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    頭がおかしいトニスト

    深読みクリスマス「今日はクリスマスだな!」
    バーンと勢いよくドアを開いてやってきたスティーブンに、トニーは動揺せず聞き流した。
    「今日は!クリスマスだな!」
    るんるん。その言葉が似合いすぎるほど楽しそうだ。ポーカーフェイスでアベンジャーズ内で通っているくせに、トニーの前ではこんなにもわかりやすい。

    クリスマス、やったー!チキン食べれる!チキン、チキン!

    ざっとそんな感じだろう。手元の作業から集中を切らさず、トニーは想像する。
    「…トニー、チキンはどこだ?」
    ほらね。ちらりとスティーブンを見れば、キョロキョロと周りを見渡している。だいたいここは地下のラボだというのに、なぜここにあると思ったのか、はぁとため息をつきながら、トニーはやっと作業を止めて、スティーブンと向き合った。

    めっちゃお目目キラキラしてるー!

    予想以上の期待の瞳にここでやっと動揺する。チキンを食べられるってだけでこんなに楽しくなる?お茶目なの?というトニーの思いもスルーして、スティーブンはニコーっと笑っている。
    チキンを食べられない可能性なんてこれっぽっちも疑っていない真っ直ぐな目を見て、トニーは仕方がないと、iPhoneを取り出し、ネット注文を探し始めた。

    「どこのチキンがいいんだ?」
    何気なく。本当に何気なく聞いた。スティーブンが食べたいチキンを買ってあげるのが正解だと思ったからだ。クリスマスを楽しむ年でもないだろうし、友達だからって予定を決めて集まれる仲でもない。お互い忙しい身なのだ。彼なんかほとんど異世界を飛び回っているし、僕のところに来るのももう1ヶ月ぶりほどだ。だからチキンも、ケーキも用意していない。突然の来訪にはもう慣れたが、せめて一言何か言ってから来てくれればいいのに、と文句が出そうになるトニーが画面から視線を上げると、そこにはぽかんとした顔のスティーブンがいた。
    「どうした?」
    「チキン…ないのか?」
    「え?…うん」
    素直に答えれば、ぽかんとした顔のスティーブンはきゅっと口を紡ぎ、ふにゃりと眉毛下げて、目をうるうるさせるではないか。さっきまでのるんるんからの急降下に、トニーはついていけていなかった。
    「え、ど、どうしたんだ、スティーブン…」
    「チキン…ないんだ…」
    小さな声だった。ぽつりと呟かれた声に、トニーの背筋に冷たい感覚が走った。なんだろう、この感覚は。氷の上に立っているようだ。一歩でも間違えれば、氷が割れて落ちてしまいそうな不安感に襲われる。
    「スティーブン…君が来るとは思ってなくてさ…ほら、一人でチキン食べるのもさ」
    なんてぺらぺら喋るトニーの目の前で、スティーブンはサークルを自分の背後に作り出し、背を向けてしまう。
    「一緒に過ごせると思ってたのは、私だけだったんだな」
    背中越しに聞こえた声に、トニーは顎が外れる思いだった。
    「邪魔したな」
    低い地を這うような声が耳に届くと同時にサークルは消えて、スティーブンがさっきまでいたのかも曖昧になる。
    「待っ…て?え?つまり?」
    トニーは混乱する頭を必死に動かした。
    チキンはあるかと彼はやってきた。チキンがあることを微塵も疑っていなかった。つまり、スティーブンはトニーがチキンを用意して待ってくれていると信じていたわけだ。それなのにチキンがなくてショックを受けたということか?
    あまりの急展開、ジェットコースターのごとくなスティーブンにトニーは頭を抱えつつも、コートを着て部屋を飛び出していた。
    「だったら一言ぐらい言ってくれー!」
    トニーの叫びは寒い夜空に消えていった。
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