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    supi77

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    supi77

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    太郎が好きなのでハムが好きです。
    ハムのホも好きです。
    齧歯類との親和性が高いと勝手に思っています。
    ヒマラヤマーモットにも似てる気がしてきたので書きました。

    #ドレホ
    dreho

    じっと見つめる横顔の「暇なら動物園に行かないか」
    「動物園? 珍しいな」
     ドレークはグミを三粒、まとめて口に放り込みながら聞き返した。あまり甘味は食べないのだが、ホーキンスに押し付けられたので昨日から渋々と消費している所である。
     ホーキンスは既に薄手のコートを羽織っていて、出掛ける準備は整っているらしい。マスクを付けているのは、恐らく臭い対策の為であろう。
    「今日は動物と触れ合うといい日だ」
     動物園は──当然のことながら──獣臭くて、それがホーキンスはあまり好きではないのだが、占いの結果如何では自身の好悪などは些細な事である。
    「どこの?」
     ホーキンスは自宅から最も近い園の名を上げた。時刻は十時を回っているが、今からでも昼前には着く距離である。
     ドレークは一も二もなく「行く」と答えた。その園にはそれなりに大きな爬虫類館があるのだ。
    「玄関で待っている」
     ドレークは早足で自室から財布と腕時計だけ取ってきて、玄関へと急いだ。外は秋めいてきているが、ドレークにとってまだまだ防寒着は不要である。
    「行こう」
     ホーキンスはそう言って玄関のドアを開け、ドレークの手を引いた。行き先の好みが合致しないことが多い分、今日は自分もドレークも納得する場所に行けるとあって、ホーキンスもホーキンスなりに喜んでいたのである。
     ホーキンスの機嫌は、ドレークの腕に腕を絡める程には──勿論ドレークそのものをカイロ代わりにしているというのもある──良かった。
     ドレークも、ホーキンスと腕を組んで歩けるのが嬉しかったし、これまたお互いの意見が合ったことに喜んでいた。
     だから、珍しく二人揃って、これは楽しいデートになる、とそう思っていた……のだが。
     
     
    「誰が何に似てるだと?」
     雰囲気は最悪と言ってよかった。場所は丁度園を半周したかどうかという辺りである。ついさっきまでは仲睦まじく、動物たちに対する感想を述べたり、知識を披露し合ったり、売店のポテトをシェアして食べたりと、お互い恋人らしい振る舞いに熱心だったはずが、今のホーキンスは一触即発の爆弾のようである。
     また余計な事を言った……らしい、と気が付いたドレークは、いや、ととりあえず場を繋いだ。しかしその間にもホーキンスの顔はどんどんと怒りに歪んでいく。
     まるで悪鬼羅刹のようである。
     ドレークはその眼差しを避けるようにして目の前の柵の向こうを覗き込んだ。赤子くらいの大きさの齧歯類が、岩にもたれて芝生の上に座り込んでいる。
    「その……あれは何と言うんだ? ……マーモットか。マーモットに似ていると……」
    「その前に貴様が何と言ったか、言ってみろ」
     ホーキンスは被せるように言った。
    「前? ええと……『あれは喧嘩か? 戯れてるのか? 顔付きが太々しいし、動きが鈍臭いが、まあ可愛いな』と………………」
     思い出す間に何がホーキンスの逆鱗に触れたのかおおよその検討はついたものの、ドレークは、
    「可愛いと言っただろ」
    とちょっと口を曲げた。太々しいのも鈍臭いのも引っくるめて、ホーキンスを受け入れているからそう思うのだという、自負のようなものがあったからかもしれない。
     が、その考え自体がずれていることに、ドレークは気が付いていない。太々しい、鈍臭いと遠回しに評された事自体にホーキンスは怒っているのである。
     そのホーキンスは益々声を低めて、
    「太々しい、鈍臭い、そんな生き物におれが似ていると」
    と鋭い視線でドレークを詰った。
    「だから、可愛いと言ってる」
     毛むくじゃらの生き物が二匹、立ち上がって顔を逸らしながらばたばたと手を蠢かしているのを見て、ドレークが感じたのは微笑ましさと愛おしさであった。見れば見るほど似ているような気がしてくる。
     しかし──。
    「そう言えばおれの機嫌が良くなるとでも?」
     宥める為に言っている訳ではなく、ドレークにして見れば本心に違いないのだけれど、ホーキンスは余計に馬鹿にされていると思ったらしく、完璧に臍を曲げていた。
     ふん、と鼻を鳴らして腕から離れていく。
     惜しいことをした……。
     ドレークは少しばかり落ち込んだ。手を繋ぐ事はままあるが、ホーキンスが腕を絡めてくるというのは中々ない事である。あわよくばポケットの中に手を招いて、とそんな計算をしていただけに、今更のように自分の失言を悔いた。
     その時、ぴゅっ、と高い音が鳴った。ドレークが音の方向に視線をやると、さっき喧嘩していたのとは別の個体が鳴いている。ぴゅっ、ぴゅーと聞こえてくる口笛のような音は、マーモットの鳴き声のようだ。
     でんと、ドレークの見ている前でその個体が尻餅を付いた。脚を投げ出して座り込んでいる。その態度のでかいことと言ったら、正に……とドレークが口元の緩みそうになるのを我慢していると、その個体はそのまま、どっちりと後ろに倒れて、四肢を投げ出したまま寝付いてしまった。
    「くっ……えへん! へん!」
     思わず噴き出したのを誤魔化すように空咳を繰り返す。マーモットの様子も、ドレークの様子もばっちり目撃していたホーキンスは、
    「……帰る」
    と言って踵を返そうとした。
    「ま、待て。待ってくれ。今は何も言ってないだろ」
    「今”は”か。さっきのはやはり自覚があるようだな」
    「誤解だ、誤解」
    「誤解もクソもあるか。ふざけるな」
    「しかし……今の見たか? 今朝のお前そっくりの寝姿……痛っ」
     ドレークは思わず片足を抱えて飛び跳ねた。ホーキンスが脛に蹴りを──しかもブーツで──入れてきたのだ。周囲の人々が何事かと言うようにドレークを見、長躯の二人組(どちらも人相が悪い)を確認してさり気なく視線を逸らしている。
     何でだ、とドレークはむすりとして口を閉じた。言う事言う事裏目に出るようだ。本当に今朝の寝姿はあのマーモットそのもので、四肢を奔放に投げ出したホーキンスの隣でドレークはベッドの端に追いやられ、あと数時間も寝ていたら落ちていたかもしれない程だったのだが。
     仰臥している個体に近付いてきた別のマーモットが、その周りを回っている。鼻を近付け臭いを嗅いだと思えば、またとことこと離れていき、暫く鼻を蠢かしている。何となくその個体を観察していると、またとことこ少し歩いて行って、突然突っ伏した。そのまま動かなくなるが、背中の辺りがゆっくりと上下しているので、どうも寝始めたらしい。
     その気儘さがやはり似ている、そう思ってちらりと隣を見ると、ホーキンスはじっとドレークを睨み続けていた。びくりとして顔で問い掛ければ、ホーキンスは「チッ」と何ともキレのいい舌打ちをした。
    「訂正する。こいつらの方がまだ可愛げがあるぞ」
     ついやり返せば、ホーキンスは「そうかそれは良かったな」と今度こそ踵を返して先の方へと歩いて行ってしまった。
    「なんだ、あの態度は……」
     独りごちて、ドレークは柵の方へと向き直った。どうせ帰る場所は同じなのだから、後はお互い好きに過ごせば良いと思ったのである。行った先で別行動を取るのはままある事であったし、食の好みも違うので行きと帰りだけ一緒という事もある。
     ただ、やはりついさっきまでは楽しいデートであっただけに、物寂しい気持ちが残る。
     どうも、思ったことをそのまま口に出すのはやめた方がいいらしいな……。
     ドレークはそんな事を考えながら、腕を組んでぼんやりと毛玉たちの生活を眺めた。
     ホーキンスなら汲んでくれるだろうという甘えがあるのかもしれない。伝わるだろうという態度でいれば喧嘩が増えるばかりだ。何か言う前に、自分の言葉をホーキンスがどう受け取るか、考えを巡らせた方がいいのかもな──。
     いや。
     しかしそれを言うならホーキンスも些か気儘過ぎる点がある。昨日も不味かったと言いながら菓子を寄越すし、ベッドは占領するし、最近は怒るとすぐに手や足を出すようになってきた。
     でちでちとマーモットが目の前を横断していく。ドレークは首を左から右にゆるりと動かして動向を追った。
     ……まあ、それは別に、悪いことではない、か…………。
     ドレークはそういう態度のホーキンスに文句を言いはすれど、その実その態度を疎ましいとは思っていない。むしろ喜びを感じる程だ。被虐趣味があるという訳ではなく、心を許してくれている、相手が安心しきっているということが嬉しいのである。
    「ぴゅー、ぴゅーーっ」
     芝生が薄くなって殆ど剥き出しになっている地面に尻をつけて、その個体は暫く鳴いていた。今日はよく鳴くね、と常連らしい親子が言い合っている。
     鳴き声を披露していたマーモットは、やがて静かになった。向こうを向いているので何をしているのかは分からないが、齧歯類にしては広々と逞しい背中は中々に存在感がある。
     あれでカードなんかいじっていたら、そっくりだ。
     ドレークはくすりと笑って、またホーキンスの事を考え始めた。
     そういえば、ホーキンスは、俺が言って欲しくない事はあまり言わない。元が無口だと言うのもあるけれど、それはホーキンスの熟慮の結果なのかもしれない……。
     つらつらと考えていると、どうにも空っ風が吹いたような、うら寂しい気持ちが込み上げてくる。それを逃すように溜息を吐いて、ふと下を見ると、足元にマーモットが座り込んでいた。いつの間に近付いてきていたのか、鼻を高く掲げながらこちらを見上げている。人間に対する警戒心がないのか、それとも元から大胆な性格なのか、目が合っても逃げる気配もない。
     ドレークは屈んで、ズボンのポケットからスマホを取り出した。マーモットは興味深そうにそれを眺めていて、シャッター音にも耳をぴくつかせただけで堂々としている。今度は動画を、と撮影を始めると、その個体は前脚で腹の辺りを掻き始めた。思わず声が出て、ドレークは自分の手で口を抑えた。それでもくつくつと喉奥から笑い声が漏れる。
     風呂上がりに腹を掻いているホーキンスそっくりである。そう思えば思うほどホーキンスの姿が重なって、ドレークは暫くの間カメラを回し続けた。マーモットはあまり動かなかったものの、ドレークは満足だった。
     立ち上がると、マーモットはもう行くのかとでも言いたげに鼻先を上げた。つい「またな」と声を掛けて、ドレークは聞かれやしなかったかと辺りを見回したが、周囲の客は近くの檻で餌遣りが始まったらしく、そちらに詰め掛けている。
     その中にホーキンスの姿を見つけて、ドレークは驚いた。
     疾うに先へ行ってしまったと思っていたのに、何故まだこんな所に──それとも餌遣りが見たかったのか。
     近付いて行くと、ホーキンスが気が付いて、輪の中から抜け出してきた。
    「餌遣り、見なくていいのか?」
    「別に興味はない。暇を潰していただけだ」
    「はあ」
    「貴様こそ、もういいのか」
    「何が?」
     ホーキンスはドレークの後ろを顎でしゃくった。マーモットの事を言っているのだろう。
    「あ、ああ。充分見た」
    「だろうな」
     まるで見ていたように言うので、ドレークは首を傾げた。ホーキンスは呆れたように続ける。
    「飽きもせず、爬虫類でもないのに……一日動かない気かと思った」
    「……見てたのか?」
     ホーキンスは頷いた。
    「とっくに先に行ったのかと……」
    「行っても良かったんだがな」
     ドレークは慌てて、
    「いや、戻ってきてくれて嬉しい」
    と言った。
     ホーキンスは暫くじっとドレークの顔を検分するように見ていたが、やがて再び腕を絡めた。
    「!」
     ドレークは驚いて身体を強張らせたが、すぐに力を抜いた。ホーキンスがどうして機嫌を治したのか──治っていなければこんな真似はしないだろう──まったく心当たりがない。それともホーキンスも自分と同じように、寂しくなったのだろうか──と。
    「貴様と一緒にするな」
     ホーキンスが見透かすように言ったので、ドレークは開きかけていた口をぎゅっと閉じた。
     まあ、何はともあれ、結果が良ければそれでいい。
    「……貴様は黙っていても分かりやすいから、あまり喋らなくていい」
     出し抜けに、ホーキンスが言った。言外に「喋るな」と言われているのだろう。
     ドレークは自省していたのもあって、「そうだな」と肯定はしたものの、ついぞホーキンスの真意には気が付かなかった。
    (了)
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