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    ルツフェス2021 プロット交換
    「昔から変わらない想い」

     昨日まで続いていた雨が嘘のように、頭上に広がる青は雲一つなく冴え渡っている。晴れ舞台を後押しするような、梅雨晴れ間。
     集まった人々の視線は、柔らかな芝生の上に敷かれた真っ白なウェディングカーペットの上を歩く二人へと注がれていた。
     大勢の人たちが奏でる拍手の音が、純白の衣装を身に纏った二人を包み込む。照れくさそうにはにかんで立ち止まった二人に、式場のスタッフが小さなブーケを幾つか手渡した。
     前へと集められていた子供たちがこれから一体何が起きるのかと、期待に胸を膨らませながら瞳をきらきらと輝かせている。
     恥ずかしそうにもじもじとしながら頬を紅潮させた少女と、その傍らに寄り添うように立つ少年。そんな二人に視線を向けた主役の一人が、あとげない笑みを浮かべ——手にしていたブーケをひとつ、少女の手元へと向けてふんわりと投げた。
     辿々しい手付きながらも空中へと浮かんだブーケを必死に掴み取った少女は、掴んだばかりのブーケをまるで宝物のようにぎゅっと抱き締める。
     花に見立てたキャンディとチョコレートが華やかに飾られた小さなブーケ。
     主役の二人に負けないほど幸せそうな笑みを浮かべた少女を優しい眼差しで見守っていた少年が、不意にブーケへと視線を移す。
     ブーケの中で偽物の花に混じり、ボールのように球状に咲いた花。少女に強く抱き締められて揺れる一輪を、少年は感情の読み取れない顔で見やっていた。



     司くんの結婚は、夕方のニュースで速報として取り上げられた。報道後、SNS上は阿鼻叫喚で喜怒哀楽、祝福から恨み言まで幅広く様々な言葉の羅列がネットの波に流れていたのを覚えている。
     結婚以前に熱愛報道すらされたことがなかった司くんの突然の結婚報道はあまりにも衝撃的で、相手の女性が一般人女性だということもあってかSNS上は荒れに荒れた。
     中にはショックで仕事を早退したという人や、社員に司くんのファンが沢山いるから翌日は社員を全員休みにしただなんて会社まであったりして。高校時代に「大スターになる!」と豪語していた通り、舞台役者として舞台だけに留まらず活躍の場をどんどんと広げている現在の司くんの人気ぶりは計り知れない。

     正直、羨ましい。司くんが結婚して悲しい、ショックだと軽々しく口にできる人たちが。僕だって、出来ることなら今すぐにでもなんで!どうして!とこの悲しみを世界中走り回って叫び出したいくらいだ。もちろん、そんなことはできるはずがない。僕は司くんと高校時代からの仲で、同じ劇団に所属していて、昔からの——親友なんだから。
     司くんの口から結婚すると言われたとき、僕は真っ先に自分の表情を取り繕うことに意識を集中させた。わらえ。笑え。笑え!必死に命令をして、僕は引きつる口角を緩め、涙を必死に堪えて目を細め、できうる限りの高音で「おめでとう」と震える声で絞り出したんだ。
     ……僕は、司くんの親友だから。親友が、友の結婚を喜ばないはずがないだろう?僕は昔から変わっていると言われているけれど、最低限の一般知識は持っている。友の喜びは自分の喜び。世界の親友の定義は、そう決まっているはずだ。
     きっと、拙い演技だった。醜い演技だった。それなのに、司くんは気付くことすらなかった。喜びに包まれた司くんは、僕の最低最悪な演技に言及することなく、ただ「ありがとう」と感極まったのか泣きそうな顔をして僕に微笑んだ。僕の演技に対して何も言わない司くんに対して、安堵と悲しみと苛立ちと。色々な感情がごちゃごちゃに混じり合って、気持ちが悪くなった。

     司くんがその女性と交際していることは知っていた。けれど、まさか結婚するだなんて、欠片も考えていなかったんだ。よくよく考えれば、責任感の強い司くんが女性と交際してそういうことを考えていないはずがないってこと、すぐに分かるはずなのに。……僕は、無意識にその可能性を見ないようにしていた。だって、僕は司くんのことを一度たりとも親友だなんて思ったことはないから。
     僕は、ずっと、ずっと、ずっと。それこそ司くんが奥さんと知り合うずうっと昔から、司くんのことが好きだったんだ。
     今まで、この胸で燻り続けている気持ちをひた隠しにして生きてきた。何食わぬ顔で、親友という嘘の肩書きを訂正することなく生きてきた。だって、司くんにとっての一番は昔も今も、ショーだって知っていたから。司くんの脳裏を占める殆どがショーのことばかりだと思っていた。……それなのに。

     僕と司くんの関係は周りからすれば安定しているように見えていただろう。昔馴染み。腐れ縁。良き相棒。親友。大スターと大スターを支える演出家。様々な言葉で表されていた僕達の関係は、その通りでもあったし、実際司くんもそう思っていたはずだ。けれど、僕が司くんへと向けた気持ちをみんなは知らない。好きだ。司くんがずっと、好きだった。僕だけのものにしたい、なんて汚い感情すら僕の心の中には蠢いていた。でも、司くんはショーで輝くべき存在だ。スターとして、数多くの人を照らすべき存在だ。ステージの上でみんなを笑顔にする司くんが好きだった。そんな司くんを、僕が汚したくはなかった。
     ……だから、僕は自分の気持ちを全て捨ててここまできた。司くんと、一緒にショーをし続けることが、僕の喜びであり幸せだったから。
     司くんは、例えるなら一輪の花なんだ。僕の演出という肥料で耕した庭はくで輝く、一輪の美しい花。僕の抱いたドロドロとした愛情を吸って司くんが花開く姿は、いつだって僕を高揚とさせた。
     ——けれど、それも、もう。

    「い、るい、……類っ!」
    「……あ、」

     隣から強く肩を揺さぶられて意識が引き戻される。ぱちぱちと瞬きを繰り返すと、寧々がこれみよがしに大きな溜息を吐いた。
     ぱちぱちぱちぱち。拍手の渦が、会場を包みこむ。ああ、そうか。今は司くんの——。
     司会者の声が右から左に通り過ぎていく。目の前に置かれた手付かずの料理は、僕だけが野菜控えめの内容になっていた。司くんの配慮なんだろう。今はそれが、苦しくて仕方がない。息を吸っているのに、息苦しい。
     僕の気持ちはお構いなしに、結婚式はどんどんと進んでいく。
     僕は今日、禄に司くんの顔を見ていない。新郎新婦の二人が座る席へと、視線を向ける勇気が、僕にはなかった。僕は未だに、司くんと同じ名字になった女性の顔をぼんやりとしか見ていない。街中ですれ違っても、きっと司くんの奥さんだと判別できないだろう。
     会場の照明が落とされて、薄暗い闇に包まれる。どうやら、スライドショーが始まるようだった。……見たくもない。画面から視線を逸らすと、寧々が何か言いたげに僕を見ていた。誤魔化すように笑いかければ、寧々は短く息を吐いて視線をモニターの方へと向けた。苦笑いを浮かべて、僕はまた料理へと視線を戻す。一口、口へと運んで咀嚼する。美味しいはずの料理が、今は何の味もしなかった。紙粘土を食べたら、きっとこんな気持ちになるんだろう。ピカピカに磨き上げられた手付かずのナイフに、自分の情けない顔が反射する。映った自分の瞳に、既視感を覚えた。ああ、この瞳は——……。

     幼い頃に一度だけ、結婚式に出席したことがある。寧々の隣の家、つまり僕の隣の隣の家に住むお姉さん。幼い僕達を可愛がってよく一緒に遊んでくれたお姉さんの結婚式だった。
     六月の、よく晴れた日だった。あの日、初めて結婚式に出席した僕は集まった大勢の人に圧倒されて、少し萎縮していた。スタッフの人からオレンジジュースを受け取って、隅っこの方へと避難していたんだ。
     そこで、一人の男性と出会った。前方にいる主役二人を目を細めて見つめる男性の瞳は、寂しさを滲ませていた。視線の先を追うと、それがお姉さんに向けられたものではなく、お姉さんの隣にいるお婿さんの方へと向けられたものだと僕は悟った。
     不躾に見ていた僕の視線に気が付いたのだろう、男性は僕の方を向いて小さく微笑んだ。「おにいさん、」と男性の纏う雰囲気になんと言ったら良いか分からなかった僕の頭を、男性は大きな掌で優しく撫でてくれた。
     僕と話がしやすいようにか、スーツが皺になることも気にせずに男性はしゃがみ込んだ。
     ……今思えば、あの会場であの男性も、行き場のない思いの吐き出し口を探していたのだろう。二度と会うことのないであろう、他人の、まだ幼い子供にだからこそ打ち明けることができたのかもしれない。
     「彼とはね、」そう言って話し出した男性に、僕はそっと耳を傾けた。

    「……彼とは親友だったんだ。恥ずかしい話、ずっと一緒にいられると思っていたんだよ。でも、彼の隣に居られるのは、俺じゃなかった。身勝手だけど、裏切られただなんて思ってしまって」

     情けない大人だよね。そう言って男性は立ち上がって、主役の二人を食い入るように見つめていた。
     男性の片手には、花束が握られていた。お婿さんの胸ポケットに一輪挿された花と、同じ花の束。それがダリアの花だと、僕は知っていた。
     そして、ダリアの花言葉の中に『裏切り』という意味が含まれていることも、僕は知っていた。
     口を閉ざした男性を見ていると、司会者が子供を前に呼んだ。「いっておいで」そう、優しい声色で男性に言われて、僕は渋々頷いた。前でそわそわと不安そうにしている寧々に「どこに行ってたの」と不満げに問われても、男性とのやり取りを話したくはなくて、僕は笑って誤魔化した。
     お姉さんが寧々へと向けて投げたブーケは、本当に綺麗だった。けれど、そのブーケにもダリアが混じっていて、僕はさっきの男性を思い出して、複雑な気持ちになった。お姉さんのことは好きだ。お姉さんには、幸せになってほしい。……でも。それじゃあ、あのお兄さんは。
     結局、あの日からあの男性には一度も会っていない。あの人は、今、どうしているんだろう。どこかで別な人と、幸せになっているのだろうか。

     ぐるりと、薄暗い会場の中を見渡した。会場に飾られている花にも、ダリアが含まれている。
     ……ダリア。数多くある花言葉の中でも、裏切りの言葉をすぐに思いついたのは、その逸話が幼心に強い傷跡を残すほど鮮烈だったからだ。
     フランス革命の頃、ナポレオンの妻であるジョセフィーヌはダリアをとても愛しており、自分の庭だけで育てていた。それを羨んだ貴族の女性が、ダリアを盗み自分の庭で育てて花を咲かせた。そんな裏切りを受けたジョセフィーヌは、あんなに愛していたはずのダリアへの興味を一切失ってしまった。
     ダリアはそこから「裏切り」、「移り気」のネガティブな花言葉が生まれた。ダリアの花言葉が怖い意味を持つといわれているのは、裏切りなどの人の怖さからきているのかもしれない。
     幼い頃は、ただ純粋にジョセフィーヌが可哀想だと思ったのと同時に、別な人が自分の庭でダリアを育てただけでダリアへの興味を失ってしまうジョセフィーヌの気持ちがわからなかった。
     ……けれど、今の僕はどうなんだろう。
     愛した花を自分の庭だけで育てていたかった彼女。
     たとえば、僕以外の人間——……そう、奥さんとか。が司くんを輝かせてしまったら、僕も彼女のように司くんに対して興味を失ってしまうのだろうか。裏切りだと、呪うのだろうか。
     パッと照明がつけられ会場全体が明るくなった。暗闇に慣れた目が光に驚いてチカチカする。
     不意に、主役の二人へと視線を向けると司くんも、奥さんも二人とも幸せそうに笑っていた。
     ああ、やっぱり僕は。司くんが、好きだなぁ。胸がぎゅっと掴まれたように痛む。長年連れ添った痛みだった。
     ……裏切りだなんて、思うはずがない。

    「類!寧々、えむ!今日はありがとう!感謝するぞ!」
    「司くんおめでとう〜!!とってもキラキラしてるねっ」
    「おめでと。スピーチのとき、緊張してるの面白かったよ」
    「…………っ、」

     小さな花束を三つ抱えて、司くんが僕たちの座るテーブルに挨拶に来た。にこにこと笑う彼に対して抱く気持ちは、昔も今も変わらない。おめでとう、僕もそう口を動かそうとして、ふと思い出した。

    『あなたは、あの人のことが好きだったんでしょう?』
    『うん。でも、いいんだ。彼が幸せなら』

     そう言ってはにかんだあの男性の笑顔。あの男性が持っていた花束も、司くんが今手にしている花束と同じく白いダリアの花束だった。

    「……おめでとう、司くん。お幸せに」
    「……ああ、ありがとう、類」

     司くんがそう言ってはにかむ。司くんはえむくんと寧々の手の甲に順番に口付け、手にしていた花束を手渡した。えむくんから「王子様みたい!」と言われ、寧々から茶化された司くんは少し照れながらも僕に「お前も」と声を掛けた。
     手を差し出すと、甲に唇が当たる前に手を裏返されて僕の掌へと唇が触れる。
     他のテーブルにも挨拶にいかなければ、と司くんが僕にもダリアの花束を手渡した。それを受け取って「主役は大変だね」と声をかけると、司くんは「まぁな」と苦笑いを浮かべる。どこか潤んだように見える瞳が、そっと僕へと向けられた。
     他のテーブルへと移動する司くんの後ろ姿を見送りながら、手にしたブーケを優しく抱きしめる。

     ——どうか君が幸せでありますように。

     僕が今抱きしめているのは白いダリアだ。あの日、あの時。あの人が持っていたのと同じ。……その意味は、『感謝』だ。

    「類、良かったの……?」
    「ああ。僕は、彼の幸せを心から願っているんだよ」

     隣で寧々が小さな声で尋ねてくる。さっきよりも、息がしやすいような気がした。僕は寧々に微笑みながら、自信を持って答える。
     僕に強く抱き締められて揺れる一輪を、寧々は感情の読み取れない顔で見やっていた。
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    「昔から変わらない想い」
     昨日まで続いていた雨が嘘のように、頭上に広がる青は雲一つなく冴え渡っている。晴れ舞台を後押しするような、梅雨晴れ間。
     集まった人々の視線は、柔らかな芝生の上に敷かれた真っ白なウェディングカーペットの上を歩く二人へと注がれていた。
     大勢の人たちが奏でる拍手の音が、純白の衣装を身に纏った二人を包み込む。照れくさそうにはにかんで立ち止まった二人に、式場のスタッフが小さなブーケを幾つか手渡した。
     前へと集められていた子供たちがこれから一体何が起きるのかと、期待に胸を膨らませながら瞳をきらきらと輝かせている。
     恥ずかしそうにもじもじとしながら頬を紅潮させた少女と、その傍らに寄り添うように立つ少年。そんな二人に視線を向けた主役の一人が、あとげない笑みを浮かべ——手にしていたブーケをひとつ、少女の手元へと向けてふんわりと投げた。
     辿々しい手付きながらも空中へと浮かんだブーケを必死に掴み取った少女は、掴んだばかりのブーケをまるで宝物のようにぎゅっと抱き締める。
     花に見立てたキャンディとチョコレートが華やかに飾られた小さなブーケ。
     主役の二人に負けないほど幸せそうな笑みを浮かべた少女を優 5657

    801_ppp

    DONE # ritk版深夜の60分一発勝負
    演目「禁止」で書かせて頂いたもの。トータル5hほど。
    ※🌟くんと交際している女の子モブ視点/ガッツリ🎈🌟なので誰も報われてはいません
    ふいに目が覚めた。少しでも明るいと眠れないのだという彼に合わせて、照明を全て消している部屋では物の輪郭が闇でぼやけてしまっている。ぼんやりと霞みがかった頭で寝る前には隣にあったはずのぬくもりがなくなっていることに気が付いて、そっと上体を起こし周りを見渡した。暗闇に目が慣れ始めたのか、物の輪郭が徐々に鮮明になっていく。
     そこで、扉が中途半端に開かれている様子が視界に入った。きっと、彼が部屋を出て行くときに閉め切らなかったんだろう。几帳面な彼らしくない。……もしかしたら、さっきのことをまだ気にしているのかも。彼は人一倍誠実な人だから、今頃は自分を責め立てているのかもしれない。
     彼は、リビングにいるだろうか。大丈夫だよって、気にしないでって、言ってあげなくちゃ。静かにベッドから抜け出して、中途半端に開かれたままの扉を通り抜ける。
     廊下に出て、私の想像が外れていたことをすぐに悟った。扉の隙間から明かりが漏れている部屋は、リビングではない。彼がショーで使う衣装や小道具が大切に保管されている部屋。……私が、立ち入ることはできない部屋。
     扉に近付くと、部屋の中から啜り泣く声を掻き消すように微 6409

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