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    supi77

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    supi77

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    TL眺めてたらできたもの。
    魚も食べないタイプだったらマメマメの実の全身大豆人間の可能性、ある……⁉︎

    大豆男「それは?」
     ドレークは目の前の光景を暫く黙って見ていたのだが、堪えられなくなって、出し抜けに口を開いた。問い掛けられたホーキンスはと言えば、相変わらずもぐもぐと口を忙しく動かしながらドレークを見、そのままもぐもぐと口を動かし続けている。
     口の中がいっぱいで喋ることが出来ないのだ。大した時間ではなかったものの、もどかしさを感じながら答えを待っていると、ごくりとホーキンスの喉仏が動いた。
     ドレークは好奇心に動かされて、思わず前のめりになる。
     果たして、
    「見れば分かるだろう、豆腐料理だ」
    と、返ってきたのは見たままのもので、ドレークはそのまま前に転げる所であった。
    「そうじゃない、何だこの……あ、答えてから食え!」
     ホーキンスがまたも大振りのスプーンを口に突っ込んだのを、ドレークは静止しきれなかった。先程から──少なくともドレークが帰宅してからずっと──ホーキンスは豆腐を食い続けている。
     ダイニングテーブルに所狭しと並べられた皿の上に乗せられた、豆腐、豆腐、豆腐。とてもインテリアデザイナーを生業にしているとは思えないことに、白っぽいな豆腐が真っ白い皿に乗せられているものだから、ナチュラルな木目のテーブルが斑らになっているようにも見えてきて、異様としか言い難い眺めである。醤油の掛かったのや、豆腐の味噌汁なんかも混じっているので、余計に斑らっぽく見える。
     ドレークはホーキンスの口の中が空になるのを待つ間に、テーブルをちらりと見遣った。見ているだけで何となく腹の辺りが気持ち悪くなってくるので、すぐに視線を逸らしてしまったのだが、それでもその豆腐らが、まったく同じでないことくらいには気が付いた。
     先に言った冷奴や味噌汁は分かりやすい。その他、絹に混じって木綿らしいものがある。それから妙に艶があるもの、薄く衣の付いたもの、白湯に浸っているもの、白米の混じった()もの、丸いもの、一瞥しただけで判別出来たのはそのくらいだったが、もしかすると一品一品微妙に異なった料理──料理と言っていいのかドレークは判断に迷った──なのかもしれなかった。
    「別に豆腐好きでもないだろう。どうしてこんなに──」
     答えが返ってこないのは承知の上で、ドレークは再び口を開いた。フードファイターの如く豆腐を口に運んでは咀嚼し飲み込む、その一連の動作を繰り返しているのを見るうちに、なんだか声を挟まねばと言う気持ちになってくるのだ。
     あまりに機械的(オートマティック)で鬼魅が悪い。
     投げかけた疑問の通り、ホーキンスは別に豆腐が殊更好物という訳ではない、はずである。直近で極端に味覚が変わったとか、衝撃的な程に美味い豆腐との出会いがあっただとか、極限定的な出来事があったのでもない限りは。
     ん、とホーキンスの喉から声が発せられる。
    「減ったからだ。貴様がそう言った」
     そうしてまた豆腐を食らっている。
     ドレークは口を半分開けてその様子を見ていたが、ホーキンスの言った言葉が段々と咀嚼されて、やがて一つの解に結び付いた。
     そういえば、言った。
     
     
    「貴様はどう思う」
     ホーキンスが腰にバスタオルだけ巻いて現れた時、ドレークは一瞬、何を問われているのか分からなかった。いや、本当に”それ”について問われているのかどうか、確信が持てなかったのである。
     ただ、真摯に応えるのが筋だと思っているから、
    「イイ」
    と素直に言った。
    「………………」
     返ってきたのは零下の眼差しで、そこで漸くドレークは、己が間違いを犯したことに気が付いたのである。
     違った……。
     そう思ったものの、今度は質問の意図が不明だ。
    「じゃあ、何がだ?」
     そう問い返すと、ホーキンスは腹の周りに手を当てて、「増えた気がする」と言った。ドレークは直感的に、筋肉のことか──と思って、
    「いや、減ってる」
    と断定したのだ。
    「筋肉だろ? 徐々にだが減ってるな。代わりに脂肪が付いて、最近少しぷよぷ」
     よ、までは言えなかった。ずかずかと踏み込んできたホーキンスの拳が肩の辺りに炸裂したからである。大して痛くはなく、精々がたたらを踏むだけだが、ドレークは口を噤んだ。
     黙っていればいいものを、デリカシーがない、と最近各方面から言われたことを瞬時に思い出したのである。勿論その各方面にはホーキンスも含まれている。ドレークにしてみれば、本当のことを言っているのだから何を叱られることがあろうかという話なのだが、本当の事を言われると大抵の人間は傷付く──事もある──ということが、最近漸く呑み込めてきた所だ。
    「だからそう言っている。肉が付いたと言っただろう」
     ホーキンスは痛めた拳を摩りながらドレークを睨み付けた。中身としては同じ事を言っている訳だけれど、否定から入られた上に余計な一言を言われたのがホーキンスを怒らせていた。
    「……あ、ああ、そう言うことか。悪い」
     ホーキンスは贅肉が増えた、と言う意味のことを言っていたのだ。ドレークは自分の取り違えを素直に謝ったが、ホーキンスからの視線は依然厳しい。
    「俺は好きだ。まあ、前の体型も好きだが。気になるなら運動すればいい。あと肉──は食わないな、タンパク質でも摂ればいいだろう」
    「当然、そうする」
     ホーキンスは去り際に特大の舌打ちを残して、寝室へと去って行った。
     
     
    「食事管理の一環、か……?」
     言いながらドレークは、昨日のホーキンスの食事内容を思い出していた。少し変だとは思ったものの、無性に特定のものを食べたくなることはドレークにもあったから、さして気に留めなかったのだ。
     どんぶりいっぱいの納豆。思い出すだにあの独特の匂いが鼻先に漂ってくるような気がする。蓋付きの生ゴミ用ゴミ箱に詰め込まれた大量の藁にも臭いが付いていて、ドレークは暫く幻臭に悩まされる事になったのだが、それはまた別の話だ。
    「あれもタンパク質か……いや、分かった。食事の邪魔して悪かったな」
     他に言いたいことがないではないものの、ドレークは言葉を呑んで切り上げた。ホーキンスは口を動かしながらも軽く頷いてそれに応える。
     ホーキンスの目の前にはまだあと半分ほど豆腐料理が残っていて、ドレークはなるべく目を遣らないようにしながら、そさくさと自室に引っ込んだ。
    (了)
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