【薫零】零フィーチャースト「薫くんは明日は撮影じゃったかの」
「うん、スポーツウェアのカタログのね。モデルの仕事…って言えるほどでも無いけど」
でもサーフィン関係の物も扱ってるブランドだし楽しみなんだとはしゃいで見せたあと、明日何かあった?と薫は首を傾げた。
「我輩の衣装デザインが行き詰っていての。明日、晃牙やアドニスくんを呼んで意見をもらうことになっておるのじゃよ」
「あぁあれ次は零くんなんだ」
「薫くんも来られればと思ったんじゃが」
「あー…うーん……」
「嬢ちゃんも来るぞい」
「だよね……」
アイドル個人にフィーチャーした特別衣装の製作は、基本的にプロデューサーに任されている。そのデザインの話ならば彼女がいるのは当然のことで。
「薫くんはお仕事ってことでよいかの」
「ソレデオネガイシマス」
行きたそうな行きたくなさそうな複雑な表情を浮かべる薫に零は溜息をついた。
「まったく。いつまでも逃げ続けられるものでもなかろうに」
「いや、別に逃げてるわけじゃ?明日撮影があるのは本当だし?」
「午前中だけと聞いておる」
「なんで知ってるの……でも撮影が押すことだってよくあるし不確定な予定で振り回すのも悪いじゃん」
「そういうことにしておこうかの」
やれやれという表情を浮かべつつ、零は内心でほっとしていた。
誰にでも気さくに接し、女の子大好きと公言する薫が唯一苦手にする"女の子"。いや苦手なのではない、大切にしすぎて接し方に戸惑ってしまうくらい、薫にとって"特別な女の子"。
一方プロデューサーの方も薫への態度は他のものとは乖離していて、誰にでも分け隔てのない彼女が"男"として認識している唯一のように思える。
つまり、零が一押しすれば、きっとこの二人はくっつくのだ。
そうわかっているのにそれをしたくないと思ってしまう自分にこそ零は溜息をつきたくなる。"人の気持ち"というのはこんなにもままならぬものなのかと微かに眉を寄せてから顔を上げた零は、思いがけず近くに薫の顔があってびくりと震えた。
「な、なんじゃ」
「明日その場には行かないけど終わったら連絡頂戴ね、迎えに行くから」
「うむ?迎えと言っても事務所じゃし寮からすぐじゃよ?」
「早く終わったら外でご飯食べて帰ろ」
「構わぬが」
対面して会話することには腰が引けてもやはり一目だけでも見たいのだろうかと考えるだけでずきりと胸が痛む。
その表情に薫が不機嫌そうな顔をしているとは気づく事も無く、ではまた明日のと取り繕うように手を振った。
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薫くんはプロデューサーちゃんに会うのが気まずいのは確かだけど恋心なわけじゃなくて、朔間先輩が切なげな表情とか色っぽい顔してるのを『明日いる誰か』のせいだと思っている、という。薫くんサイドも書こうとしてたけどそう言ってるといつまでも書かないのでここで言って終わり(笑)。