【薫零】花見一仕事終えてから事務所で次の台本を読み込んでいたらいつの間にか数時間。どうりで集中力が無くなるわけだと気晴らしに散歩をしていたのだが。
「うわぁ」
近所の公園に植えられた木が桜だということを、花が咲くまで気づいていなかった、いや意識もしていなかった。
たまたま人の少ない時間に来られたおかげもあって視界を幻想的なピンクに染められると異世界に迷い込んだよう。
「零くん誘ってみようかな……??」
その光景を見て真っ先に浮かんだのは相棒だった。この景色を見せたい、一緒に見たい。零が初めてこの光景を見るとき隣にいるのは自分がいい、と。
「……桜が綺麗だから見に行こうって誘うのは普通だよね?」
記憶を辿って零の今日のスケジュールを思い出す。確か今日はロケだと言っていたが早朝からだったしそろそろ終わる頃。帰りに一度事務所に寄ると言っていたから、急いで戻ればちょうど会えるはず、と。脚を速めれば案の定、エレベーターホールで零と出くわした。
「零くん!」
「おぉ薫くん奇遇じゃのう」
「お疲れ様。仕事終わった?」
「うむ恙無く終わって後は一言報告したら終了じゃ」
「よかった」
事務所に向かって歩きながらどう切り出そうかと思案する。
「薫くんは何処かに行ってきたのかえ?」
「うん、ホン読みしてたんだけどちょっと疲れたから気晴らしに散歩してきたとこ。桜が綺麗に咲いてて、」
いい感じだったからこのあと行かない?とさり気なく誘おうとしたところで。
「おおそうじゃそうじゃ、桜と言えば桜餅を頂いたのじゃ」
「桜餅?」
「今日のロケ先の和菓子店の主と意気投合しての」
「へぇ。……凄い量だね、店主って男の人?」
「事務所のみんなにあげようと思ったんじゃが薫くんもどうじゃ」
うんありがたく頂くよと笑みを浮かべながら、一度切り出して流されてしまった誘い方はもう出来ないなと薫は密かに嘆息する。
「今日のロケは和菓子関連だったの?」
「そういうわけでも無いんじゃが地域の紹介として商店街にも寄ったんじゃよ」
「桜餅は今の季節にぴったりだもんね。っていうか桜が今ちょうど見頃だもんなー。ロケ中も桜見かけた?」
桜の話に上手く持っていけたし、これで見たと言われても見てないと言われても公園に誘う流れに持って行くぞと決意をしたところで。
「見かけたぞい、衣料品店の敷地に立派な桜の木があってのう。そうじゃ衣料品と言えば次の我らの仕事はビジネススーツらしいの」
「あ、うん、聞いた聞いた。スーツだなんて緊張するけど気が引き締まるよね」
桜の話ではなくなってしまった!という薫の内心の焦りとは裏腹に、零は嬉しそうに次の仕事の話を続ける。
卒業後の零は、本当にどんな仕事も楽しそうに臨んでいて。そんな零を見ていられるのは薫も嬉しくて。零が楽しいならそれでいいやと諦めかけたところで。
「その木を見上げたとき、隣に薫くんも居たらいいなと思ったんじゃよ」
「え、なんて?」
少し上の空になっていた間に話が戻っていたらしい。
「聞いてなかったのかえ」
薫の反応に拗ねたような顔をして、もうよいと事務所のドアを開けようとする零の腕を慌てて掴む。
「見に行きたい!」
「いや無理に付き合ってくれんでも」
「無理じゃない!あとそのあと俺も連れて行きたいとこあるから付き合って!!」
「お、おう?」
薫の勢いに目をぱちんと瞬いて若干後ずさった零が、『まあお互い様ならちょうどいいの』と笑った。
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薫くんが桜に誘う台詞だけ全然出ないんですよ……!!45分くらいタップしまくってたのに……!!
初めてスマホから打ったら打ちにくい……後でパソコンから見て直すかもです💦