する。剣技、魔法の練習、これまで学んだことをひとつずつ思い返し、試練に備える。

    ふと、誰かの気配を感じて振り返ると、穏やかな笑みを浮かべた長老が立っていた。
    「明日、試練を受けるそうじゃな」
    「長老さま……」
    「浮かない顔をしておる……やはり不安か?」
    その問いかけに、ノアは少しだけ息を詰まらせた。答えたくない、けれど――隠しきれなかった。
    「……私は本当に試練を乗り越えられるでしょうか」
    その言葉が零れ落ちた瞬間、沈み込んでいた不安が少しだけ重くなる。幼い頃からずっと目指していた聖騎士。けれど、その道がここまで険しいものだとは、かつての自分には想像もできなかった。
    「おーおー、また後ろ向きなこと言ってんなー?」
    俯いていたノアの頭を、突然の大きな手ががしりと掴んだ。驚いて顔を上げると、金髪を逆立てた青年――ネイキッド・シーマが立っていた。
    彼は陽気な性格の持ち主で、見た目の通り少しおちゃらけているが、神殿の騎士団に所属する神殿騎士であり、このエテルナ島の警護を任されている彼は、見た目通りの軽い性格だが、神殿の安全を守る実力者でもある。
    神殿内では、彼の軽い性格や冗談好きがよく目立ち、周囲を和ませているが、いざという時には真剣に島の安全を守るために働いている。
    ノアにとっては、厳しい修行の日々の中でできた最初の友人でもあり、彼女の少し考え込みがちな性格を軽くする存在でもあった。
    「ま、この俺と互角にやりあったお前なら、試練なんて楽勝だって!」
    その言葉に、長老が苦笑しながら杖でネイキッドの肩を軽く叩いた。
    「なーにを言うか、あれのどこが互角じゃ。お主が押されとったであろう」
    「う、うるせー!」
    ふっと、小さく笑いがこぼれた。
    「ふふっ」
    その様子に気付いたネイキッドが目を細める。
    「あっ、テメっ笑ってんじゃねぇ!」
    乱暴にノアの銀髪を撫でつける。無造作に掻き乱された髪を押さえながら、ノアは苦笑した。
    「ちょっと、やめてよ…!」
    どこか無遠慮なネイキッドの言葉も、今はありがたかった。彼の陽気さに触れると、不安の影が少しだけ薄れる気がする。彼の言葉には、いつも迷いがない。ノアがどれだけ悩んでも、ネイキッドはいつだってまっすぐに「お前なら大丈夫だ」と言ってくれるのだ。
    長老はその様子を見守りながら、微笑んだ。
    「案ずるな。お主ならばきっと大丈夫じゃ。明日に備えて、今日は早めに休むと良い」
    そう言って、静かに自分の家へと歩き出した。ネイキッドも大きく伸びをしながら、軽く手を振る。
    「とーにかく! 明日は全力でガンバレ! 俺も応援してるから! んじゃ、またなー!」
    彼は軽やかに神殿の方へ駆けて行った。その後ろ姿が見えなくなる頃、ノアは静かに呟いた。
    「ありがとう…」
    その言葉には、いくつもの感謝の気持ちが込められていた。
    夜の帳が降り、エテルナの空には月が静かに輝いていた。試練の前夜。風が優しく吹くこの聖なる地で、ノアはひとり剣を握り、明日へと向かう決意を新たにするのだった。

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