まっくらくらーいくらーい吸血鬼が出る、なんて噂が飛び交うようになったのは最近のことだ。闇に消える人影を見た、実際に襲われたと訴える人がいた、空を飛ぶ大きな影を見たなどなど。10月のハロウィンに向けての悪戯なのか、本物なのか。それは誰もわからなかった。噂はどんどんと膨れ上がり、今では夜道を歩く人は1人もいない。
ハロウィンで練り歩く子供たちもいない静まり返った夜道を、ひっそりと歩く男の姿があった。スラリと伸びた背に、茶色のコートがよく生えている。磨かれた靴が石畳とぶつかってコツコツと音を立て、ガス灯の光を受けて、足元に影が伸びていた。
その男の視界の外に、黒い影があった。音もなく、屋根を飛び移りながら、男を追う。
(良い獲物だ)
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