「明日には年が変わってるんだね」
教導官に見つからないよう、灯りを落とした部屋。カーテンの向こうからそっと差し込む外の闇の方が明るい。
私の言葉に、隣の神琳がそっと身じろぎをした。布が擦れる音。動きに合わせてベッドの中に篭った熱が少しだけ外へ出て行った。
「あと、一時間半程度でしょうか」
その声音はどこか億劫そうで、普段彼女の方が就寝時間が早いことを思い出した。私も、二人でくっついている温かさに意識が遠のいていきそう。
「今年は、いろいろなことがあったな……」
「えぇ、わたくしもです」
百合ヶ丘に来て、レギオンを組んで、ギガント級を討ち取った。他にも大小、数えきれないことがあったけれど、そのすべてに神琳がいる。
そしてそのルームメイトと、誰とも進んだことのない関係になるだなんて、去年の私は想像もしていなかった。
「ねぇ、神琳」
「どうしたの、雨嘉さん」
「好きだよ」
特に理由はなかった。言いたかっただけ。普段だったら恥ずかしいと思ってしまうけど、眠気に浸されつつある今は、遮るものはなかった。
神琳から返事がない。眠ってしまっただろうか。顔を覗き込むと、赤と黄色のオッドアイとばっちり視線があった。
暗がりだから余計に、その目が潤んでいるのがよく分かった。涙で輪郭のぼんやりした目は宝石みたいに綺麗。
「わたくし、も、好きです」
密やかな声。白い頬が色づいている。そこに手を添えれば、予想通り熱い。
神琳のこの表情を見たことがあるのは、この世界で私だけなんだ。そんな優越感が私にあったことすら、神琳に出会うまで知らなかった。
ほんのり赤い頬が、私の手にそっと擦り寄せられる。じっと見上げてくるオッドアイは、何かを言いたげに揺れていた。
多分、これ。柔らかな唇に触れれば、満足気に緩やかな弧を描く目尻。この表情も好き。
穏やかに微笑む神琳ももちろん素敵なんだけど、私だけに見せてくれる表情は特別。
そう、特別。私だけに見せてほしい。
名前を呼んだのは私。顔を寄せたのはどちらが先だったか。