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    MeltsXIV

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    Dragon's Song
    小話

    初めて知った君の顔「おーい、ノアー? どこだー?」
    その日の午後、いつものようにのんびりしていた俺は、長老にノアを探してくるよう頼まれた。
    「はぁ? 何で俺が?」
    「暇そうにしておったからの。ほれ、早う行かんか」
    「ちっ、わーったよ」
    しぶしぶ歩き出し、ノアがいそうな場所を適当に探し回る。神殿の庭や修行場、港の方まで見て回ったが、一向に見つからない。
    「ったく、どこ行ったんだよ……」
    やれやれとため息をつきながら、広場の隅にそびえる大きな樹を見上げた。根本には風に揺れる草花が咲き、枝葉が広がるその姿は、まるでこの島の歴史を見守るように静かに佇んでいる。
    その緑の間に、陽の光を受けて輝く、見慣れた白銀――ノアは、樹上で静かに眠っていた。
    「……おいおい、何でこんなとこで寝てんだよ」
    思わず眉をひそめる。
    片膝を軽く立てたまま、細い指を胸元で軽く組み、背を幹にもたせかけるようにして、まるで小さな鳥のように身を丸めている。銀髪が風に揺れ、頬にかかる。その髪が陽射しを浴びて煌めくたびに、まるで月光を閉じ込めたような神秘的な輝きを放っていた。
    俺が近づいても起きる気配はない。
    「おーい……長老が探してたぞー」
    声をかけてみるが、微動だにしない。
    「おい、聞いてんのか?」
    そう言いながら、ふと寝顔をまじまじと見てしまった。俺が近づいても起きる気配はない。銀髪が風に揺れ、頬にかかる。穏やかな寝息。普段の真面目でしっかりした顔とは違う、柔らかい表情だった。
    (……何考えてんだ、俺)
    不意に胸がざわつく。頭の中に浮かんだ妙な感情をごまかすように、
    「おきろっつの」
    軽くノアの頭を叩いてみた。
    「ん……?」
    ビクリと体を震わせたかと思うと、ノアはゆっくりと目を開けた。紺碧の瞳が、柔らかな光を宿したまま、ぼんやりと俺を映す。まだ寝ぼけているのか、どこか遠くを見ているような、そんな視線。
    「お、おい」
    しかし、彼女はここが樹の上だということを忘れていたらしい。
    「お、おい」
    俺が言うより先に、彼女はバランスを崩し、あっという間に下へ――
    バランスを崩し、そのまま枝から滑り落ちた。
    「うわっ!」
    慌てて手を伸ばすが、ノアはバサッと葉を巻き込みながら、まるで落ち葉のように落下していく。
    尻もちをつき、しばらく呆然とした様子のノア。
    「だっさ!」
    俺は飛び降りながら、思わず笑ってしまった。
    「ぶふー! お前、ダサすぎだろ!」
    言った瞬間――
    「痛っ!」
    思いっきり拳が飛んできた。
    「イッテェよ! せっかく長老の代わりに探しに来てやったのによー!」
    「長老が? なんだろう?」
    「知らねーよ。とにかく、行って来いよ」
    ノアはしばらく考えたあと、小さく頷いた。
    「……ありがとう」
    そう言って、彼女は軽やかに駆け出した。
    「ったく、木の上で寝るとか……どんな寝方してんだよ」
    思わず呆れたように呟く。風を受けて、銀の髪がなびく。その姿は、どこまでも涼しげで、どこまでも遠くへ行ってしまいそうに見えた。
    俺は、なぜかその後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。
    (……初めて見たノアの寝顔が、頭から離れねぇ)
    陽が傾き始め、橙色の光が樹々を染めていく。いつも通りのはずなのに、胸の奥が落ち着かない。
    風が吹き抜け、木の葉がさらさらと揺れる。俺はぼんやりと空を仰いだ。
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