覚悟・前編 入梅とともに、重く垂れ込める雲の闇に紛れて暗躍する鬼の目撃情報が増えた。長くなった日の合間を縫う様に、狡猾に、奴らは人を襲う。呼応するように任務も慌ただしさを増していった。
その日も、大気が孕む水分が滲み出た様な、やわらかく、息苦しいほどに纏わりつく霧雨だった。
降っては止み降っては止み、ここ数日繰り返し大地に浸み込んだ雨粒は、泥濘を作り崖を弛ませた。
―――だから、このようなことになったのだな。
重く沈んだ身体と頭で、そんなことをぼんやり考えた。
「炎柱様!」
見上げた先を黒い影が覆う。庇った隠の少年だろう。彼らの装束は、真に夜の闇に溶け込んでしまうのだなと、これまたぼんやりと黒い人影を見上げて思った。
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