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    kidd_mmm

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    ノスクラともクラノスともつかないやつ11
    紙袋。

    #吸血鬼すぐ死ぬ
    vampiresDieQuickly.
    #吸死
    Kyuushi
    #クラージィ
    clergy
    #ノースディン
    northDinh

    N-6N-6

     ギルドを出たノースディンたちはいま、退治人ロナルドの事務所で、応接セットの狭いソファに詰まっている。事務所のあるじは黄色い男を追いかけたきり戻っていない。
     ノースディンの向かいでは弟子が腕を組んで仏頂面をしている。その膝の上には彼の使い魔が、これまた不機嫌そうに座っている。左隣には親友。息子に出された紅茶には手をつけず、背中を縮めている。クラージィは対角線上の最も距離が開いた位置に座り、静かに顔を伏せていた。この場の誰とも目を合わせようとしない。
    「えーと、つまり師匠はモジャモジャさんの『親』で、二百年ぶりに迎えに来た、と」
     弟子の口調が刺々しい。
    「日光の危険もわからない成りたてヒヨコちゃんを放っておいたの、無責任にもほどがあるでしょこのヒゲ」
    「ヌンヌン」
     弟子は腹を立てていた。仕方のないことだ。
    「ドラルク、ノースディンにも理由があって……」
    「そうでしょうともお父様。このスケコマシ、父親のいないダンピールをサッカーの試合ができるほどこさえてそうなとこありますし」
    「ちょっと? ドラルク?」
     ドラウスは息子の言動に動揺している。ノースディン自身、長く生きている以上心当たりが全くないとは言えないが。それにしても。
    「言い方が下品だな。それに大げさだ。せいぜいフットサルぐらいだぞ」
    「待ってノース? 事実なのそれ?」
    「だが、この牙で血族にしたのは、クラージィだけだ」
     弟子は不満げに鼻を鳴らした。それから、なぜか父親の顔をちらと見た。弟子は三秒ほどの間にぐるぐると表情を変え、最後に眉間を押さえて短く唸った。
    「そうですか」
     弟子は居ずまいを正し、静かになった。
    「で、師匠はモジャモジャさんをどうしたいんです?」
     ノースディンは答えられなかった。取り戻すことしか考えていなかったのだ。
     ドラウスは少し身をかがめて、クラージィの伏せた顔を覗き込んだ。
    「クラージィくん、だったかな。ノースディンは君に会うためにここまで来たんだ。いろいろと思うところはあるかもしれないが、まずは顔を上げて欲しい。ノースディンに、元気な顔を見せてやってくれないか」
     クラージィは動かない。こんなにもあからさまに距離を取られては、会話の糸口すら見えてこない。本当は、ドラウスが言ったことだって、ノースディンが言うべきことだった。
     負い目は山ほどある、たとえ当人が知らなくても。黄色い男がいなければ引き出せなかった言葉を言質にしたこと。閉じ込めて、目にすることさえ避けてきたこと。
     何よりも、ノースディンは聞いていたのだ。あの春の夜、クラージィが無惨な姿で「もういい」と――満足のうちに死ぬつもりでいたことを。
    「クラージィ、私を恨んでいるだろう」
    「そんなことは!」
     クラージィが顔を上げた。
    「ツッ……」
     クラージィは小さく呻いて、ふたたび顔を背けた。
    「違うんだ。また会えて嬉しいと思う。ただ、その、ノー……お前の顔を見ると、思考が鈍ると言うか、おかしくなるというか……」
     ノースディンとドラウスは同時に首を傾げた。クラージィは顔の横に両手で、ノースディンの視線を遮る壁を作った。
    「顔さえ見なければ大丈夫なんだ」
     手からはみ出して見えるクラージィの耳の先がほんのりと赤い。
     ドラウスはポンと手を叩いた。
    「そうか、親吸血鬼の『支配』! いまどきの子ってそういうのないから、忘れていたよ。それどうやって意思を保ってるの? 君すごいな!」
    「ギルドからこっち、様子がおかしかったんですよ。モジャモジャさんが師匠を噛めば解決ですね」
     そういうことなら話は早い。ノースディンはソファから立ち上がった。
    「それで互いに目を合わせて話せるんだな?」
    「あ、あー、そうね、うん……」
     ドラウスは急に歯切れが悪くなった。ノースディンを見ながら、何か躊躇するような、困ったような、複雑な表情だ。
    「ノース覚えてないのか? あ、覚えてないよな、しまったなあ……あれ、意外と痛いんだ」
    「意外と痛い」
    「あとメチャクチャ血が出るから着替えがあったほうがいい。シャツ一枚ダメになるから。家でやった方がいいと、俺は思うな……」
    「えー……」
     ここまで来て? そんな小さなことで?
     ノースディンは俯いているクラージィを見る。
    「仕方ないですねえ。師匠には紙袋でもかぶってもらって」
     弟子よ、何て?
     何か言い返す暇もなく、ノースディンの視界が暗くなる。
    「目のとこ適当に破っちゃいますね」
     紙袋が横に裂けて、狭い視界が出来た。視界からドラルクの顔が退くと、その先にクラージィが立っていた。
    「ノースディン、なぜ忘れていたのだろう。あの時、お前も あの場所に居たのだな」
     クラージィにがノースディンに歩み寄る。黒かったはずの目は赤く、話す口からは牙が見えた。
    「……吸血鬼になってる」
     ノースディンが自分が見ているものを確かめるような気持ちで呟いた。クラージィは静かに笑って、肩をすくめた。
    「そのおかげで、どうにか生きてる」
     ノースディンはクラージィの肩に腕を回し、背中を叩いた。
    「本当に生きてる。よかった……」
     紙袋をかぶっていて良かったと、ノースディンは思う。きっとみっともない顔をしているに違いない。ノースディンは震える声を弟子に聞かれるのも構わず、何度もよかったと繰り返した。それ以外の言葉は思いつかなかった。
    「ところで師匠、モジャモジャさんとはどこでお知り合いに?」
     弟子が横から口をはさんだ。
    「どこでも何も、お前会ってるだろう。子供のころ」
    「はい?」
     クラージィが頬を掻く。
    「ドラルク、実は……覚えていないようだったので、黙っていた」
    「モジャモジャさん?」
    「あの時の君は可愛らしかったな。お茶とクッキーを出してくれて、ずーっとヒゲヒゲの話をしていた」
    「アー!」
     弟子はクラージィを指さして奇声を発した。本当に忘れていたらしい。子供の頃のほんの一夜だ。仕方ないだろう。
    「どうして名乗り出てくれなかったんですか?」
    「会ったことがあると言い張って助けを請うのは、たかりみたいだと思って。結局世話になってしまっているが……」
    「どうしてそういうときに正直にならないんだ……」
     ノースディンはドラルクと同時に肩を落とした。
    「すごく回り道をしてしまったと、そういうことかい?」
     ドラウスは気持ちの良い笑顔で紅茶を飲んでいる。
    「いいじゃないか、こうしてふたたび言葉を交わすことが出来たんだから。最高の結果だよ、そうだろ?」
     ドラウスはカップをテーブルに戻した。
    「ノース、今夜はクラージィくんを連れて帰って、早く紙袋なしで話が出来るようにしたらいい」
    「そうだな、では――」
    「あ!」
     不意にクラージィが叫んだ。
    「すまないノースディン。いまはダメだ」
    「なんで」
    「バイトがある」
    「バイト!?」
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    kidd_mmm

    TRAININGノスクラともクラノスとのつかないやつ16
    アカジャというか再会したやつ見る前の構想そのままで終わりまで書く予定なので嫌だったらゴメンね
    C-8C-8

     いくつかのドアの前を通り過ぎて、教えられた部屋に入る。壁際にクローゼットと整えられたベッド、それから正面の書き物机をはさんで、本棚、姿見。掃除の行き届いた居心地の良い部屋だ。ベッドの上には新品のパジャマまで用意されている。
     クラージィは柔らかいベッドに腰を降ろし、行儀悪く仰向けに倒れた。指で唇に触れる。まだ血と体温の味が口の中に残っている。なかなか牙の入らない肌の弾力も。
     意外なことに――いや当然なのか、その味と感触は不快なものではなかった。自分で予想していたほどの抵抗も忌避もなく、かえって困惑するほど円滑にことは済んだ。
    (いや、円滑……ではなかったな)
     ノースディンは何も言わなかったが、かなり痛かったのではないだろうか。元から青白い顔が真っ白になっていた。その場に残してきてしまったのはまずかったように思う。心配だったが、棺までついていくのはさらにまずかろうとクラージィは思った。ドラルクからは、棺のありかは吸血鬼の社会において大変繊細な話題と聞いている。
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