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    MeltsXIV

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    MeltsXIV

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    Dragon’s Song
    本編
    みんなノア大好き問題

    5話レクサス・アルファードは、不意に耳にした悲鳴に眉をひそめた。
    遠く響くその声は、ただの混乱ではない。胸の奥に鈍い不安が生まれ、それが何かを告げているような予感に駆られる。胸の奥に鈍い不安が生まれ、それが何かを告げているような予感に駆られる。
    傍らで丸まっていた飛竜――モコと目を合わせる。無言のまま頷き合い、レクサスは立ち上がった。壁に立てかけてある剣に手を伸ばし、その冷たい感触を確かめる。剣の重みは変わらないはずなのに、今は異様に重く感じられた。
    その時、親衛隊長のイストが勢いよく扉を押し開け、足早に入ってきた。

    「竜が……魔物を伴い、城内へ侵入しました!」

    彼の顔色は蒼白で、肩は大きく上下し、普段の冷静さは影を潜め、焦燥と困惑の色がその表情に濃く滲んでいた。
    にわかには信じがたい。竜族は本来、創世の時より世界の理を司る神聖な存在。神々の祝福を受け、大地と空の調和を守る者たちであったはずだ。争いを好まず、その力を振るうことすら慎重な種族。そんな彼らが魔物と結託し、ストーリア王城を襲うなど、ありえない。

    「状況を」 「城内に魔物が侵入し、陛下が討伐の指揮を執っておられます。至急、合流を!」
    「わかった。おいで、モコ」

    レクサスは剣を腰に収め、レクサスは剣を腰に収め、イストとともに駆け出した。
    城内は、既に戦場と化していた。
    大理石の廊下は崩れ、至る所に魔物の死骸が転がっている。
    紫色の体液が壁を汚し、床に広がるそれは、かつてここにあった荘厳な輝きを完全に奪っていた。呻き声と剣戟の音が響き、空気は血と煙の匂いで重い。
    中庭へ続く扉の前で、負傷した兵士二名が壁にもたれかかっていた。彼らはレクサスの姿を認めると、よろめきながらも立ち上がる。

    「モコ……癒やしの唄を」

    モコは一声鳴くと、その喉から優しく澄んだ旋律を紡ぎ始めた。柔らかな音の波が空気を震わせ、まるで大地そのものが呼吸をするかのように、穏やかな魔力が広がっていく。光の粒が舞い、負傷した兵士たちの傷を静かに癒やしていった。
    苦痛に顔を歪めていた者たちの表情が徐々に和らぎ、荒い息が落ち着きを取り戻していく。

    「陛下と王妃様が……中庭で、竜と……」
    「イスト、彼らを頼む。くれぐれも無理はしないでくれ。」

    兵士の言葉を聞くや否や、レクサスは駆け出した。
    中庭へと踏み込んだ彼の目に映ったのは、深まる混沌。
    父――ストーリア国王アリストと、母――王妃シルビア。その前に立ちはだかるのは、灰色の毛並みを持つ巨大な竜。その鋭い爪の下には、深手を負った兵士がうずくまっている。三人の近衛兵が、必死に王と王妃を庇うように武器を構えていた。
    レクサスが踏み出そうとした瞬間、アリストがその腕を掴み、強い視線を向ける。

    「竜族であるあなたが、何故このようなことを……!」アリストの叫びを、澄んだ少年の声が遮った。

    「無駄だよ。この竜にはボクの声しか届かない。」

    竜の背から、一人の少年が飛び降りる。
    紫の髪に、残忍な笑み。
    少年は面白がるように肩をすくめ、口角を吊り上げた。

    「この国にも真竜族の女がいるはずだよ。ソイツをボクに渡してよ」
    「知りません。たとえ知っていたとしても、渡すことはできません」

    シルビアの言葉に、少年は興味を失ったようにため息をつく。

    「ふぅん……つまんないな」

    レクサスは鋭く息を吐き、剣を抜いた。その刃がわずかに光を反射し、決意の色を帯びる。灰色の竜がその動きをじっと見つめた。 モコも毛を逆立て、低く唸った。
    少年の唇が微かに歪む。右手が静かに持ち上がった、その瞬間――
    竜が首を巡らせる。
    紅い瞳。牙を剥き、吼える。
    業火が奔った。
    炎に包まれた刹那、強い衝撃を受け、レクサスの身体が吹き飛ぶ。
    ――モコ。
    飛竜の翼が、レクサスを覆うように広がり、力なく地に落ちる。

    「レックス!」

    両親が駆け寄ろうとする。来てはいけない。叫ぼうとするが、声が出ない。

    「死ぬ前に、名前くらいは教えておいてあげるよ。ボクはルフレ。あの世でも覚えておいてよ」

    からかうような声が降ってくる。
    再び、竜が首をのけぞらせた。
    今度こそ終わりか。
    レクサスは、動けぬモコを庇うように覆い被さった。
    ――その時。

    深く響く声が、ルフレの頭の中に響いた。それは艶やかでありながらも、冷酷なまでに揺るぎない威厳を帯びていた。

    「――戻りなさい。もう探す必要はないわ。今は、放っておきなさい……」

    その声音は、不気味なほどに優しかった。母が子を諭すような、慈愛に満ちた響きを持ちながら、その裏には冷たく揺るぎない支配の意志が潜んでいた。まるで、それに抗うことなど許されないかのように。
    ルフレは肩をすくめ、つまらなそうに息を吐いた。名残惜しげに戦場を見渡しながら、それでも従うしかないというようにため息をつく。

    「わかったよ。つまんないの」
    「……?待て……!」

    レクサスは歯を食いしばり、痛む身体を引きずりながら声を張り上げた。その手は震え、剣を握る力は残っていたが、振るうにはあまりに重かった。それでも、ただ見送ることなどできなかった。

    「次があればね。そのときはボクが決着をつけてあげるよ。まぁ……こいつらに食われずに済めば、だけど」
    ルフレは、仕方なさそうに竜の背へと飛び乗る。口元には未練がましい笑みが浮かび、その目はまだ戦場を楽しみ足りないと言わんばかりだった。
    竜の翼が大気を裂き、ルフレを乗せて舞い上がる。そのまま名残惜しそうに戦場を一瞥すると、つまらなそうに鼻を鳴らし、北方へと飛び去っていった。

    残されたのは、なおも蠢く魔物の群れ。戦いは、まだ終わっていない。

    ルフレと竜が去った後も、魔物の群れは蠢いていた。影のようにうごめき、王族を喰らわんとする不気味な視線が、闇の中で鈍く光る。

    「まだ、こんなにも残っているのか……」

    レクサスは息を整えながら剣を構えた。モコも立ち上がろうとするが、癒やしの魔力がまだ追いついていないのか、足元がふらつく。それでも必死に翼を広げようとし、小さく鳴き声を漏らした。父アリストと母シルビアも剣を手に取る。
    その時、背後から駆ける足音が響いた。

    「殿下、ご無事ですか!」

    イスト率いる近衛騎士団が駆け込んできた。傷を負いながらも、彼らは剣を手に魔物へと立ち向かう。戦列が整い、王族を守るために壁となる。

    「みんな、無理はするな。必ず生き延びるぞ!」

    レクサスは剣を振るい、最前線に立つ。魔物が飛びかかると同時に刃を閃かせ、的確に急所を貫いた。鮮血が飛び散り、魔物が呻きながら崩れ落ちる。
    イストもまた、冷静に指示を飛ばしつつ剣を振るい魔法を放つ。騎士たちが連携し、次々と魔物を仕留めていく。
    しかし、数が多い。

    次々と湧き上がる魔物に、押し切られそうになるその時――

    「モコ!」

    レクサスの呼びかけに応じ、モコはぷるぷると身体を震わせながら、必死に翼を広げた。傷ついた身体で飛び上がるのは辛いはずなのに、それでも健気に空へと舞い上がる。小さな胸をいっぱいに膨らませ、モコは精一杯の声を紡いだ。今度は癒しだけではない、鼓舞の唄。
    その響きはまるで春のそよ風のように戦場を駆け抜け、傷ついた者たちの胸を優しく撫でた。疲れ果てた兵士たちの瞳に、再び光が灯る。

    「今だ、一気に畳みかける!」

    レクサスが叫び、騎士たちは最後の突撃を開始した。剣が閃き、槍が貫き、魔法の光が爆ぜる。次々と魔物が倒れていき、やがて最後の一体が苦悶の声を上げ、地に沈んだ。
    静寂。
    戦いは終わった。
    荒い息を吐きながら、レクサスは剣を地面に突き立てる。騎士たちもまた、その場に膝をついた。
    「……何とか持ちこたえましたね」

    イストが息を整えながら呟く。レクサスも頷き、空を仰いだ。曇天の向こう、ルフレたちの姿はすでになかった。
    勝利した。しかし、それは紙一重のものだった。
    レクサスは剣を握る手に力を込めた。圧倒的な力の差、守ることすらままならなかった現実が、胸を締めつける。
    ――これでは足りない。
    もっと強くならなければ。王子だからではない。誰かを守るために、二度とこの無力感に苛まれないために。
    戦いの終わりと、新たな決意。
    ストーリア王城の空に、ようやく朝の光が差し込み始めていた。
    兵士たちは倒れた仲間を支え合いながら、ようやく訪れた静寂に息をついていた。癒術士たちが負傷者の治療にあたり、モコも力を振り絞って最後の癒しの唄を奏でている。戦いの余韻がまだ重く漂う中、レクサスは城壁に寄りかかりながら、剣の柄を握りしめた。
    そんな中、駆け込んできた兵士が息を切らしながら声を上げる。

    「報告! イオス大陸沿岸にエテルナ間の定期便が墜落したとの報せが入りました!」

    その言葉に、レクサスの胸がざわつく。

    「墜落……?」

    兵士は荒い息を整えながら、続けた。

    「詳細はまだ不明ですが、生存者がいる可能性があります。ですが、魔物の発生地域に近く、救助が困難な状況です!」

    レクサスは瞬時にノアの顔を思い浮かべた。数日前彼女からの手紙を受け取っていたばかりだった。『試練が終われば、すぐに帰れる』と綴られていたあの文。ようやく帰還できると喜んでいた彼女の姿が脳裏をよぎる。
    (ノア……まさか、今日の便に……)
    レクサスは胸の奥に広がる不安を抑えながら、落ち着いた声で今は居ない彼女に問いかけた。
    試練の日程から考えれば、今日の便に乗っていてもおかしくない。あの子なら無事だと信じたい。それでも、嫌な予感が拭えない。
    焦燥が胸を締めつける。

    「すぐに確認しよう。イスト、状況を整理してもらえるか?モコ、飛べそうか?」

    モコはまだ傷が癒えきらず、ふらつきながらも小さく鳴いた。

    「大丈夫、無理はしなくていい。ここまで頑張ってくれてありがとう、モコ。本当に助かっているよ。無理をする必要はないから、少し休んで……」

    そう言いかけた途端、モコは小さく鳴きながら翼を震わせ、懸命に立ち上がろうとした。疲労でふらつきながらも、その瞳にはまだ力が宿っている。

    「……そうか。君は、まだ頑張れるんだな。」

    レクサスはそっとモコの頭を撫で、優しく微笑んだ。

    「じゃあ、頼むよ。もう少しだけ、力を貸してくれるか?」

    新たな戦いが待っている。レクサスは剣を収め、仲間たちと共に飛行艇の墜落現場へと急いだ。
    数刻の後イオス大陸沿岸に辿り着いた彼らの目に映ったのは、黒煙を上げる飛行艇の残骸だった。大破した船体が地面に突き刺さり、周囲には生存者たちが混乱した様子で集まっていた。

    「生存者は?」

    レクサスの問いに、救助にあたっていた兵士の一人が顔を曇らせる。

    「数名の乗客は無事でしたが……」
    「ノア様の名前が乗客名簿にありましたが、姿が見当たりません。生存者の中にも、遺体の中にも……」

    レクサスの胸が冷たく締めつけられる。
    「……ノアが、いない?」
    兵士は力なく頷いた。

    「乗っていたはずの方々に聞き取りをしましたが、墜落の際に美しい白き真竜の姿を見たという証言がありました。ただ、それがどこへ向かったのか、あるいは何者だったのかは分かりません……」
    「真竜……?」

    レクサスは息を呑む。
    すると、その場で治療を受けていた重傷の乗客が、かすれた声で呟いた。

    「……白い竜が……墜ちて……でも……地に横たわった……」

    レクサスは即座に駆け寄り、身を屈める。

    「ご無理のない範囲で構いません。何を見たのか、教えていただけますか?」

    男は苦しげに息をつきながら、震える指で空を指した。

    「墜ちる時……白い竜が現れた……でも……しばらくして銀の鎧の娘になって……気を失っていた……」
    「その時……黒い翼の男が……現れて……北へ……アストラ大陸の方角へ……連れ去った……」

    それだけを言い残し、男は意識を手放した。
    レクサスの胸に新たな焦燥が広がる。

    「黒い翼……?」

    レクサスは状況を飲み込みきれず、息を詰まらせた。目の前の兵士や生存者たちは、それが当然のように語っているが、にわかには信じがたい話だ。飛行艇の墜落、白い竜の出現、そしてノアの行方不明。これらがすべて繋がっているというのか。
    ノアは、ただ行方不明になったのではないのか。

    レクサスは状況を飲み込みきれず、息を詰まらせた。白い竜の出現とノアの行方不明。まるで別々の出来事のように思えるのに、証言ではそれが同じ瞬間に起きていたという。目の前の兵士や生存者たちは、それが当然のように語っているが、にわかには信じがたい話だ。飛行艇の墜落、白い竜の出現、そして人の姿へそして消えたノア。それがどう繋がるのか、まだ理解が追いつかない。まさか、ノアと白い竜に何か関係があるとでも……?
    レクサスは息を呑む。

    ――ノア……君は無事なのか?どうか、何も起きていませんように。
    彼は拳を握りしめ。

    「周囲を捜索してください。手分けして、何か手がかりを探しましょう。」

    彼の声が響くと、騎士たちは即座に動き出した。
    焦燥を押し殺しながら、レクサスは遠く霞む地平線を見据えた。

    二年ぶりに会えるはずだった。ノアが試練を終え、ようやく帰ってくるはずだったのに――。

    ノア、君は今どこにいる?どうか何も起きていませんように。
    胸の奥に広がる不安を振り払うように、レクサスは静かに息を整えた
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