猫耳の話(髭さに)「これ」と渡された獣の耳を認める前に主はそれを髭切の頭に装着した。
かすかな圧迫感と重みが頭にかかり、しかし挿した張本人である主は満足したのか髭切のちょうど真上を見ながらしきりにうなずいている。
仕事中の乱心なら部下として注進も否めないがいまは彼女の私室でくつろいでいるときだった。
これは恋人同士のやり取りとして素直に受け入れたほうがいいのだろう。
「猫の耳かい?」
「うん。万屋で売ってた」
額の横に指を持っていき逆さにして三角を作っている。どうやらそれで猫の耳を模しているつもりらしい。
「本当はね刀猫男士のアクスタも売っていてね。でも何体買えばいいのか分からなくなっちゃって」
妥協して猫の耳を買って来たと話は続いた。
熱心にこちらを見上げる瞳には件の刀猫男士が映っているのかもしれない。
うわごとのように「本物にならんかな」とつぶやいている。
「主はその、……刀猫男士が好きなの?」
「好き。大好き」
間髪を入れずに即答された。あざやかな回答だった。
それはこいびとである僕よりも?
思わず飛び出したかけた言葉は彼女の次の行動によって押し込められた。
それまで空中を見上げていた視線がふと髭切の目を覗くように動いた。
そして、
「髭切のことはもっと好き」
あっけにとられている間に指先が髭切の前髪に触れた。撫でるように上下する。
刀の意識が働くのか主から寵愛されることは悪くない。
いつしか熱に浮かされてうるんだ瞳が髭切を見つめては「可愛い」「好き」とつぶやくのにはぐっとくるものがある。
だが、人の身体を得たのだ。
可愛がられるだけではなく誰かを可愛がりたいと思うのもまた真だ。
これはかつての元主たちが抱えていた思いなのだろうか。それとも髭切(ぼく)個人の意識なのだろうか。
髭切は上下する腕を思わず握っていた。力加減が難しく彼女は少しだけ顔をしかめる。
「僕も、いいよね」
ぽかんという表情を浮かべた彼女の瞳にはどんどん近付いていく自身の姿が――それはそれは上機嫌な様子が映っていた。
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2025/04/16
・猫になると猫っ可愛がり。悪くはないけど攻めるのは僕!