思し召し距離 踏んだ地面の感触が柔らかい。根雪が解け、固く凍っていた地面がふんわりと緩み、やがて新芽が若草色の毛布を敷き詰める。惨淡としていた山がところどころ色づき、朗らかな空気が匂い立つ。
アシㇼパは杉元と共に、春の山を歩いていた。北の大地にもようやく春と呼べる風景が広がっていた。
淡い水色の空が広がる。穏やかな天気はここ数日続いていた。時折吹く風は涼しいものの、降り注ぐ日差しは地上の万物に行き届くように、明るくて強かだ。空を見上げては深呼吸をし、萌え出る若芽を見ては目を細める。何度噛み締めても足りないくらい、冬を超えた喜びは新鮮に湧き上がる。くすんでいた山が少しずつ鮮やかになっていく様は、飽かず眺めていられた。
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