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    なまたまご

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    なまたまご

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    コスメカウンターに居るやけ“とお客さんの新卒OLにょたんばちゃんの話1。出会い編です。

    この話は、小ゆずさんによるやげんばの設定をお借りした三次創作です。

    片側のオレンジは、愛を知っている。思い返せば、俺に初恋など無かったかもしれない。強いて挙げるとしたら、高校の文化祭で女装した自分だ。別に、ナルシストって訳じゃない。単純に、心から可愛いと思った記憶はそれくらいだったというだけだ。昔から、外を歩けば女の子みたいねと言われた。今でもその当時のアルバムを見返すと、言われなければ幼女に見える。さすがに成人もとっくに通り過ぎた今となってはそこまで女に見える、といった容姿ではないけれど、騙そうと思えばいくらだって簡単に騙せる。思春期で絶頂を迎えた中性性を失った代わりに、それを補える知識と技術を手に入れたからだ。その腕と頭で飯を食ってきて、もう数年になる。俺の人生の方向性を決めてくれた佐藤君には感謝が尽きない。彼の提案が無ければ、俺のクラス展示は女装喫茶にならなかったし、俺も自分の生きる道を知ることはなかっただろう。
     ああ、そうだ。俺は思ってもいないことを言っている。俺は佐藤が嫌いだった。無駄にいつもやかましく、大して仲が良かった訳でもない俺に、自分の好きな女子のメールアドレスを聞いてきてほしいと頼んできた厚かましい奴だった。今あいつは何処で何をしているのだろう。佐藤よりも俺とメールがしたいと言ってきた小川はもう結婚しているだろうか。そんな俺は、そこそこ栄えた街の駅ビルの一階で、来る日も来る日も化粧品を売り捌いている。所謂ビューティーアドバイザーという奴が、俺の肩書きだ。売り上げ成績はそこそこ、ノルマをこなすことに苦はしていない。悲しいことに成長期が終わっても最後まで伸びることのなかった身長と、儚い女性性を残した顔が功を奏した。男であるのに女の同僚よりも警戒されにくく、客から俺に話しかけてくることも多かった。それでも、俺はこの仕事を続けることに些か不安を感じていた。自分は、このままでいいんだろうか。この仕事を果たしてずっと続けられるのか。クォーターライフクライシスという奴だ。くだらない悩み事だ。それに答えなんてない。生とは死とは、それに形式的な決まった答えがないのと同じで、悩むだけ無駄なのだ。それでも、毎日ぼんやりとその不安に付き纏われながら生きている。今日も勿論その通りで、平日ともあって緩やかな客の流れを眺めながらぼうっとしていた。最近、仕事で漁った女を抱いていないからかもしれない。潤いのない生活は、人を無駄にネガティブにする。けれど、そんな俺にも奇跡は突然起きた。どんなありきたりのラブソングも出会いは突然だと宣うが、本当にそうらしい。

        ◇

     27にもなって初恋をするというのは、どうなのだろう。いや、違う。まだ恋ではない。ただ少し、この女は心から可愛いと思える、と思っただけだ。それを恋とは言わない。俺は初めて、つい今さっき自分の心を掴んだ女と、店のカウンターを隔てて向かい合っていた。
    「なるほど、つまるところお客様は、はじめてのメイク、それに加えて新社会人らしいメイク、について悩まれているということですね。」
    「…はい。」
    俺は腹の中とは全く真逆の丁寧な笑顔を作った。女はしおらしい様子で首を竦ませている。彼女のその様子は、恐らく自信の無さから出たものだろう。
     彼女、俺の目の前にいる名も知らない若い女は、つい先ほど店に入ってきた客だ。ぼうっとしていた意識でも、そいつがこちらへ足を踏みれた途端にハッと目が覚めてそれに気付かされた。眩い光と花の香りが俺の前面から吹きつけるような錯覚すら覚えた。それは、その名も知らない女の華やかさが所以だ。俺はさぞ仕事に打ち込んでいる、というフリを始めてその傍ら、吸い寄せられるようにして女の足取りを目で追った。御伽噺のプリンセスさながらに、彼女の歩いた後には花が咲き乱れる幻覚すら見た。こんな風に回想をしていると、いかにもその女が派手な容姿をしているように思うだろう。けれどそれは間違っている。その女は自分が着ているというより、着られているような新卒のスーツを身に纏っていた。歩き方なんて、履き慣れていないらしいヒールでよろめくようにして歩くから、酷いものだ。ならば顔はさぞ目を引く化粧をしているのかと言えば、それも否。リップも塗らず、チークも乗せられていない素肌で、当然アイシャドウやアイブロウなんてもっての外のどすっぴんである。そんなどう考えても芋臭いはずの女が、華があると感じさせるには対照的な女がなぜこうも、華を纏っているのか。俺は通り行く男がこの女に惹かれるであろうことを見越して、その目を張る様を見て共感しようとした。けれど、その男は本来なら立ち止まるはずの美しい花に気づかず通り過ぎていく。俺は首を傾げた。こういうこともあるか。ならば女ならどうだ。自分達もああであったら、と羨望や嫉妬の眼差しを向けざるを得ないだろう。そう思って通路を歩いてきた女達に横目を向く。しかしその女達は何事もなく通り過ぎた。なぜだ、おかしい。なぜ誰もこの女の輝き気づかない?俺は疑問で頭が埋め尽くされるままに、店内をうろつく女に近づいた。
    「お客様、何かお探しでしょうか。」
    「あっ…その俺…あっ私…」
    女は思っていたよりも低い声だった。けれど澄み切っていて、可愛らしさも見出せる不思議な声色をしていた。
    「メイクのこと…何もわからなくて…でも買わなきゃいけなくて…ど、どうしたらいいのか…。」
    「ほう。」
    「あっ…その、すみません…。」
    女は忙しなく小さく頭を下げた。まるで木を突く啄木鳥みたいで面白おかしかった。俺は啄木鳥なんて見たことがないけれど。お陰様で、営業スマイルを心がけることなく笑みが溢れる。
    「いえ、大丈夫ですよ。よろしければ私がご案内させて頂きますが…。」
    「え、あ…いいんですか。」
    「はい、では、まずこちらで少しお話を窺わせてください。」
    俺はいつも通り営業スマイルを浮かべて、女をカウンターへ来るよう促した。女はよっぽど緊張しているらしく、頬を更に高潮させて頷いた。男と対面していることに焦っているのか、それとも未知の世界にいることへの恐怖心なのかどちらかわからない。どちらもなのか。いずれにせよ、俺はこの女の抱える華の謎を解き明かしたい。それすらわかれば後は…まあ成るようになる。リップとアイシャドウ、両方は無理でも片方でも買わせれば上出来だ。そうして俺は獲物を自分の城へ招き入れた。

        ◇

     簡単にメイクの手順を説明して、それに対応する自社商品を机に並べた後、俺は向かい合った女が持つ謎の華について段々と解明に近づいた。
     この女は、黄金に実った麦のような髪をしている。ファッションで染めるようには見えないから、恐らく地毛だろう。眩いほどに白くハリのある肌は、手の込んだスキンケアの賜物というよりは若さが大きく思える。この女は化粧について一切知らないらしいから、化粧水も乳液も無頓着に使っているのだろう。ただ肌の水分量は多く思えるから、高くて良いものというより安価でそこそこなものを一度に多く使うタイプだと想像できる。桜色の頬はチークというよりも血色によるもので、桃色の唇もその通りであると見た。つまりは…なぜこれで華が演出されているのか全く不明であるということだ。パーツの一つ一つは形が整っている。それが大きな要因なのだろうか。
    「あ…の…。それで俺、いや私…は何を買ったらいいんですか。これ全部、買ったらいいですか。」
    働き出す前の新卒なら、そんなに金も持っていないだろう。俺たちの前にある商品は、残念ながらそんなに安価ではない。自分には難しい、不相応だ。この女はそんな思い出いるのかもしれない。俯くような仕草はそんな申し訳なさからなのか、それとも自分に自信がないからなのか。彼女の頼りなさ気に自分の左手首を掴んでいる右手に、気づかれないように目を細める。もし後者なら、あんたは可愛いよ。背中を丸める必要なんてない。今そこを通った腹出しの服を着た澄し顔の女よりよっぽど可愛い。今はまだ、そんなことを口にできないが。
    「うーん…お客様のお話を聞いた感じですと、一度一式は揃えられた方がいいかと思います。それは別にこれらでなくとも構いませんが。」
    「一式…。」
    「高いですよね。」
    「えっ、あ…いや…。その…。」
    いよいよ女は背中をまんまるくして、小さく萎んでしまう。絞り出すような声に、少し同情した。それは俺にも心があるからなのか、この女の不思議な魅力に絆されているからなのか。
    「お客様、秘密ですよ?」
    俺は少し演技がちに腰を低くして、口持ちに手を当て、囁くように言葉をかける。
    「え…」
    女は戸惑った表情をしたが、俺に合わせて身を屈めるようにした。
    「うちのものと同じようなもので、でもうちより安いもの、ドラッグストアとかで買える奴、教えますね。」
    「え、え…。」
    「しー、静かに。内緒ですから。でもその代わり、アイシャドウはうちで買っていきましょう。ドラッグストアでは買えない可愛い奴。ね、どうですか?」
    「可愛い、やつ…。」
    「ええ、私も一緒に探しますから。」
    「…でも俺、仕事用のしか…買うお金なくて…。可愛い奴、買うお金…。」
    女は翡翠のような瞳を潤ませて睫毛を伏せた。悲壮感あふれる声色から、セールスを断る大抵の客とは違う純粋な素直さを感じる。俺が先程から妙に優しくしてしまうのは、こういうところからかもしれない。
    「そうですか…。でしたら、今日は一番可愛い奴、ではなくお仕事にも使えてニ番目に可愛い奴、を探すのはどうですか。」
    「え…」
    「お仕事をされて、お金が貯まったら一番可愛い奴を買うんです。そうしたらお仕事をするのも楽しくなるでしょう?」
    女は目を輝かせた。なんて騙されやすい…。その純粋さに呆れてしまう。お仕事にも使える二番目に可愛い奴?なんだそれ。なら普通に全てドラッグストアで買ってしまった方が安上がりだ。ここでわざわざ何かを買う必要はない。わざわざ馬鹿な店員が、俺が自分に安いものを教えてくれると言ったのだから。それに、ちゃっかり次の来店の予定まで勝手に決められている。せこい手口だ。
    「あ…じゃ、じゃあ…二番目のやつ、探します…。」
    「はい、僕…いえ私もよろしければご一緒しますよ。」
    この女の一人称は私ではなく俺らしい。変わった女だ。俺が一人称を間違えたのはわざとだ。相手に親近感を与えるために相手と同じ行動をする。ミラーリング効果という手法は、俺が日常的に使う商売道具だ。女はパチパチと瞬きをして俺を見た。
    「申し訳ありません、私もついいつもの癖で間違えてしまいました。」
    女は柔らかく微笑んだ。その様は花が咲くような穏やかさと清廉さ、そして愛らしさに溢れていた。きっと俺の言ったことを、冗談だと思ったのだろう。可愛い、この女はやっぱり可愛い。胸に魚の小骨が引っかかったかのように違和感がある。頭の中では、女が微笑んだ様子が何度も繰り返し蘇っている。こんなことは初めてで、その不可思議な現象に一瞬だけ動揺する。
    「では行きましょうか。幾つか探して、またこちらに戻って来て、試して決めましょう。」
    「はい。」
    俺は動揺を飲み込んで、笑顔を浮かべた。先にカウンターから出て、自分の後に続くように女を促す。女は従順な犬のように、とことこと俺の後ろをついて歩いた。
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    なまたまご

    TRAININGラノベ作家大倶利伽羅先生と家事代行にょたんばちゃの話2ndシーズンドキドキ温泉旅行編
    序です。

    ※この話はますおさんによる設定をもとにした三次創作です。
    山姥切と初めて会った日、鶴丸は山姥切を俺に舞い降りた天使だと形容した。今となって考えると、それもあながち間違いではなかったかもしれない。

        ◇

     山姥切と出会ってから気づけば2年ほど経っていた。俺の初めてのヒット作、『俺ん家のエロすぎる無表情エルフメイドをどうにかしてくれないか』通称えるどうはアニメ化が決まった。毎度頭を悩ませられるお色気や、恋愛要素を増やしたことが功を奏したのだ。巻数は8巻に届き、発行部数も伸びて毎月の貯金額が少しだけ増えた。全ては順調、なのだろう。そう全く思えないのは2年もこの女と居るというのに、いつまでも振り回されているままであるからだ。それは恐らく…俺がこの女に好意を抱いているらしいと自覚したからという原因も関係しているだろう。誠に遺憾である。しかし、だから何だというのだ。俺はそれをあいつに告げる気はなかった。言ってどうなる?あの女が作る飯は嫌いじゃない。あの女がただこの部屋にいる時間がもはや当たり前だ。無闇にそれを壊すくらいなら、何もしないほうがいい。
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