ただいま。おかえり。去年の夏は記録的な酷暑で、デカい蚊の活動が鈍く被害は少なかったが、ヤツらは廃墟に住みつきほとんど個体を減らさず越冬するつもりだったらしい。
しかし、最近外国人の解体業者がシンヨコに現れ、他の企業のように下調べをせず新年早々解体をしてしまった結果、デカい蚊の住処を倒壊させてしまい、デカい蚊がこの1月に大量発生しシンヨコを埋め尽くした。
我々吸対とハンターは日中は陽の当たらない暗闇、夜は狙われる市民を守りながら駆除をしていった。
隊員の疲労はもちろん、食堂で働く方々も交代で長時間食堂での食事の提供の他に、隊員やハンター達までものお弁当を作り届けてくれた。寒い日でも常に温かいお弁当が届く…そのおかげで今回の騒動になった廃墟から現れたデカい蚊の駆除に成功した。
現場を常に走ってくれた隊員達を家に帰し、私は1人今回の報告書を制作した。ドラルクも吸血鬼ロナルドの扱いが上達したのか被害届も少なく、日付が変わる前には帰れそうだ。
スマホを手にしようとした瞬間ブルッと震え電話がきたことを知らせてくれた。画面に映る相手のアイコンを見て口元が緩んでしまう。
「もしもし、ドラウスさん」
『あっ!もしもし!忙しかったかな…』
「いいえ、今ちょうど終えて連絡をしようとしたんです。今からですと…日付が変わる前には帰れそうです」
『わかった!寄り道せずまっすぐ帰ってきてね。それと…謝らなきゃいけないことがあってね…』
「どうしたんですか?」
『もう少しで君の誕生日でしょ?最近忙しくて…プレゼント用意できなかったんだ…ごめん』
「お互い忙しかったですし、ドラウスさんや他の方々のおかげで現場に温かいごはんが届き我々の士気は固まりました。本当にありがとうございました。
誕生日プレゼントなら…やってもらいたいことがあって…いいですか?」
『なになに?』
交通安全に気をつけながら自宅のマンションへ急ぐ。エレベーターが来るのが遅く階段で行こうかと迷うほど、普段ならなんとも思わない上昇していく時間ももどかしく…ついに自宅のドアへ着いた。
ネクタイを締め直し、スーツを整えドアノブへ手を伸ばす。
ガチャッ
室内は温かく、暗い外とは違いやさしい灯りに包まれ…
そして最愛のドラウスさんがいつもの割烹着を着て玄関で出迎えてくれた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
これが私がドラウスさんに誕生日プレゼントにやって欲しかったこと。ここ数ヶ月でドラウスさんとの関係が変わり始めての自分の誕生日。両親を失ってからこうして「ただいま」と言えて「おかえり」と返してくれる誕生日が初めてだった。
「ふふっありがとうございます。ドラウスさん」
「なんか…普段も言ってるのにちょっと恥ずかしいね。あ、寒いからほら中に入って!」
「はい。…ん?いい香りが」
「ノース、早く早く」
温かい手に握られ私は足早にリビングにつながるドアを開けるのと同時に壁にかけてるデジタル時計が日付が変わった知らせを鳴らし、玄関に溢れてきたいい香りが部屋に充満し、机にはディナーの準備ができていた。メインには輝く…
「オムライスだ…!」
「お誕生日おめでとうノースディン。さぁ、食べよう♫」
「はいっ!」
薄く焼かれた卵にスプーンを入れ、赤く輝くケチャップライスと玉ねぎの甘い香りやゴロっと入った鶏肉を口いっぱいに頬張り、去年食堂で作ってもらったあのオムライスと同じ感動が疲れた体全身に染み渡る。
「おいひぃ」
「ふふ、本当にノースは美味しそうに食べてくれるから、私も嬉しいよ」
「「ごちそうさまでした」」
あっという間に食べてしまった。
今日までは忙しく大変な日が続いたが、こんな素敵な夜を過ごせるなんて…
「最高の誕生日です」
「本当?!よかった〜。改めて…ここ最近ずっと忙しかったよね。お疲れ様でした。」
「こちらこそ、食事で我々を支えてくれてありがとうございました」
「…もう眠い?」
「いえ…今ごはんをいただいたのでまだ眠くはないですね」
「………」
「どうしました?」
「そ、その…」
「?」
「【プレゼントは私】…なんてどうかな?」
「なっ?!」
「準備はできてる…よ」
「ちょっ、ちょっと待って!」
「ノースが欲しいなら…全部あげる…///」
「まっ、!そ、それはずるいですよ!!」
「どーする…?」
「〜ッ!!…………いただきます///」
「じゃぁ…行こうかっ///」
「…ハイ///」