バレンタインデー年明けからそれぞれ忙しく、食堂で会っても顔を合わせる程度。食事を本部長室に届けても電話やヌーム対応中のためただ置いていくだけ…特にここ最近は顔も見ていないくらい本当に忙しかった。
そんな彼がやっと今夜から1日オフになる。
今日は私たちが付き合ってから初めてのバレンタインデー。
食堂では甘いトリュフを作り、隊員の皆さんに配ったが…今夜は彼の自宅で、彼の好物のサーモンとじゃがいもたっぷりのホワイトシチューを食べた後、この甘さ控えめのチョコレートタルトを渡すつもり。
あぁ、早く彼がドアから入ってきて欲しい。こんなに待ち焦がれるのは妻のミラさんが帰ってくる日のようだ。
窓に映るクリスマスの日の子供のような顔をしてる自分にビックリした。ここは大人な態度で待たなきゃ。
まだか…
まだなのか…
と時が遅くなったような感覚に襲われながらも待っている。
そわそわしないように椅子に座ったが、まだ落ち着かない。仕方がないので先ほど作ったチョコレートタルトで余った溶かしてないチョコの破片を口に含みながら落ち着くためにスーパーのチラシを見ていた。
ガチャッ
ついに彼が帰ってきた!
玄関に走って向かいたい気持ちを堪え平常心を装い、少し大きいチョコの破片をまた一つ口に咥えた。
廊下を歩く彼の足音が近づくにつれ私の心拍数は上がっていった。
大人の余裕、大人の余裕!と心の中で唱えていたら、肩を叩かれ、反射でそちらの方向を振り向くと…
予想以上に彼の顔が近く、気づいた頃には口に咥えてたチョコを奪われ口が触れ合う軽いキスをした。
「ただいま帰りました。今年のバレンタインデーは随分と積極的ですね」
きっと今の私の顔は鳩が豆鉄砲を食ったような間抜けな顔をしているんだろうし、彼の周りに赤い薔薇が見えてしまうほどパニックになっていた。
(えっ…本部長ってかっこいいって思っていたけど、こんなにカッコよかったっけ??)
「ドラウス…さん?」
動く気配のない私を心配そうに見る彼。
あぁ…かっこいい。
「う、うん!大丈夫!ただちょっと…驚いたというか…そういうつもりじゃなくてびっくりしたっていうか…」
「えっ」
私が鳩なら彼は茹で上がったタコのように顔を赤くして寝室へ隠れてしまった。
ドンドンドンッ!
いくらドアを叩いても、彼の入ってる部屋は静かなままだった。
せっかく温めたシチューも、これから過ごす夜も台無しにしてしまう!そんなのは嫌だ。
「ノース!ごめん!あまりにびっくりしちゃって!」
「…」
「お腹空いてるでしょ?!」
「…」
「今夜はサーモンとじゃがいものシチューだよ!だから出てきて!」
シーンとしばらく経っても物音が聞こえず、せっかくの夜なのに…と小さいため息が出た時、ガチャッ…とゆっくりと開くドアの中から、まだほんの少し顔の赤い彼が目を泳がせながら出てきた。
あぁ…さっきまであんなにカッコよかったのに、今は不貞腐れた子供のように可愛い…
こんな彼を見れるのは世界中で私だけなんだろうな…
この心地の良い優越感…最高だ。
「食べます…」
「そ…っか…そうか!!よかったよ!シチューのあとはお楽しみがもう2個あるんだよ。明日はオフなんだし、ゆっくり今まで会えなかった日の分まで一緒にいよう」
恥ずかしさで力強く握っている拳をそっと優しく包みリビングまで手を繋ぎ歩いた。
そして、シチューとチョコレートタルトも食べ…
2人で明日の予定を決めて…
このあと、まさかお昼過ぎまで起きれなくなるとは想像できなかったくらい熱い夜を過ごしましたとさ。
おまけ
オフ明けにVRCに行く用事ができてしまい、あの憎たらしい顔を見なきゃいけないなんて…せっかくの楽しい気分をもっと味わいたかった。
「おや、『昨日は随分とお楽しみで』ってやつかい?」
「うるさい。さっさと用件を話せ」
「はいはい。準備してるから少し待ってて。
それにしても…去年に「ドラウスさんにチョコをもらいたいけど、勇気がなくて言えない…だから『我が名は吸血鬼チョコレート大好き!我が催眠はこのあとチョコレート食べないと死んでしまうと思い込んでしまう!』みたいなやついないか?」って真顔で相談してきた坊やから随分と成長したね」
「ッ!!わ、忘れろ!!」