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    supi77

    @supi77

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    supi77

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    3年前(さ、3年前⁉︎)とかに書きかけのまま終わっており、でも日の目を見ないのは惜しいと思ったので上げる。草案の草案のようなもの。wipというやつ。
    人魚のホと人間のド。ドが所帯を持ちます。

    愛を知ってしまった男、愛を手に入れる術を持たなかった男。
    愛を知っている男、勝手に愛を手に入れた身勝手な男。

    泡沫の夢/永遠の歓 海の波間から覗く影は、洋くどこまでも続く水の塊の只中に、木の葉が落ちたように揺蕩っていた。
     人間の姿が見える。船と呼ばれる木の建造物の上で、細々と働く様は滑稽だった。
     目を引く人間が居た。夕暮れの太陽と同じ色をした髪が、曇り空に映えていたのだろう。周りの人間から頭一つ飛び出ていたというのもあったかもしれない。
     ふと、目が合った──と思った瞬間、男が木の枠組みを超えて、海に飛び込んできた。鰭もないだろうに、存外速いスピードで、腕で波をかいてどんどんこちらに近付いてくる。
     大方、人間が溺れているとでも思ったのだろう。 船上では何人もの人間が慌てた様子でこちらを伺っている。小舟を下ろしているのが見え、面倒になる前に、とおれは波間に頭を沈めた。海の中で、ぐんと男から距離を取る。
     振り返ると、男は驚きの表情で泳ぐのをやめ、海の上に顔を出していた。暫く眺めていると、やがて船に向かって泳ぎ始める。


     波が騒がしく、嵐が来たと分かっておれは海面へ向かった。こんな時に船を出す馬鹿な人間はいない。存分に海の上を──空を、雲に覆われていたとしても──眺められると思ったのだ。
     しかし、人間というのは救いようのないほどの馬鹿も多いらしかった。
     大きな船が、荒れ狂う波に翻弄されていた。どれだけ木々を組もうとて、この洋い海からしてみれば波に揺れる木の葉のようなものだ。
     おれは束の間の娯楽にはなるかと思い、馬鹿どもの様子を少し眺めてみることに決めた。運が良ければ人間の使う道具が流されてきたりするかもしれない。人間の生み出す道具は稚気に富んで愉快な代物が多々ある。何に使うか分からないものも様々で、こっそり持ち帰っては飾って眺めるのはそれなりに愉しい。
     人間どもは右往左往しているように見えた。やがて船を諦めたのか、小舟を下ろし始める。その頃にはおれにも船に水が流れ込んでいるのだ、と気が付いていた。
     と、瞬間、大きな破裂音が響いて、おれは驚いて海に潜った。聞き慣れない音だ。下から伺うと、船が燃えていた。先の音は何かが火を起こした音らしい。
     大きな炎はあっという間に船のあちこちに手を伸ばし、夜だと言うのに船の様子がよく見えた。人間共は先程よりも忙しく船を下ろし、そこに乗り込んでいる。
     船の上に人影が立ち、おれはそちらに目を遣る。逃げ遅れがいたのか。助かるかは五分と言ったところだろう。
     燃える夕陽の髪をした、あの男だった。男は脚の悪い人間を連れていた。それを先に船へと下ろしている。自分も助かりたいだろうに、つくづく馬鹿な人間だ。
     殊更大きな音がして、船の上で炎が爆ぜた。眩しさに目が眩む。翳した手を透かして状況を確認した時には、既に船の上に男はおらず、何やら小舟の上の人間共が辺りの海を探しているらしかった。
     海に落ちたのだ。
     おれは咄嗟に海へと潜った。海中から船に近付けば、巨大な船が波を引き込んで、海底へと誘う大きな力が働いている。その腕に掴まれ、男は力無く下へと引き摺り込まれていた。
     おれは男に近付いて、その腕を肩に回した。近付いてみればおれよりも一回り大きな体躯をしている。泳ぎにくい事この上ないが、不可能ではない。下へと誘う腕を逃れ、海面へ。空へ向かって、泳ぐ。

    空の色と同じ色をした眼。
    これが欲しい。
    海の中では流されてしまう。
    陸だ。
    陸で抉り出さなければ。

     海と陸の間に男を押しやって確かめてみると、男は呼吸をしていなかった。口を付けて、息送るとごぽりと音がして男は激しく咳き込んだ。ひゅうという風の通る音が鳴ったので、多分大丈夫なのだろう。陸では、生き物は風を吸って呼吸をするらしい。

    (中略)

     海辺を歩いている男が見えた。男はこちらに気が付いた様子で、走って海と陸の境目までやって来た。
    「お前の輝く髪が見えた。俺は目が良いんだ」
     今日の運勢は良い。貝殻を使った占いでは、自身に危険が迫る可能性は限りなく低かった。そういう訳で、幾分大らかな気持ちで近付いていくと、男は真面目そうな顔つきで続けた。
    「礼がしたい。人魚は何を欲しがるんだ」
     貴様の目の球を。そう言うと男は少し考え、
    「二つ共か」
    と言った。
    「ああ、二つ共」
    「それは……少し困る。お前を見れなくなるのは惜しい」
    「なら、一つでもいい。その代わりに貴様の魂も貰おう」
    「代償が大き過ぎやしないか」
    「俺に助けられた命だろう」
    「それもそうだったな」
     おれは男に覆い被さり、左眼を抉り取った。力任せに突っ込んだ指は瞳を赤く染め、引き摺り出したそれは赤黒く、空の色の欠片もなかった。
     男は歯を食いしばって耐えていたが、唸り声を漏らして地面を掻いている。
     身体を退けると男は上体を起こし眼窩を押さえた。一つきりになった瞳から水が滴り、乾いた砂を濡らしていた。
     自分の手のひらの中を見ると、くすんだ眼球がひとつ、転がっている。
     ──おれは、少しだけ、惜しい事をしたと思った。


     次に会った時、男は目の部分を切り抜いた眼帯を付けていた。布の影になって見えにくいが、眼窩に煌めく物がある。尋ねると男は眼帯を外してよく見えるようにした。
    「義眼と言うものだ。ガラス玉のような物だ。ないよりマシかと思ってな」


     暫く尋ねない内に、男はどんどん老いていくようだった。
    「貴様の魂を受け取る日も近そうだ」
    「……ああ、そうだな」
     男は深く刻まれた皺を益々深くして、笑った。

    (中略)

     空の色の瞳をした青年が、波打ち際を歩いていた。
     その姿形を見た瞬間、おれはすべてを悟った。
    「……裏切り者が」
     おれに魂を渡す気などなかったのだ。もっと大事な者へ、その魂を与えたに違いなかった。
     人間風情がおれを裏切るとは
     ならば見ていろ。貴様の大切な者をおれは、代わりに得るだけのこと。
     その人間を引き摺り込もうとして陸へ身を上げたおれの腕を止めたのは、あの男と全く同じ、空の色をした眼だった。
     驚いたようにこちらを見た人間は、恐れ知らずなのか、向こうから近付いてくる。
    「父を助けてくれた人魚ですね」
    「父はよくあなたの話を聞かせてくれました」
    「父を助けて下さって、本当にありがとうございました」
    「これを貴方に渡すようにと」
     人間は手を差し出した。あの男が残したものを確かめてやろうと手を伸ばす。
     手のひらに転がったのは、あの男が眼窩に嵌めていたガラス玉だった。
     ──こんなもの。
     握りしめれば冷ややかな感触が伝わってくる。
     人間の姿がすっかり見えなくなって、おれは手近な岸壁にそれを叩き付けた。破片を抱えて心臓に突き立てると、生命がだくだくと外に流れていった。
    手のひらが裂けていくのも気にならなかった。痛みは遥か遠く、構わずに人魚の命が確かに絶てるだけ、深く深く突き立てる。
     身を翻して海に入ると、荒波は容赦なく生命を搾り取っていった。
     深い海の底に辿り着く頃には、身体はすっかり海と同じ温度になっていて、辺りの昏さが気にならないほど眼は見えなくなっていた。
     空の色も、夕陽の色も知らぬ昏い海の底で、おれは一人、目を閉じた。二度と明るさを知らぬように、二度と光が目に入らぬように。


    そうして人魚は泡となって、消えてしまったのでした。
    (了)

    ーーーーーーーーーー

     窓辺から海を見ると、星をその身に捉えた海は、まるで空の生き写しのように、きらきらと輝いていた。寄せては返す波が、星をかき混ぜ、生命のスープを作っているようにも見える。
     その情景を眺めていると、心が踊った。俺が命を失いかけた夜。俺があいつに救われた夜。暗い帳を捲ってあいつは現れて、星を降らせていた。
     俺を救った異形は──酷く美しい生き物だった。
     ふ、と笑みが溢れる。
     滋養のある温かいスープにありつけた時のように、心地の良い温もりが全身を、それから魂の形いっぱいに広がっているのを感じる。
     詩人なら詩を、歌を歌う者なら歌を、こころの導くままに表す術を持っているのかもしれないが、生憎と、そんな術は持っていなかった。
     何を喜ぶだろう。何に幸福を感じるのだろう。
     頭の中で金色が輝くたび、思うのはそんな事ばかりだ。
     子も妻も大切だし、間違いなく愛している。しかし星を抱く海で、あの生き物に出会えた歓びは、きっと生涯忘れはしない。海の飛沫だったのか、それとももしかすると本当に星を髪に飾っていたものか、光り輝く情景は年月を経ても褪せることなく瞼に焼き付いている。
     片目を抉り出されてもはっきりと見える。いや、むしろ片目を失ってこそ、益々鮮やかに見えるような気さえする。分け与えた分だけ、返ってくるような気がする。
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