【薫零】ロミジュリ1 ─ お疲れ様です、お先に失礼します! ─
「お疲れさまでした」
一人また一人と帰って行って気づけば残るのは零と薫の二人だけ。
あとちょっとで何かが掴めそうでもう少し練習したかったが自分たちが居てはスタッフも帰れず困るだろう。ESビルの練習室を今から取れるだろうかと考えながら帰り支度をしていると薫がつつつと寄ってきた。
「零くん」
「なんじゃ?」
「俺もうちょっと練習したくって。事務所の練習室ネット予約したんだけど零くんはもう帰る?」
「……すごい」
「え、何が」
同じことを考えていたことも、ネットで予約を出来るということも、そこに自分を誘ってくれるということも。
「いや、我輩ももう少しやりたいと思っておった」
「だよね、あと少し詰めればなんか掴めそうな気がするんだよ」
なんかどうも歌と振り付けと芝居が自分の中でマッチしないんだと溜息をつく薫に、本当に同じようなことを考えているのだなと零は笑みを浮かべる。
「薫くんの向上心高いところ好きじゃよ」
「え、何急に」
「我輩から見れば薫くんはもう完璧に役を掴んでるように見えるのに」
「そっくりそのままお返ししますー。全く、零くんと同じ役とかどう考えても絶対比べられるじゃん」
「嫌かえ?」
「好き嫌いの問題じゃないの、プレッシャーが凄いの!」
「今に始まったことではないと言うに」
ユニット活動の時だっていつも隣に立っているのにと首を傾げれば、薫が呆れ顔で零を見つめた。
「ユニットの時は"同じ役"じゃないでしょ。別だからこそいいって思えるから開き直れるの」
「ふむ?」
「ついでに言うといつもだって別にプレッシャーが無いわけじゃないからね!零くんの隣に立つのはいつだってプレッシャーあるからね!ただそれを楽しめるようになっただけで」
でも役者としてだとまだ自信も追いついてないから楽しめないと、周りには聞こえないような小さな声で、でも零にはちゃんと聞こえるように、零してくれるから。
「ふふふ……」
「え、何急に」
「頼られてるみたいで嬉しいのうと思って」
卒業後、実力でも精神面でもぐんぐん伸びて隣に並び立ってくれたことが嬉しい一方、手を離れてしまったようで少し寂しい気持ちもあったのは否めない。けれど隣にいるからこそ聞ける言葉もあるのだということが嬉しくて。
「同じだと思うぞい」
「?」
「芝居でも、いつものユニット活動でも。薫くんと我輩に人が求めているものは違うじゃろ。同じ役同じセリフの中でも、違うものを見せてこそ期待に応えられるのでは無いかえ?」
だからいつもと違うと考えることも無かろと笑う零に、それもそうかと薫も素直に頷いて。
「あーでもやっぱ零くんのロミオより俺のロミオの方が好きって女の子たちに言われたいじゃん!」
「……薫くんは結構貪欲だよな」
思わず素に戻った零がぼそりと呟いた。