Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    エイリアン(小)

    @4Ckjyqnl9emd
    過去作品封じ込める場所です、時々供養とか進歩
    お絵描きは稀に

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 11

    乙五過去作品
    ワンドロワンライの乙五

    ちゅ、と柔いキスが頬に送られた。
    ほんのりと乾燥した唇の感触が頬に残る。
    「憂太」
    「ー嫌でしたか」
    少ししょげたように、憂太は頭を下げて視線をこちらに投げかけた。
    「別に嫌じゃないけど」
    思わずそう返す。憂太はそれを聞いて、ホッとした様に顔を綻ばせた。

    憂太は、今日から海外出張になる。
    このバス停から20分かけて都市部の最寄りに行き、更に乗り換えのバスで都市部へ、それから空港へ向かい飛行機に乗る。
    そこそこ遠い道のりになるため、出発は平日の真昼間になる。真希やパンダ、棘は残念ながら見送りが出来ないから僕一人でのお見送りだ。
    ぽかぽかした春の陽光が木の影から差し込んでいるのを二人で眺める。
    高専よりかは都市部によっているものの、それでもまだ田舎のこの場所では通りがかる人も少ない。
    真昼間だと言うのに、バス停には人っ子一人寄ってこなかった。
    「あったかいねぇ、もうすっかり春だ」
    「そうですね...あっという間でした」
    感慨深げに、憂太はそう返す。
    ーーこの一年は、酷く短かった。
    「寂しくなるね」
    「...そうですね。それに、少し不安です」
    少し、目に影を落として憂太は呟く。
    当然だ、憂太にとっては初めての海外になる。
    一応護衛というか、案内人もつけているけれど流石にそれだけでは不安は拭えないのだろう。
    「大丈夫、憂太なら上手くやれるよ」
    ぽんぽんと頭を叩いてにっこり微笑んだ。
    「...先生は、人誑しですね」
    「憂太に言われたくないなぁ!」
    どっちかというと、憂太の方が誑しだよ、天然のね。
    そういえば憂太はポカンとした顔で僕を見る。
    その顔に思わず吹き出して、憂太の頭を叩いていた手を左右に動かした。
    サラリとした黒髪がするりと指を抜けていくのを感じて、ふと、頭に影が過った。

    あぁ、昔もこうして黒髪を指に通して遊んでいた気がするーーそう、傑ともこんなやりとりをしたことがあった、丁度今のような、春が間近に近付いて暖かくなりつつある季節に。

    『こちとら初めての海外なんだ、緊張するに決まってるだろう』
    呆れたようにそう言う傑が、僕のことを見ている。柔らかく細められた黒曜石の瞳が暖かい陽光を反射して淡く光っていた。
    『安心しろよ!俺が教えてやったんだから傑なら上手くやれるだろ!』
    『君と一緒にするんじゃない...でもまぁ、そこまで言われたらやらないわけにはいかないな』
    ふわりと傑が笑った。
    『見送り、ありがとう悟、嬉しいよ』
    『ーー二ヶ月会えねーんだから、見送りするだろ、ふつう』
    『普通、だとしてもだよ、私は悟が来てくれたから嬉しいんだ』
    傑はそう言って、本当に幸福そうに笑っている。愛おしげに細められた目が嫌に恋しい。
    『...傑』
    小さく呟いた。
    傑がこっちに近付いて、それから。

    「先生!」
    ガッと肩を掴まれた。
    「...ゆうた」
    呆然とそう呟いて、トリップしていたことに気付く。
    目の前で僕の肩を掴む憂太は、最後に見た顔とは打って変わった顔をしていた。
    「ごめんね憂太、ちょっと「夏油傑」」
    被せるように憂太が言って、思わず口を閉ざす。
    「夏油傑のこと、思い出してたんですよね。先生」
    それは確信だった。じっと見つめられて、居た堪れなくなって目を伏せる。
    「...ごめん」
    自分でも情けないほど、絞り出したような声でそう言った。
    憂太は、黙っている。
    空気が重くなってしまったことは自覚しているけれど、何をいえばいいのか分からなかった。
    弁明など出来やしない、僕が傑を思い出していたのは、事実だから。
    「先生」
    びくりと体が無意識に震えた。
    「別に、怒ってないですよ」
    「...え?」
    「怒って、ないです」
    予想外の言葉に混乱しているのに、即座に合わせられた右手が更に混乱を助長させる。
    なんで、という言葉は音にならずに空気に溶けた。
    「ねぇ先生、無理に忘れなくてもいいじゃないですか。謝らなくてもいいです。僕だって里香ちゃんのこと、忘れてないんですから」
    「...憂太」
    「先生が謝るなら僕だって謝らなくちゃいけない、今までだって何回も先生に里香ちゃんを重ねてきたんだ、先生だって、そうなんですよね、忘れられない一番の人がいる」
    憂太がほんの少し身じろぎする。
    見れば、もうバスが来る時間だった。
    思うようにいかないな、なんて他人事のように思う。自分よりずっとずっと年下の生徒の方が、僕のことも、自分のこともわかっているなんて、笑ってしまうじゃないか。
    すっと、憂太が立ち上がった。
    と思えば、憂太は繋いでいた手をそのままにして、僕の手の甲にそっとキスをする。
    「ゆう、」
    「里香ちゃんの事を忘れられない僕が言うのもなんですが、先生が僕のことを思ってくれてる中で此処を発てるの、嬉しいんです」
    そろり、と壊れ物を愛でるように憂太が僕の右手を撫でる。
    その奥でプシュー、と間抜けな音と共にいつの間にかきていたバスが開いた。
    「じゃあ、先生また連絡しますね
    ーーー行ってきます」
    「...うんーー行ってらっしゃい」
    ひらひらと手を振る憂太が、遠ざかっていく。
    まだ憂太が唇を落とした右手が熱い。
    ーーまるで全て受け止めるような表情で、僕の手の甲にキスをした憂太。
    ほんの少しだけ楽になった気持ちを他所に、心の中でやっぱり誑しじゃないか、なんて呟いてみた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    エイリアン(小)

    PROGRESS進んでるところまで
    夏五共依存
    「さとる」
    そっと呟いても、その声に答えてくれる筈の人間はまだ目を覚まさない。
    さまざまな機械に繋がれ、死んだように眠る悟はまるで精巧な人形のようだった。
    「悟」
    もう一度、名前を呼ぶ。
    ピクリとも動くことのない瞼を見て、思わず投げ出された手を握った。
    ただでさえ冷たい悟の手がさらに温度を失っているのに気付いて、強く、強く握る。あわよくば、この感触に気付いて起きてくれる期待を抱いて。
    「悟...」
    なのに、強く握った手を持ち上げても、悟は目を瞑ったまま。
    抵抗しない。何も言わない。
    それが酷く悲しくて、私はぐっと唇を噛み締めた。

    『五条が暴走車に撥ねられた』
    そう言った硝子の震えた声を、今でも容易に思い出すことができる。
    変わらない日、いつもと同じ金曜。
    いつも通り二人で朝食を取って、悟がゴミを持って出勤する。
    ゴミを持つ悟に、いつまで経っても似合わないな、なんて思っていた。
    昨日の夕食も思い出せないくせして、悟が撥ねられたその日の過ごし方は馬鹿みたいにはっきり覚えているのだ。
    それなのに、彼がいつも通りに放った、行ってきます。その声が薄らぼんやりとしてきているのが恐ろしくて仕方ない 2408