手の中の光 どたん、ばたん、と歩く度に大きな音が立つ。古い木目の床を、陽気な足取りでふらふらと歩く。廊下ですれ違う人々の顔が明らかに怪訝そうだが、そんなの構いやしないとばかりに鼻歌なんかも歌ってみせる。静かな病院の中では、場違いなほどの賑やかさだ。
先ほどまで花街やら飲み屋やら思うままに足を運んだ余韻が抜けず、それに比べてなんてしみったれた場所なんだと、内心どうしようもないくだを巻く。それでもこうしてここへ寄るあたり、我ながら律儀である。そう思うと、また鼻歌の調子が上がった。飲みかけのとっくりを片手で担ぎ直すと、酒がちゃぷんと返事をする。足が浮くような高揚感を味方につけて、白石由竹は病院の中を悠々と歩いていた。数日に一度は、ここへ顔を出すようにしている。
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