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    hanpa114

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    hanpa114

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    8月に入る前に書き始めたのに放置したら書けなくなったもの。
    ただただ十四松くんを甘やかす一松兄さん(と、それを分かった上でひたすら甘える十四松くん)の話、にするつもりだった

    #一十四
    oneFourteen

    やっと長い梅雨が明けたのに、今度は暑すぎるからって理由で当面の野球禁止令を出された十四松は、ここ数日ずっと不機嫌そうにしている。
    それでも律儀に言うことを聞く裏には、禁止を言い渡される数日前に増水した川で危うく流され掛けたからだ。
    だけどその我慢もそろそろ限界だろう。
    日がな一日バランスボールと戯れ、時々おれの元へとやってくる猫たちに構われて、たまにトド松と野球盤や将棋(と言って良いのか怪しいが)をするのが関の山の十四松は、このところやたらと甘えたで我儘になった。
    「にーさん、お腹減った」
    「へーへー」
    十四松に言われなくとも、おれ自身空腹を覚え始めていた矢先だ。投げやりに返事をしつつ、緩慢に席を立った。
    「…素麺?うどん?」
    「冷やしちゅーか!」
    提案をあっさり却下されてムッとする。ムッとはするものの、敢えて口にして言い返すほどではないから、代わりに嘆息を漏らした。そうしてまた億劫に「へーへー」と繰り返し呟いて台所へ向かう。
    あり合わせのもので手早くご所望のそれっぽいものを二人分作り(パチ帰りのクソ長男に鉢合わせて「俺の分は?!」ってブーブー言われたけどムシだ)、ものの十数分で居間へと取って返した。
    すると居間には、いつの間にかコンビニで昼飯を調達してきたトド松が、食後用であろうプリンを十四松に与えている。
    おれはそれを見て、足で襖を閉めながら「おい」と咎めた。
    「だってお腹減った!」
    少しも悪びれることなく、口周りをカラメルで彩った十四松はおれに向けて手を差し伸べてくる。本気で咎めたつもりもないおれもまた短く息を吐き、その手に皿を渡した。
    隣へと移動する間にも早く早くと視線で急かされて、慌ただしく手を合わせる。
    箸を取るや否や忽ちズズズっ、と横合いから勢いよく麺が啜られて、その余りの勢いに汁がこちらにまで飛んできた。
    「んまー!んまいよ、一松にーさん!」
    「…あ、そ。そりゃ、よかった」
    横顔に降り掛かるタレの雨霰をティッシュで拭いつつ、十四松の頬についた薄焼き卵の切れ端やツナ、トマトの汁なんかも指で摘み拭う。合間合間で社交辞令みたいな賛辞を受け、おれは複雑に眉と口端を微かに歪めた。世辞だと分かっていても、褒められれば誰だって悪い気はしないはずだ。
    一度箸をつけたら止まらない十四松に倣い、胸奥に生まれたむず痒さを誤魔化すようにおれもどんどんと食べ進めた。
    「ホント、よくやるよね〜」
    食べ終えた皿を重ね持つと、それまで黙ってテレビを見ていたトド松がポツリと漏らす。
    おれはチラリと末っ子を見たが、自分自身でもそう思うし、だからって敢えて口に出して是正することでもないなと、やはり口を噤んだまま居間を出た。

    昼を食って二時間くらい経った頃、バランスボール上でうたた寝(器用なやつ)していた十四松が不意に声を上げた。
    「のどかわいた…」
    寝起きの低く掠れた声に、反射で腰が持ち上がる。黙って居間を出て、まっすぐ冷蔵庫に向かった。
    昼に確認した時のまま、冷蔵室には700mlのコーラ(ラベルにデカデカとgreatカラ松とか書かれていた気がするが、見間違いだろう)がある。おれは少し思案してからそれを手に取った。躊躇いなく栓を開け、やや背の高いグラスの七分目まで注ぎ入れる。次に冷凍室を開け、トド松と名前が書かれた小さく小綺麗なアイスを退けて、底から業務用のバニラアイスを取り出した。半分ほど中身が減ったそれにディッシャーを突っ込み、大盛りにくり抜いてコーラの上に載せる。
    「十四松」
    コーラフロートを両手に居間へ戻ると、いまだ寝ぼけ眼だった十四松が忽ちパッチリと覚醒した。
    夏のギラギラ眩い陽光に負けない輝きを瞳に灯して、十四松がその場に飛び上がる。一瞬にしておれを焼き尽くしてしまいそうな瞳をひたりと差し向けられて、ドキリと心臓が跳ね上がった。それなのに、動揺を抑える暇もなく正面から抱きつかれて呼吸が止まる。
    「コーラフロートだ!スッゲー!一松にーさん、さすがやでぇ〜!天才!優しい!大好き!」
    しかも、モチモチしっとりな頬までぐいぐい擦り付けられて、おれは歓喜と興奮に軽く意識が飛びかけた。(若干、調子のいいクソ長男じみたテンションは気にかかるけど、可愛いから良しとしよう)
    危うく昇天しかけた精神を部屋のあちこちから飛ばされる白けた視線でどうにか鎮めて、おれは口先だけは迷惑そうに言った。
    「十四松、こぼれる」
    とは言え、顔は取り繕いようなく完全に脂下がっていたようだ。ずっと我関せずを貫いて求人誌を読んでいた三男が、とうとう汚物を見る目でおれを見た。
    それを確認するや、思わずフヒって笑い声が漏れてしまう。ますます眉間に皺を寄せた三男が鋭く舌を打った。
    その脇を、飽きることなく手鏡を覗いていたはずのクソが慌ただしく通り過ぎてゆく。
    程なくして、台所から「オレのコーラが!」って叫び声が聞こえてきたけど、大したことではないのでスルーすることにした。

    夜になって、みんなでテレビを肴に酒を煽って騒ぐ。
    こう言う時だけは甘えたと我儘は鳴りを潜めて、いつも通りの頭を外し、目玉を飛ばし、手足を軟体動物さながらにした巫山戯た十四松が顔を覗かせて、おれたちは大いに盛り上がった。
    夜半、半分が酒に潰れてそこここでイビキが立っている。
    おれもそのうちの一人だったのだけど、眠りが浅かったのだろう。クソ長男と末っ子のバカデカイ引き笑いで目が覚めた。
    ちゃぶ台に突っ伏していた身体を起こそうとするが、なんだか動き辛い。と言うか、足が重い。おれは覚醒し切らない頭を緩慢に巡らせて、ハッとした。
    足が重いはずだ。おれの膝を枕に豪快なイビキをかいた十四松が寝そべっている。その寝顔を確認するや、意識せず口元が緩み、ヨダレに塗れた頬をなんの衒いもなく手のひらで拭ってやる。
    すると、ちょっとだけ身じろいだ十四松が身体をくの字に曲げ、眉を寄せた。
    あれ、と首を傾げる間にそうするだけの原因に思い至っておれも眉を顰める。
    ガンガンに空調を効かせるクーラーを忌々しく見上げ、暫し悩んだ。
    数秒後、おれは思い切って膝上から十四松の頭を持ち上げる。
    慎重に起こさないようそぅっと頭をおれの膝上から畳の上に下ろした。
    起きることのない様子にホッと胸を撫で下ろすのと前後して、十四松の手が何かを探して彷徨った。その動きをぼんやり眺め、それが意味するところに唐突に思い至って動揺する、
    もしかしなくても、おれ(熱源)を探してる?
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