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    エイリアン(小)

    @4Ckjyqnl9emd
    過去作品封じ込める場所です、時々供養とか進歩
    お絵描きは稀に

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    POIPOI 11

    進んでるところまで
    夏五共依存

    「さとる」
    そっと呟いても、その声に答えてくれる筈の人間はまだ目を覚まさない。
    さまざまな機械に繋がれ、死んだように眠る悟はまるで精巧な人形のようだった。
    「悟」
    もう一度、名前を呼ぶ。
    ピクリとも動くことのない瞼を見て、思わず投げ出された手を握った。
    ただでさえ冷たい悟の手がさらに温度を失っているのに気付いて、強く、強く握る。あわよくば、この感触に気付いて起きてくれる期待を抱いて。
    「悟...」
    なのに、強く握った手を持ち上げても、悟は目を瞑ったまま。
    抵抗しない。何も言わない。
    それが酷く悲しくて、私はぐっと唇を噛み締めた。

    『五条が暴走車に撥ねられた』
    そう言った硝子の震えた声を、今でも容易に思い出すことができる。
    変わらない日、いつもと同じ金曜。
    いつも通り二人で朝食を取って、悟がゴミを持って出勤する。
    ゴミを持つ悟に、いつまで経っても似合わないな、なんて思っていた。
    昨日の夕食も思い出せないくせして、悟が撥ねられたその日の過ごし方は馬鹿みたいにはっきり覚えているのだ。
    それなのに、彼がいつも通りに放った、行ってきます。その声が薄らぼんやりとしてきているのが恐ろしくて仕方ない。
    私の中の『悟』が、ゆっくり、確実に、その輪郭を曖昧にしていく。
    それを感じているのに、眠ったまま動かない悟の前でどうすることもできずにいる自分が憎くて仕方なかった。

    悟を轢いたのは、クソみたいな猿。
    馬鹿みたいに酒を飲んであやふやな前後感覚のまま乗り込んだのか、そこのところは定かではないけれど、その猿は確かに、飲酒運転をして悟を轢いた。
    ...その状況を警察から教えて貰った時の気持ちをなんと例えたらいいのだろう。
    男は悟を撥ねたあと電柱に突っ込み即死、人気のない道だったため被害者は悟、たった一人。
    ...悟が轢かれたその場所にはコンビニの袋が落ちていたらしい。
    ビールが数本と、つまみと、スイーツが沢山入ったコンビニの袋。
    ビールも、つまみも私が気に入っている銘柄のものだった。
    どんな思いでこれを買ったのだろう、どんな思いで帰路についていたのだろう、どんな思いで、自分に迫る車を見たのだろうか。


    カンカンと照りつける太陽が夏油の黒髪を焦がす。
    まだ初夏のはずだが今日は一段と暑い。
    両手に紙袋をぶら下げて足を運ぶ夏油の姿はまるで大荷物を持っているように見えるだろう。
    夏の暑さと階段にほんの少しだけ呼吸を早めながら、夏油はとある病室の前まで来て、ようやっとそこで息を吐いた。
    そうして、三回ほどノックをしてからその扉に手をかける。
    「や、悟」
    静まり返った病室の扉を開けて、夏油は眠ったままの五条に笑いかけた。

    開いた窓からは生ぬるい風が吹き込んでいる。
    「今日は凄く暑いな、悟は暑くない?」
    額に滲んだ汗を拭いながら、夏油はそう尋ねた。
    窓の外では蝉時雨が響き渡っている。
    眠ったままの五条を置いたまま、季節はもう夏を迎えていた。
    「今日はちょっと用事があってね、少ししかいられないんだ」
    ごめんね、そう呟いてするりと少し痩けた頬に手を滑らせた。日に焼け、ゴツゴツとした武骨な手が、紙のような色になった五条の肌を優しく撫でる。
    それから、手に持っていた袋からそっとフラワーアレンジメントを取り出した。
    「今日は花、持ってきたんだけどね。店員さんに心配されちゃって、そんな酷い顔してるかな、私」
    はは、と中身のない笑みを浮かべながら、夏油はことりと机の上にアレンジメントを置く。
    暖色を基調としたそのアレンジメントは一つだけでも白い病室に良く映えた。
    「あと、ケーキも持ってきたんだ。ほら、悟のお気に入りのケーキ屋さんあったでしょ、あそこの新作だよ。手に入れるの苦労したんだから」
    少しだけアレンジメントをずらして、横にケーキの箱を置く。きっと五条も気にいる味をしているだろう、なんせ彼の行きつけの店なのだから、間違いない。
    「早く起きないとケーキ、腐っちゃうよ」
    そう言って夏油はそっと五条の髪に指を通す。
    きっとこのケーキも、食べられることなく腐ってしまうんだろう。
    そう考えて、静かに頭を振った。
    「...ごめん悟、時間だ」
    かき混ぜるように五条の頭を撫でて、夏油はそう呟く。
    「...じゃあね悟、また明日」
    諦めの滲んだ表情で寂しげにそう呟き、夏油はそっと部屋を出た。

    俯いて病院を出ていく夏油を、家入は遠くから見つめていた。
    五条が寝たきりになって、もう半年が経つ。
    重症ではあったものの五条の命に別状はなかった、それなのに、五条は未だ夢の中にいる。
    最初こそ不安定に取り乱していた夏油も、今となっては殆ど諦めに近い反応になりつつあった。
    フゥーっと家入は紫煙を吐き出す。
    やめるつもりだった煙草をこうして吸ってしまうのも、アホみたいに夏油が落ち込んで、諦めてんのも。
    「...全部、お前のせいだぞ。五条」
    五条に非がないなんてことは、家入も理解している。
    けれど、そう言わずにはいられない。
    日に日に諦めたような顔を浮かべる夏油を眺め続けることは、家入にとって酷く苦痛だった。
    お前が抜けただけで、こんなに不安定になるなんて思いもしなかったよ。
    目を閉じて、そう思う。
    俯いた夏油の姿を見て、背中を叩く五条を思い描いてしまう、疲れ果てた顔で笑う夏油を見れば、隣で真っ直ぐ前を向いて肩を組んでやる五条の姿が目に浮かぶ。
    そんな情景を脳裏に浮かべて、家入は思わず苦笑した。
    「...私も大概、重症だな」
    ずっとうざったらしかった夏油と五条の絡みを望む自分に、家入はただ笑うことしかできない。
    「早く起きろよ、五条」
    夏油、ずっと待ってんぞ。
    そう呟いて、家入は最後の紫煙を吐き出した。
    長く、ゆっくりと煙が空へと登っていく。
    それを少しだけ眺めて、家入は残った煙草をぐり、と押し潰した。
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    エイリアン(小)

    PROGRESS進んでるところまで
    夏五共依存
    「さとる」
    そっと呟いても、その声に答えてくれる筈の人間はまだ目を覚まさない。
    さまざまな機械に繋がれ、死んだように眠る悟はまるで精巧な人形のようだった。
    「悟」
    もう一度、名前を呼ぶ。
    ピクリとも動くことのない瞼を見て、思わず投げ出された手を握った。
    ただでさえ冷たい悟の手がさらに温度を失っているのに気付いて、強く、強く握る。あわよくば、この感触に気付いて起きてくれる期待を抱いて。
    「悟...」
    なのに、強く握った手を持ち上げても、悟は目を瞑ったまま。
    抵抗しない。何も言わない。
    それが酷く悲しくて、私はぐっと唇を噛み締めた。

    『五条が暴走車に撥ねられた』
    そう言った硝子の震えた声を、今でも容易に思い出すことができる。
    変わらない日、いつもと同じ金曜。
    いつも通り二人で朝食を取って、悟がゴミを持って出勤する。
    ゴミを持つ悟に、いつまで経っても似合わないな、なんて思っていた。
    昨日の夕食も思い出せないくせして、悟が撥ねられたその日の過ごし方は馬鹿みたいにはっきり覚えているのだ。
    それなのに、彼がいつも通りに放った、行ってきます。その声が薄らぼんやりとしてきているのが恐ろしくて仕方ない 2408

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