包帯の歌「……伊作」
「何だい? 留三郎」
留三郎の腕に包帯を巻きながら伊作は訊ねる。実習で負傷して帰ってきたようだ。
「その歌、何とかならないか?」
「歌?」
「あれだ。包帯を巻く時に歌っている」
「ああ。これを歌った方が巻きやすくて。……ほーたいは~、しっかーり巻ーいてもきーつすぎず~、すーばやくきーれいに、ゆるまぬよーうにー……はい。できたよ」
留三郎の腕には綺麗に包帯が巻かれていた。
「これはね、僕なりのまじないなんだ。不運に見舞われることなく綺麗に包帯を巻けるように。自己暗示のようなものかな。……でも、それだけじゃない。怪我が早く治るようにという願いも込めている。だから歌っているんだ」
「……そうか」
傷に響くから歌うのを辞めろ、と留三郎は言えなかった。
「ありがとう、伊作」
「気にするな。同室だろう?」
「お前がそれを言うのかよ……」
苦笑する留三郎とは対照的に伊作は嬉しそうに笑っていた。
別の日、六年生全員で実習中に敵方の忍びに見つかり、交戦中に留三郎が伊作を庇って傷を負った。
「……仙蔵。敵はもう追って来ていないかな?」
「ああ。ここまで来れば大丈夫だろう。もし追いつかれても私と文次郎で何とかする。小平太や長次もいる。だからお前は留三郎の手当をしてやれ」
「ありがとう。……留三郎。ここ座って」
木の幹を背に伊作は留三郎を座らせた。
「忍術学園に戻ったらすぐ医務室に連れて行くから。応急手当だけするね」
「……頼む」
苦無で留三郎の制服を割いてから胸元にできた刺し傷を水筒の水で伊作は洗う。
「急所は外れているから大丈夫。すぐ手当するから」
包帯を傷口に当てて伊作は慎重に巻いていく。じわりと血が滲む。
「ん……?」
歌が聞こえる。
「留三郎?」
「……包帯は、しっかり、巻いても……きつすぎず……」
小声で聞き取りづらいが留三郎の口から聞こえたのは聞き覚えのある歌だった。驚いたように伊作は目を丸くする。
「留三郎。お前も歌えたんだね」
「……毎日のように、聴いてたから……嫌でも覚える」
伏せていた顔を留三郎は上げた。笑みが浮かんでいる。
「……すーばやくきーれいに……ゆるまぬよーうに……」
二人は一緒に続きを歌う。
「……ほーたいは~、しっかーり巻ーいてもき~つすぎず……。すーばやーくきーれいにーゆるまぬよーうにー……」
「……終わったか?」
「終わったよ。帰ろう、留三郎。……すまない。僕のせいでお前が傷ついてしまって」
留三郎に肩を貸しながら伊作は歩く。
「……気にするな。お前の不運に巻き込まれるのは慣れている。それに何より、俺たちは同室だろう?」
「留三郎……ありがとう!」
伊作は勢いよく留三郎を抱き寄せた。
「痛い痛い伊作! まだ傷塞がってねえのに!」
「す、すまない留三郎!!」
他の六年生に囲まれるようにして同室の二人は帰り道を歩いた。